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番外編 〜聖女と勇者の小さな恋の物語②〜

 《イム視点》


 こんにちは。

 カンナ改めイムです。


 それでは私の『なんでこうなった!?』な人生を、少し紹介したいと思います。


 まずは【奇跡の力】です。怪我や病気を治すことが出来ます!。


 これは五歳の頃から使えたけど、昔も今も私は人体の仕組みなど、当然わからない。

 だから【奇跡の力】は、私自身も奇跡の力としか言えないんだ。

 これを使うには私がこう……手を人体にかざして、私の中にあるもやもやふわふわしたものを、病人や怪我人に流し込むイメージをします。

 するとそれは、ほんのりと光りながら、人体に流れ込みます。


 偉い神官様が言うには、これは濃厚なマナの流れらしい。

 それを流し込むことによって、根源的なエネルギーを手に入れた人体は、本来のあるべき状態にチョッパヤで自己修復し始めるとの事。

 今の私にかかれば完全に死んだ人と、老衰の人以外はほぼ完璧に復活させられますよ。


 と言うわけで、はい。治癒完了でございます!

 ……じゃないよ。


 いやね、初めて実験的に使った、小鳥ちゃんの怪我を治してあげる分には良かったよ。

 幼い私も『良かったね』とニッコリしたもんだよ。


 だけど王都に来て相手させられるのは、末期症状で悶え苦しむ人や、皮膚のただれた人や、腕や足なぞ可愛いもので、頭から骨の突き出した血みどろの人……。ひぃいぃぃ!!?

 五歳児に見せる物じゃないよね?

 私の常識間違ってる?

 悶え苦しむ人達の部屋に、泣き叫ぶ幼女。……地獄だよ。

 どんなプレイだよ。ニッチすぎるよ。


 そんな訳でそれでも仕方ないから、幼い私は泣き叫び、震えながら治療をした。

 そんな必死でやってるのに、高名なお医者様からは『この無学の小娘が』と、嫉妬に塗れたお言葉を頂きました。

 五歳児に嫉妬とか……情けなすぎるよ、おじいちゃん。


 そしてたまに入る御神託。

 ゼロス様の聖声を聴くのは好きだったから、コレは正直待ち遠しかった。


 だけど、それを伝えた際の人の解釈にはウンザリだった。


 “今年は、りんごと小麦が豊作になる(レイスがマナの散布量間違えました)”


 人々はこぞって神託のあった作物を植えた。

 神託通り通年の三倍の収穫量があり、価格相場は崩れ、失業者が続出した。


 “森の動物達から病が拡がる(レイスの創った細菌兵器を、誤って精霊が逃してしまった)”


 人々は森ごと動物を焼き払った。

 そうじゃないでしょう。可哀想に。

 動物愛護団体は、私のせいとか言ってるし。


 私の中で最悪だったのがこれだ。

 “五年ほど作物の不作が続く(レイスが魔法実験に失敗して、余波が発生しました)”


 そして、神託のあった年、隣国の砂漠から突如瘴気が吹き出し、人は勿論魔物達ですら住めない【死の砂漠】と化した。


 だけど瘴気の汚染は砂漠だけにとどまらず、大気に乗って世界に拡散された。

 神託通り、世界恐慌に陥る程の天災となったのだ。

 ただ私のいるこの国を含め、聖女様と私を信望していた国には、食料の備蓄があった。


 そして備蓄と信仰の無かった国から、上がるわ上がるわ、不満の声。

 とうとう私が『瘴気を発生させた張本人の魔女』だとか言い出す始末。


 そんなわけあるか! それで病人、怪我人が出たら、誰の所に来ると思ってんの?

 私だよ!


 私は、ため息をついた。もうイヤだ。もう伝えたく無い……。伝えるのコワイ……。



 ―――コンコンッ



 私が自室の柔らかいソファーでうなだれて居ると、ノック音が響いた。

 私は項垂れたまま、気怠い声で返事を返した。


「どうぞ」

「失礼いたします。お茶をお持ちしました」

「ありがと」


 入ってきたのは私の世話係のシスター、ティアニスだった。

 ティアニスは聖女()がおっさんだと知る数少ない人物だ。


「お疲れですか? 聖女イム」


 私はダレたまま、チラリとティアニスを見る。

 彼女とは……まぁ、仲の良い方だ。だけど、イムイムイムイム……みんな私をイムと呼ぶ。

 イムと名乗ってるのだから仕方ない。

 ゼロス様にそう名乗るように言われてるのだから、仕方ない。


 だけど、もう誰も私の本当の名を知らない、知ろうともしない。

 そう思うと、じんわりと言いようの無い虚無感が、胸の奥から湧いてくるのだった。


 私は誤魔化すようにダルい身を起こした。


「神託があったの。司教を呼んで」

「まぁ! なんと?」

「―――戦に備えろ、と」

「い、戦!? 一体誰と?」


「さぁ? 魔物の軍団でも迫ってるのかしら?」


 神託に対する人の解釈はもうウンザリだ。


 ゼロス様は尊い。

 私達を救おうとご神託を下さる。

 だけど、人は愚かだ。


 もぅ、ウンザリだ。




 それから私達は神託の通り、武器を掻き集めた。

 誰と戦うのかも分からぬまま。


 私は大量の武器の山の前で、城の兵士たちを集め宣言する。


「―――神託により、我々に戦いのときが迫っております。まだ見ぬ敵は強大で、死地に赴く戦士達は不安ばかりが募るでしょう」


 兵士達は、じっと私を見上げてくる。

 ちゃんと聖女っぽく見えてるかなぁ? たまにこのような演説をして、士気をあげておくのも聖女の仕事なのだ。


「―――しかし恐れないで。神は常に見守り、戦で傷ついた体を癒やすため、私を遣わしたのです。どうか戦士達よ、その力を持って勇敢に戦い抜いてください!」


 ―――っうおぉぉぉぉおおお―――――――――!!!


 一拍後、兵士達から野太い歓声が上がった。

 まぁ、いつもの事だ。

 私は手で祈りの印を刻むと、スカートの裾を翻し歩き去ろうとした。


 ――――――……カンナ!


 !?


 野太い歓声に紛れた、小さな声が聴こえた。

 だけど私が聞き逃すはずがなかった。だってそれは、―――……


 私の名前!



 私は作法や見せ方などを忘れ、反射的に声の方に振り返った。


「―――っ」


 声の方を見た瞬間、私は言葉を……いや、息を詰まらせた。

 内心では絶叫してましたけどね。


 アデル―――っっっ!! ぎゃあぁ―――!! 大っきくなってる!!

 まじか! まじで男前! さすが小さい私が見込んだだけはあるよ! 筋肉スリスリしたい! いいねぇ、その胸筋と上腕二頭筋! 筋肉フェチじゃないのにやばいわぁー。あぁ。匂いかぎたい……


 だがその時、ふと私の脳裏を過去のお花畑事件がかすめた。


 ホゲっ!!


 私は、黒歴史をまざまざと思い出し悶絶した。


 恥ずかしい。

 超恥ずかしい。結局、例のお花の首飾りは神官様に預けたから、間違いなくアデルの手に渡ってる筈……。ヤバス―――ッッ!!!


 私は顔を背け、逃げるようにその場を立ち去った。



 ◇



 私が良くも悪くも胸の鼓動をドキドキとさせながら教会に戻ると、それと同時に緊急の報告が舞い込んできた。


「隣国がっ……戦争の準備を始めてるとのこと! 我らの集めた武器に不審を抱いての対応との様子!」

「なんと!? まさか、神託による戦の相手は隣国!? ……愚かな。我らが侵略を目論むはずもなかろうに」


 ざわつく教会。


 私は我に返り、またウンザリする。


 ゼロス様が人同士で争わせたがるはず無いじゃん。

 人は……本当に愚かだ。




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