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番外編 〜聖女と勇者の小さな恋の物語①〜

以前の話で出た【初代イム】のお話になります

∠( ゜д゜)/

 《イム視点》


 私の名前はカンナ。十六歳のうら若き乙女だ。

 生まれは何処にでもいるしがない村娘だったけど、色々あって今は【イム】と名乗っている。

 そして【聖女】と書いておっさんと読む。それが私と言う生き物だった。


 思い返せば私の人生『なんでこうなった!?』の連続でした。

 こうも荒波に揉まれてたら、そりゃ荒みますとも。えぇ。

 もう笑うしかない。


 私が産まれたのは、ここ王都シュノックから馬車で10日も離れた小さな名もない村。

 今思い返しても、何ら変哲の無いただの子だったと思う。



 ―――だけどそれはまだ私が5歳の頃、今から11年前の出来事だった。


 その日私は、八歳の誕生日を迎える幼馴染のアデルの為に、ハーティの花を摘んでいた。贈り物に花輪のネックレスを作ろうとしていたのだ。

 ……というか、男の子に花輪とかどんだけ乙女よ昔の私w。

 正直、黒歴史です。ハイ。



『―――こんにちは』



 誰もいない野原で、突然その声は私の頭の中に響いてきた。

 魂が震えるような懐かしさを感じる、不思議な……まるで少年のような高い澄んだ声だった。

 とはいえ、当時の私にとっては立派な“お兄さん”の声だったけどね。


 声は自分が【神様】だと名乗り、幼い私は疑う事なく信じた。

 この御声は【主神ゼロス様】の聖声だと。

 そしてそれは、間違いでは無かった。


 ―――でも、何故ゼロス様が私なんかに?


 まるで心当たりが無い。

 だけど、私はゼロス様の聖声が仰られたように、他の人達にそれを伝える為、村長様の所に行った。


「どしたカンナ、明日は収穫祭で皆忙しいんじゃよ。向こうで遊んで来なさい」

「違うの村長様。私ね【イム】になったの。カンナじゃないよ」

「おやおや、今度はどういう遊びかな?」


 村長様は幼子の一生懸命な説明に、愉快そうにほっほっと笑った。……まぁ、そうなるわな。


「遊びじゃないよ! 私ね、ゼロス様のお声を聞いたの。ゼロス様は、私の名前はイムだと言ったの」


「いむ? ……はて、聞いたことがあるのぉ。確かゼロス神様が、初めて人をお創りになられた、その人の仔の名が確か【アトム】と【イム】……いや、まさかな。ゼロス様のお話がしたいなら教会に行きなさい。私等は明日の準備で忙しいのだ」


「うん。神官様に話してくるね。村長様、カンナね……じゃない。イムね、明日のお祭り楽しみなの」


「そうだね。私等も頑張って準備するから、明日いっぱい楽しむと良いよ」


 そう言って村長様は手を振り、私もスキップなんかしながら教会に向かった。



 だけど私はその年から、祭りに参加することはできなかった。

 そして大切な幼馴染の、アデルを祝う事も……。

 私の初恋は、乙女な黒歴史と共に終わったのだった。




 ◇





 《アデル視点》


 俺の名はアデル。

 しがない王都の見回り番兵をしている。


 産まれは名もない村。……あえて言うならシュノニーズ街道の村だ。

 ニースという貿易港と、王都を繋ぐシュノニーズ街道沿いにある小さな村。まんまだな。

 何にもないけど宿場町的な感じで、なんとか寂れもせずやっていた。


 そんな特に珍しくもない村が一躍有名になったのは、俺の幼馴染のせいだ。

 名をカンナといった。

 近所に住んでいて年はニつ違い。俺の妹的な存在だった。

 どこに行くにも付いてきて、俺もそれが嫌ではなかった。

 まぁ、むしろ嬉しかった。純真で優しくて、素直な可愛い妹に『アディー』と愛称を呼ばれながら付きまとわれて、嬉しくない者がいるものか。


 ……だけどそんな幸せな時間は、長くは続かなかった。


 俺が八歳の誕生日を迎える日、あいつはいつもと違って一人で野原に行くと言って聞かなかった。

 危ないから俺も一緒に行くと言ったが、強情にも意見を曲げず、とうとう喧嘩になった。


 俺は『せっかくの誕生日なのに最悪だ!』と、腹を立てながら家に帰った。

 だけど本当に最悪だったのは、次の日だった。



『―――カンナちゃん、絶対神ゼロス様から奇跡の力を授かったんですってね。昨日の夜、この村を特急の馬車で出て、王都に向かったそうよ。王都のセントリア教会に行くんですって。凄いわねぇ』

『は?』


 寝起きの俺は、母の話に耳を疑った。


『あ、そうそう。神官様からアディーにって、カンナちゃんからの預かり物があるわよ』


 そう言って、母は萎れた白い花の花輪を差し出してきた。


『カンナちゃんがアディーに『ハッピーバースデー』ですって。最後に素敵なプレゼントもらえて良かったわね」

『―――……こんなの作る為に、一人で野原に行きたいとか言ったのかよ』


 俺は触ればほどけて壊れそうな、お世辞にも上手とは言えない花輪に、小さな声で呟いた。


『えー、なに?』

『なんでもない。アディーって呼ぶなって言ったんだよ!』

『はぁ? 何怒ってるの、この子は』

『怒ってなんかない』


 なぁおい、カンナ。こんなのいらねーよ。


 ―――だから、帰って来いよ。



 だけど俺の願いは神に届く事は無く、神から奇跡の力を授かったカンナは、二度とこの村に帰ることは無かった。



 ◇◇



 王都に行ったカンナの噂は、すぐに俺の村にも届いた。

 不治の病や致命傷を奇跡の力で治し、神の神託を受けては、多くの人を未だ起こらぬ天災から救う。


 ―――何だよ。本当に聖女じゃないかよ。


 俺はお前に俺達を……否、この世界を守らせたくなんか無い。

 俺がお前を守りたいんだ。



 だけど俺の想いなどお構いなしに、世界はカンナを【聖女イム様】と崇め始めた。

 また一方でらカンナの力を恐れた一部の者により、不穏な噂も流れ始める。


 “―――聖女と名乗る、魔女がいる”と。


 バカかよ。カンナがそんな筈無いだろう。


 俺はいても立っても居られず、十五歳の成人の儀を迎えるやいなや、王都に旅立ったのだった。





続きます。





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