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神は、寵愛を与え賜うた11

今回、少しゼロ目線から始まります。


……そう言えば、ゼロス目線って初めてです!

 マスターの計らいで、僕はやっと、ジャンヌと2人きりで行動を取ることになった。

 今まで、なかなか二人きりでの行動は無かったから、ちょっとドキドキする。

 二人の時間はあったけど、僕が喋らないから、ホントに何にもなかったんだよね……。


 この3年、僕はジャンヌ達と行動を、ずっと共にしてきて思った。

 僕の創った人間は、今こうして改めて近くから見れば、なんて不完全なんだろうと思う。

 失敗はするし、優しさは不器用だし、無自覚に他者を平気で傷つけたりもする。

 だけど、よくよく見てて思ったんだ。




 ーーー僕に似てるって。




 僕は、自分の大切なものの為なら、レイスの創った魔物なんて、正直どうでもいいと思ってる。

 僕や、僕の大切な物に献身してくれるものに対しては、勿論感謝はするよ? ドワーフや、ラムガルや、天の邪鬼とか、ね。

 だけど別に愛しいとは、これっぽっちも思わない。

 ……人間達には“全てに愛を”とか教えてる割に、僕がこんなんじゃ、無理に決まってるよね。

 だから、本当に、そんな不完全さはしょうがないと思う。

 とはいえ、レイスなんて、僕とアインス以外はどうでもいいと思ってそうだ。多分ラムガルすら、“あれば役に立つ”位にしか思ってない。

 その場のノリで創って、あとは放置。……まったくレイスは……。と、思ってたんだけどね。僕も大概だったと言うことに気づいたんだ。



 始めは、レイスの入れ物を創る為、僕は人間達をじっと観察してだけ。

 そして、ジャンヌを見つけた。

 ……ジャンヌは、これと言って凄い事も、優れている所も1つもないのに、ただ、何故かもっと側にいたいと、僕は願うようになった。

 マスターは、それを“恋”だと言った。

 ジャンヌに対するこの気持ちは、ジャンヌが他より優れているからとからそういうものでは無いんだ。

 僕の言った事に、忠実に生きてるといえば、ガラハッドの方が、僕の意に沿ってると言える。実際、彼は見事にダンジョンの鍵を見つけたしね。

 ジャンヌが、このダンジョンへの鍵を見つける為には、途中ですれ違った“果物屋で盗みを働いて、捕まっている子を助ける”必要があったんだ。……あの子には、妙な違和感があったし、多分マスターが仕掛けた子なんだろう。

 だけど、それに気付かないのも“ジャンヌ”。別に僕はそれを責める気もない。彼女が気づかず見過ごすのであれば、僕は何も言わない。そんな事で、ジャンヌに幻滅したり、嫌いになったりなんて、するはず無い。

 寧ろそれすらも、好きだと思うくらいだ。一生懸命なのに、愚かで、可愛いジャンヌ。


 だけど、ふと思ったんだ。


 ーーー……もし盗みを働いた子供が、“マスターの仕掛け”じゃなかったらって。

 僕はそれでも、ジャンヌを尊重し、あの子を見捨てたかな? 

 それとも、ジャンヌに知らせ、ゼロス()の教えを押し付けたのかな?

 いや、僕は神なんだ。ジャンヌを置いて、僕自身が助けに行くべきなんじゃないのかな?


 ……だけど、救えるの?


 アビスすら、救う事の出来なかった、この僕に、何が彼等の救いとなるか、本当に分かるの?



 ーーー僕は考える。




 ……“神”って、何だろう? 



 そしてふと足元を見て思う。




 ーーーああ、そろそろ底に着く。




 ジャンヌが怪我をしないよう、守ってあげなくちゃ。

 僕は、彼女に傷ついて欲しくない。例え、何があっても守ってあげる。




 例え、その障害というのが、レイスだったとしても。




 ねえ、ジャンヌ。だから、僕を見て欲しいんだ。





 ◆





 ーーーバシャン!


 大きな水飛沫を上げ、ジャンヌとゼロは、地下水脈の流れる、地底湖へと落ちた。


 ジャンヌはすぐに水中で魔法の光を灯し、ゼロを見つけると、ゼロを抱えて水面へと泳ぎ上がった。


「っぷは! 大丈夫か!? ゼロ!」


 ゼロはコクリと頷いた。


「よし、壁際まで泳ぐ。行けるな?」


 2人が壁に向かい泳ぐと、途中で湖は浅くなり、とうとう膝位の深さとなった。

 そして、その先の岩壁に、ポッカリと穴が開いているのが見えた。


「あれが道だ。よし、行こう。ゼローーー……!!?」


 ーーーバシャン!!


 ジャンヌがゼロに声をかけた時、突然ゼロが素早く踏み込み、腕を伸ばした。


「ギョギョギョギョギョギョギョ……!!」


 ジャンヌの背後に伸ばされたその手には、全長1メートルほどのヒレと角を生やした蛇が握り込まれていた。

 地上から魔物が姿を消していても、ダンジョンの中には、その異形は存在する。あちこちのダンジョンを潜り聖杯探索を続けてきたジャンヌも、その生き物の名前を知っていた。


「!? 跳び海蛇!? シーサーペントの幼体か!」


 蛇は体をくねらせ、掴まれているゼロの腕に絡みつき、噛み付こうと牙を向いた。


 ーーーザンッ


 ジャンヌが、その首をハネた。途端、蛇の体は淡い光となって弾けて消えた。


「大丈夫か、ゼロ……」


「っ!!?」


 ジャンヌが、ゼロの腕を見ようと手を伸ばした瞬間、逆にゼロがジャンヌの腕を掴み、身体を抱え上げて、高くジャンプした。


 軽く10メートルは浮き上がった先で、ジャンヌは水面から、100匹以上の跳び水蛇が、自分達の居た場所めがけて水面から飛び出して来るのを見た。


「くっ」


 そして、ふとジャンヌは、自分が小さな少年ゼロに、抱えられている事実に気付いた。そして慌てて言う。


「お、降ろしてくれ!」


「?」


 ゼロはジャンヌに言われた通り、湖に突き出た岩場に降り立つと、ジャンヌを降ろした。


「す、すまない。油断していたようだ。いいか、ゼロは、私が守るっ!」


 ゼロは、微笑みながら頷いた。

 そしてその時、突然水がせり上がり、大きな波を起こしながら、跳び海蛇たちの親、シーサーペントがその姿を現した。


「ーーー……なんという、デカさだ……」


 水面から伸ばした肢体の長さで、およそ10メートル。大きな湖の水位が下がる程の巨体に、ジャンヌは思わず声を漏らした。


「……っく、水に入れば、跳び海蛇共が襲ってくる。……岩を足場にするしかないな。……ゼロっ! あのシーサーペントは、私が仕留めるっ! 水に落ちないように下がってるんだっ!」


 ジャンヌはゼロにそう叫ぶと、岩を蹴り、シーサーペントに向かって飛び出した。

 ゼロは、不安げに、そんなジャンヌを見送った。




 シーサーペントは硬い。


 滑る鱗に全身が覆われ、そのヒレの被膜はまるでゴム。目は超硬度のガラス膜で守られている。

 唯一柔らかいのは口内だが、そこに到達するまでには岩をも溶かす猛毒の牙を抜け無ければならない。

 だが、そうやって無謀に飛び込んだとしても、全てをすり潰す食道が待っているだけ。



 ゼロは、ジャンヌを見送った後、空中から光を集め、銀の横笛を創り出した。



 ーーーこうして、魔笛が生まれた。



 そして、その笛を、口にあて、高い音を響かせながらメロディを響かせる。


 魔笛から響く音には、天使達の歌声の様に、膨大なマナが込められている。


 その美しい音色に、シーサーペントは聞き惚れ、魔法にかかったように、動きを止める。逆に、ジャンヌはその音色で身体を強化され、一時的にではあるが、“勇者”程の力をその身に宿した。



「ギシャァーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!」



 ジャンヌに喉を切り裂かれたシーサーペントが、霞んだ断末魔の叫びを上げ、大きな水しぶきと共に、その身を湖に横たえ、光となって消えたのだった。







 シーサーペントを退治したジャンヌは、無言でゼロの元に戻って来た。

 そして、



 ーーーーッパァーーーーーンッ



 ジャンヌは、ゼロの頬を叩いた。


 ……ジャンヌちゃん。……今、ジャンヌちゃんには勇者くらいの力があるんだ。ゼロスじゃなかったら、首もげてたからね……。

 ……気をつけてね。



「? ??」


 ゼロは叩かれた頬を抑えながら、困惑した表情で、ジャンヌを見上げた。

 ジャンヌは、唇を噛み締めながら、ゼロを睨む。


「……っ下がっていろと言った」


「……」


「私が、お前を守るとも言った」


「……」


 ジャンヌは、ゼロを叩いた自分の手を握りしめ、震えながら俯いた。




「ーーー……ゼロ。私は、お前の音楽など、もう二度と聴きたくはない」





 ジャンヌはそう言うと、岩壁に空いた穴を目指し、一人あるき始めた。



番外編、Crescent Of Twilight〜死神と呼ばれた子供〜

別作として連載中。気が向いたらよろしくお願いします(*´∀`*)


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