神は、寵愛を与え賜うた⑦
前回から、誤字報告の神が降臨しました。
本当にありがとうございます!(゜∀゜)
全部確認しながら、適用させていただいております!
そして、最後の一夜が明けたとき、パーシヴァルがガラフとジャンヌの前に立ち、国境に残る兵達に言った。
「また、いずれ逢おう」
兵達が笑う。
「“再び巡り合う奇跡を祈り”だろ!? パーシヴァル」
その言葉に、パーシヴァルは困ったように頭を掻いた。
「はは、おいしいところは、昨夜ジャンヌに全部持って行かれたな」
そして、ポケットに手を入れたままそっぽを向いている男に話しかけた。
「ーーー……では、行ってくる。任せたぞ。ボールス」
「さっさと行ってくれ。しみったれた空気は嫌いなんだ」
そう言って腕を組むボールスに、ガラフが笑いながら言う。
「次会う時の土産は、ヒビの入ってないグラスでいいか?」
「っいらんわ」
「なっはっはーーっ! ジャンヌもなんかあいつ等に言ってやれよ」
「……私はいい。別れなら、昨晩済ませた」
兵達はその一言に、涙ぐみつつも、三人とゼロを見送ったのだった。
◆
4人を見送った後、思い出したように斥候が駆け込んできた。
「っ再び、兵が動き始めました!」
ボールスが振り返った。
「いいタイミングだな」
そして、兵達に言った。
「お前ら、ここはオレが取り仕切る。この中には、オレを恨んでる奴もいるだろうが耐えてくれ」
「……」
兵達は、無言でボールスを睨む。
中には、舌打ちする兵すらいる。
「……やっぱ、パーシヴァルみたいには行かねえよなぁ……」
ボールスはため息を付きながら、プラスチックのような素材で出来たカードの束を掲げた。
「ヤロー共。このカードが何だか分かるか?」
兵達の中にどよめきが起こる。
ボールスは笑った。
「そう。これはな、昨夜のジャンヌの映像記録のコピーだ」
「おお!!」
小さな歓声が上がった。
「くれてやる。ここに残り、耐えた我が同士達に! あの女神の微笑みは、我ら皆の物だっ! 因みに、パーシヴァルとガラハッドには、やらねえっ!! 土下座されても絶対やらねえっ!! オレは、お前等を絶対裏切らねェ!!」
ボールスの宣誓に、兵達が沸いた。
「あんたが大将だっ! 何処迄もついてくぜっっ!!」
「ボールス隊長っ! 最高だぁーー!!!」
「俺も殴られたかったんだからなぁーーーっっ! 抜け駆けしやがってっ」
「ジャンヌ親衛隊は永久に不滅だぁああァァァーーーーっっ!!」
……そう言えば、始めの頃はゼロスも、ボールスみたいによく殴り飛ばされてた。
何処かで見たことがあると思ってたら、ボールスがゼロスに被るんだ……。
うん。恋する男の子は、強い。 あ、勿論女の子もね。
ーーー……後に、この隊は、オレノジャンヌ騎士団……では無くて、オレノアン騎士団と名付けられ、どんな窮地の中でも、折れぬ心と団結力で必ず勝利を手にする、精強な軍として有名になって行く。
しかしこの軍が、何故ここまで硬い団結に結ばれていたのかを、知る者は少ない……。
◇
4人の旅は続く。
「ーーーゼロよ。お前は本当に愚かだ」
「出たな!? 邪神めっ!!」
「ふん、虫けら共め。……なあゼロよ、その想い、願うだけでは何1つ叶わん。何故か分かるか?」
「っ!?」
「わからんか……。なら優しいレイスがヒントをあげよう。……そう、その想いが形一つ成せない内は無理という事だっ!」
ーーードォーーーッン!!!
「うわああぁぁぁーーーーっ!!」
「っ!?」
ーーーピカァーーー!!
「!? ゼロ……その指輪は一体……!?」
ーーーこうして、すごい力を秘めた“ひとつの指輪”が出来た。
「っ!」
指輪を掲げるゼロに、レイスが絶望の闇を投げつけながら、冷ややかに言った。
「……っ重いわ」
ーーードガァァーーーーーーン!!!
……確かに、初めてのプレゼントに、“指輪”は重いかもしれないね。
◇
「ゼロよ、お前の力には興醒めだ。そこの虫けら共にも劣る」
「また出たなっ邪神めっ!! 今度こそ討ち滅ぼしてくれるっ! ーーー……ぐはぁっ!!」
「全く持ってゴミ。だが、そんな真似事の剣術をしてるうちは、……ゴミ以下のゴミだ! ゼロッ!!!」
ーーードカァァーーーーーーン!!
ーーーッピカァーーーッ!
「な、なんだ? 突然、パーシヴァル殿の宝剣が輝き出した……」
「っゼロ! これを使え!!」
「っ」
こうして、最高峰の騎士の剣、“エクスカリバー”が出来た。
「ほう、やっと己の剣を見つけたか。……だがまだまだ甘いっ!!」
ーーーチュドォオオォォォーーーーーッン!!!
戦闘フェチのレイスは辛口だ。
こうして、レイスの妨害が入りつつも、4人の聖杯探索の旅は続いた。
◇◇
ーーー3年後。
月日は流れ、ゼロとレイスの戦いを間近で見続けた三人は、……そう、とても強くなっていた。
小さな街のカフェテラスの席で、パーシヴァルとジャンヌ、それからゼロは座って話をしていたんだ。
「しかし、聖杯は本当にこの世界に既に現れているのか? 一向に見つかったと言う噂も立た無い」
ジャンヌのため息混じりの言葉に、パーシヴァルは上品にサンドイッチを食みながら答える。
「主神ゼロス様が、嘘を仰るはずがない」
「嘘などとは思っていない。ただ、神の時間の感覚を我らの感覚で捉えていいものかと、己を疑っただけです」
「……それは確かにな」
パーシヴァルは、小さく頷いた。
ゼロは、若干色苛立ちを隠しきれない二人を困った様に、見ながら、りんごジュースを啜っていた。
「待たせたなぁーー! 遅くなっちまった! なっはっはっ!」
突然、ガラフの声が聞こえた。
「遅かったな。ガラ……」
顔を上げ、遅刻をしたガラフを諌めようとパーシヴァルが顔をあげるが、その言葉は途中で途切れた。
そして、困惑しながら、パーシヴァルはガラフに聞く。
「……ガラフ、その鎧、どうした?」
見れば、鎧にはベッタリとオレンジ色の液体が付着し、カピカピに乾いている。
「なっはっーーー! いや、参ったよ。ここに来る途中、教会の炊き出しがやっててな。近くを通ったら、皿持った子が飛び出し、ぶつかってきてこのザマだよ」
そう言って、嬉しそうにガラフは鎧を指した。
「でさ、それがめちゃくちゃ美味そうなカレーだったから、その子の分ともう1回もらいに行ったわけよ。そしたら、オレはだめだし、その子も2度目の配給は受けられないって怒られたんだ。しょーがねえから、炊き出しの手伝いをするから分けてくれって頼んで、何とか分けてもらって! しかも、土産にリンゴまでもらったぜ」
「……はあ」
胸を張りながら腹をさすり、青いりんごを見せびらかすガラフ。
パーシヴァルは、その理由に、3時間の遅刻をしたガラフを怒る気も失せ、ただため息を付いた。
ジャンヌが苦笑をしながら言う。
「お前は相変わらずだな。何れにせよ、そのままじゃ見苦しい。こちらにかけて拭き取るといい」
「おお」
そう言いながら、席に近寄り際、壁の隅に腰掛ける物乞いの少女に声をかける。
「そんな訳だ。おっちゃん腹一杯でな、代わりに食べてくれるか?」
「……っ!」
突然差し出されたそれを、少女は目を丸くしながら受け取り、頭を下げた。
ガラフは、なっはっはと笑いながら席に着く。
パーシヴァルとジャンヌが苦笑する中、ゼロはそんな彼を、とても嬉しそうに見つめていた。
ガラフが言う。
「そういや聞いたか? 最近この街の近くで、“蜃気楼の断崖”が目撃されたとか」
「「!?」」
ーーーそして、とうとう、この仕込み……では無く、運命の歯車は回り出す。




