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神は、神殺しを創り賜うた

 以前ゼロスからの謹慎を受けていた魔物たちが、ようやくその謹慎を解かれて更に2000年ほどが過ぎた頃、この聖域から離れた遠くの地で、ちょっとしたいざこざが起きていた。




 それは、魔窟の在る“暗い森”へと少し踏み込んだ所にある、あまり目立ちもしないひとつのダンジョンで起こった。




 ◆





「おめでとう。ダンジョンの攻略者君」


 コアを破壊され、ダンジョンから吐き出された攻略者に、マスターが冷ややかな笑顔と賛辞を送った。


 普段、マスターは1つや2つダンジョンを突破された程度では、その姿を攻略者の前に見せる事はしない。だが、今回ばかりは少し気になった様だった。


 周囲にブルーのクリスタルキューブを漂わせながら、マスターはふわりと攻略者の前に、降り立った。


「君、一体何なの? ……これで、11個目のコアを破壊したね。だけど手に入れたアイテムを使うでもなく、売るでも無く。……一体何をしたいの?」


「……」


 攻略者は、無言でダンジョンで手に入れた黄金の金剛杵を構えた。


「……ふうん、答えたくないって事? 君、気味が悪いね。まあ良い。約束は約束だ。攻略したなら持ってけばいいさ。だけど、……いずれ教えてもらうよ」


 無言の攻略者の敵意を見て取ったマスターは、深くは追及せずその場を去ろうとした。


 ーーー……今は分が悪い。


 それがマスターの本音だった。


 だけど攻略者は、きっとそのことも全て知ってたんだ。


 金剛杵を構えたまま、マスターに唸るような低い声で言った。


「……やっと、見つけた」


「?」


 攻略者の言葉を聴き取れなかったマスターは首を傾げ、その動きを止めた。


 攻略者が笑う。


「ーーーやっと、見つけたぞ、ダンジョンマスター。……いや、マスターキューブ? それとも、“最凶賢者レイル”と呼んだほうが良いのか?」


 マスターがキューブを捻りながら、攻略者を睨んだ。


「……。何者だ?」


「ふん、寂しいな。俺を忘れたか。前はまんまとそのダンジョンに呑み込まれたがな」


 ーーーかつて、自分のダンジョンへと踏み入った者。


 マスターは己の記憶を探る。自分の作り出したダンジョンへと足を踏み入れた膨大な数の人間達。


 ーーー……誰だ?


 その答えを見つける前に、攻略者が踏み込んできた。



「今度は、俺がお前を呑み込んでやる番だ」



「!!?」


 マスターは咄嗟に生み出したコアを落とすが、それは地につく前に砕かれる。


 攻略者はそのまま流れるような動きで、キューブを握るマスターの腕を切り落とした。


 マスターの顔に焦りが浮かぶ。


 だけどその動きは止まらない。攻略者は手に持つ金剛杵を、狙い違わずマスターの細い首に投げつけた。



 ーーーボッ



「……なっ」


 胴体と頭を引き離されたマスターの顔が、驚愕と苦痛に歪む。


 攻略者は可笑しそうに笑った。


「中々演技派なんだな、ダンジョンマスター殿は。……その身体、細切れにしたって死なないんだろう? ほら、切離した手だって、今も動いてキューブを弄ってる。気付いて無いとでも思ったか?」




 ーーーザクッ



「っ!?」


 攻略者のロングソードが、地に落ちたマスターの掌を貫いた。


 そして今度こそ、その掌からキューブは転がり落ちた。

 宙を漂うマスターの首が、攻略者を睨む。

 絶対的な力の差の前に、マスターが取れる行動はもはや無かった。


 ーーーダンジョンの中であれば、負けはしない。(ことわり)を自在に操れる、ダンジョンの中であれば……。


 しかしここは神々の定めた理のみに従い、動く世界。

 いくら知恵を振り絞ろうと、その世界に於いてのマスターとは、実質はたった一粒の砂に込められた魂のなれの果てでしかないのだ。

 そう、ありえない仮説の中でしか、マスターに勝ち目は無かった。 


 攻略者は肩をすくめながら弁解でもするように、マスターに言う。


「……睨むなよ。別に消滅させる気はない。ただ、その“核”をもらうだけさ。……見せしめにね」


「はっ、僕なんかが見せしめ? 残念だけど、僕はこの世界から嫌われてる存在だ。僕が消えて喜ぶ者なら幾らでも居るだろうけど……」


 攻略者はマスターの言葉を無視し、迷い無く、マスターでは無くその周りに無数に浮かぶキューブの1つを、剣で突き刺した。


「っな!?」


 目を見開いたマスターの姿がブレ始める。

 そして、まるで砂嵐に侵されている様なマスターが、憎々しげに攻略者を睨み言った。


「ーーー……っ、何で、そこに核があるって分かった?」


 攻略者は首を傾げる。


「はは、さあな? 自分で考えてみればいい。その、“無い脳みそ”でね」


 攻略者は、キューブから飛び散る破片の1つを指で掴んだ。



「ーーーーーっっ」



 何かを叫ぼうとした、マスターの影が消えた。


 攻略者はそのマナ結晶を、服の裏側に縫い留められたら試験管のような細長い小瓶に落とし、何やらルーン文字の描かれた蓋で封をした。

 攻略者は瓶の中で明滅するそのマナ結晶に、ボソリと呟く。



「ダンジョンの中にこもっていれば最強だったのにな。のこのこと出てくるからこんな事になる。……まあ、それを狙ってコアを砕き続けていたんだがな?」



 ーーーパキ……


「?」


 攻略者の後ろで小さな音が響いた。

 振り向いて見れば、コアーキューブの転がった先に、巨大な岩がそびえ立っていた。


「……自動防御装置(オートセーフティ)か。他の者にキューブを触れられぬ様に。……まあ良い。どうせ俺にはキューブなどゴミでしか無いのだから」


 攻略者は岩となったキューブから目を逸らせ、大地に刺さった金剛杵を抜き取った。


 そして、遥か彼方、この聖域のある方角を睨み呟く。




「……ゼロス。俺はお前を絶対にゆるさない。お前の大切な物を、俺が全て奪ってやる」




 その瞳には、紛れも無い憎しみが宿っていた。



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