神は、ラーとその他を創り賜うた
聖域で、ティーガテイとアヌビスを見送って直ぐ、空を切り裂き、レイスとラムガルが現れた。
「レイス、ラムガル。おかえり」
ゼロスが声をかけると、レイスが気持ち声を弾ませながら言った。
「ゼロス、手のある犬を創ったと聞いた」
「ああ、アヌビスの事? マスターが行方不明になったらしくて、追跡用にね」
ゼロスのその言葉に、ラムガルがニヤリと邪悪に微笑んだ。
「ゼロス、なら今度は手のあるうさぎを創って」
レイスの頼みの真意に気付いたゼロスは、ジトリとレイスを見て言う。
「……良いけど、その㈱サンタクロースって言うところに入るかどうかは、本人次第だからね? 強制は駄目だよ」
「いい! 創って!」
ーーーこうして、2体のうさぎの顔を持つ、ウェルトとウェルヌが出来た。
聴覚による索敵と、脚力による俊敏さを誇る、うさぎの神様達だ。
それを見てレイスが一言。
「……何かが違う」
「知らないよっ!!」
ゼロスが強い口調で言い返しす。
レイスは追加の肉をゼロスに渡しながら言った。
「ゼロス、もう少し練習するべき。もふもふ成分が足りない。様々な動物を元に、色々試作するが良い」
「……もー」
ゼロスは唇を尖らせながらも、その肉を受け取った。
ゼロスは真剣な顔をしながら、その肉塊を捏ねていく。そして、鳥の顔を持つラーやホルス、それにトト。狼の顔を持つセトに、羊頭のクヌムを一気に創り上げ、少し動物シリーズに飽きたのか、人間の形をしたオシリスとイシスを創った。
それを見て、レイスが一言。
「……ゼロスは、とても上手。だけど、今回は少し検討させてもらう」
……“少し検討させて貰う”とは、つまり“適用しない”と言う意味の社交辞令なんだ。
ゼロスは困ったように笑いながら頷き、それらの中に神の種を埋め込んだ。
ーーー……と、その時。空から一つの影が舞い降りてきて、ゼロスとレイス、それにラムガルの前に跪いた。
ゼロスが声をかける。
「ルシファー。どうかしたの?」
「はっ、突然の訪問で失礼します。レイルの奴が姿を暗ましまして、畏れながらご存知無いかとお伺いに上がりました」
その言葉にラムガルは背を向け、ゼロスは溜息をついた。
「またそれか。……ティーガテイもそう言って来て、今捜索に出ている。すぐ見つかるよ」
「……そうですか」
眉間にシワを寄せながら、重い口調で答えるルシファーに、ゼロスが尋ねる。
「何か気がかりでも?」
「……先日、鎮魂祭にあたり、その魂を呼び出そうとしたのですが、初めてそれに失敗しました。原因は、レイルの魂に含まれる欠片が集められなかった為です。……何か、良くないことが起こっていなければ良いのですが」
「「……」」
ゼロスとラムガルが無言でいる中、レイスが口を開いた。
「……なるほど、魂とは即ちマナの集合体。ソレを呼び寄せられないと言う事は、何かに封印されているという事。ーーーまさに、今ゼロスがしようとしている事と同じ。ゼロス、負けていられない。こちらも早く入れ物を完成させないと」
「「「……」」」
その答えまで辿り着いて、欠片もマスターの心配をしないところは、流石レイスだ。
話の腰をポッキリ通られ、皆が閉口するその場に、一人のハイエルフが通りかかった。
ルシファーは反射的に背筋を伸ばし、そのハイエルフに頭を下げて挨拶をした。
ハイエルフは、そんなルシファーに笑いかけた。
「そのように改まらずともよろしいでしょう。ルシファー殿」
「あ、……いえ、かつては先生と呼び、世話になった身です。代が変われどその恩は忘れることはできませんもので……」
ハイエルフは嬉しそうに言う。
「そうですか。貴方達のような者を見ていると、人間達も捨てたものでは無いと、感じずには居られませんね」
「はは、オレはもう人間ではありませんがね」
ハイエルフの言葉に、ルシファーは照れくさそうに頭を掻いた。そしてふと言う。
「……“貴方達”? 他にも、ハイエルフの里に人間が来たのですか?」
「ええ、我等の技術を学びたいと、遥々旅をして来た親子でした。ずいぶん真面目で、様々な知識や技術を吸収していきましたよ。神々への挨拶は畏れ多いと控えていましたが、神々の創世神話については、ずいぶん興味深く聞いていましたね」
ルシファーは、嫌味のない笑顔で頷いた。
「先生達が褒める程だ。随分出来た者だったんでしょうね」
「ええ、父親がシヴァ、幼い娘はガネシャと名乗っていました。何処かであった際は、宜しく伝えておいてください」
「分かりました」
ハイエルフとルシファーはにこやかに挨拶を交わし、ハイエルフは再び森の中へと消えて行った。
そしてルシファーもその翼を広げる。
「では、レイルの件に関しては、オレの方でもまた探してみます。失礼いたしました」
「うん。こっちで見つかったら、またレイスから目に連絡を入れるよ」
飛び立つルシファーに、ゼロスは声をかけながら見送った。
ルシファーの姿が消えた時、レイスが拳を握りしめながら言う。
「ゼロス、誰かわからないけど負けてられない。レイスの入れ物を創ろう」
「えー、マスターの魂とレイスの持つ力の質量なんて比較にならないでしょ? 米粒と太陽以上の差があるんだけど」
「頑張れば、人類でさえ月に到達した。ゼロスなら、太陽なんて目じゃない」
「……そういう意味でもないんだけど……」
ゼロスはそう言って溜息をついた。
◆
『……わしに下れじゃと? 黄金の炎すら見たことのない若造が、バカにするでないわ』
職人達の集まるとある街の片隅で、男と幼い少女が話をしていた。
「馬鹿になどしていない。鍛冶の女神ブリキッド、あなたは勘違いをされている」
ブリキッドは面倒臭そうに男を見る。
『なんじゃと?』
「火力があれば、確かにミスリルやヒヒイロカネは加工できるだろう。だが鍛冶の本質とはとはその技術だ。……その技術を極めれば、ミスリルやヒヒイロカネの武器すら破壊できる物を、作ることができる」
ブリキッドが身を乗り出した。
『……ほう? 続けてみろ』
「かつて“雪銀のターニャ”と呼ばれた科学者が居た。そのものが考え出し、設計した鉄塊は、大地を抉る威力が出せたと言う。……ただ、それを作るための部品は精巧かつ緻密。万分のミリ単位の正確さを要するため、現物の完成はされなかった」
『……そんなことか。下らぬな。剣の一本とて、極めればその位の緻密さを要するわ』
肩を落とすブリキッドに、男は笑った。
「完成物の持つ威力が違う。……八百万の神の強みは、百年を要するそれを、一度でも完成させれば、後にそれを、瞬時に複製できる事だ。グレイプニルだって、もう思いのままに作り出せるのだろう? ただあれはあくまで繋ぎ止める鎖。しかしもし、これを完成出来れば、貴方は守りも攻めも併せて、神々の中に於ける“最強”の一角となる」
『……』
自身の力を求める、ブリキッドの目の色が変わる。
「全ての攻撃から守り、全てをつなぎとめるグレイプニルは既にある。次は万本の名刀を、一瞬で地に焼き付く影と出来る道具を、作らないか?」
「……。ふん、お前に鍛冶が出来るというのか? わしを最強の一角とさせる事が」
男は首を振った。
「正確には、俺では無い」
そう言って、男が目をやると、通りの角から一人の少年が顔を覗かせた。
その少年を見た、ブリキッドの目が見開かれる。
「あれは俺の子、ガルダだ」
『……この子は』
「ドワーフの血が混じった、俺の子。既に俺の元へと下った、炎の神と知識の神、そして鉱石の神の祝福を受けさせた。まあ他にも色々と細工はしてるが」
ガルダの才能を、本能で見抜いたブリキッドが少年の手に触れる。
『……この子なら、……確かに出来るやもしれぬ』
「そうだな。八百万の神とは、そのひと柱だけでは大した力は持たない。だが、こうして人の子を依り代にすれば、遥かな力を生み出せるのだ。ーーー……そう、創世神の生み出した“黄金の炎”等にお前はもう、縋る必要など無いのだ」
男の言葉に、ブリキッドが嬉しそうに笑った。
『面白い事を考える……』
「俺に下れ、ブリキッド。そうすればこの子をやる。そして最強を手に入れろ」
ブリキッドが少年に微笑む。
『……のう、ガルダとやら。鍛冶をしてみるか?』
少年は、純粋な曇りない笑顔で頷いた。
「うん!」
ゼロスもレイスも過去に創世した物は、気が向かない限り全く見てません(´・ω・`)
今回はエジプト神話と、インド神話からお名前をお借りしております!
ブクマ、評価、感想に誤字報告ありがとうございす!(*´∀`)
本当に活力にさせて頂いております!!




