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神は精霊王と精霊、妖精を創り賜うた



 電話番改め、【聖女】を指名したゼロスは、暫く発信テストと情報の伝達力をテストする為と言っては、楽しげに聖女に声を送っていた。


 レイスが魔法の実験の失敗をしたから、その余波で『今年は不作になる』とか、魔物達やゴブリンが増えすぎたため間引きして欲しいけど、勇者が居ないから『戦に備えろ』とか。

 そんな伝えても伝えなくても良いような、些細な内容だった。


「うん。まだ伝達力は弱いけど、前より全然楽になった」


 満足げにゼロスは顔を上げた。そして相変わらず、ゴロゴロと寛いでいる勇者の魂に声を掛ける。


「ねえ勇者、イムも頑張ってるんだ。君もそろそろ人の所に戻りなよ。イムを助けてあげて」


 勇者はゼロスの呼びかけに直ぐこちらに来たが、ゼロスの頼みを少し渋っているようだ。


「え? もっとここに居たいの? ずっとレイスと一緒に居るラムガルが羨ましいだって?」


 【勇者】はその名のとおり勇者だ。

 神にも自己主張を欠かさない。


「もぅ、しょうがないなあ。じゃあ、魂を少しここに残せるようにしてあげるよ。ほんの少しだけだけどね」


 なんだかんだ言って勇者が好きなゼロスは、甘える勇者の魂にそう言って魂をひと欠片、その輝く玉からつまみ上げた。


「こっちの欠片は、ずっとここにいると良い。そうしたら、勇者が肉を得て、大地に降りてもずっと一緒でしょ。“同じ魂”なんだからね」


 勇者は納得したようで、嬉しげにゼロスの周りを、クルクルと舞い飛んだ。


「じゃあ、そろそろ行って。イムを助けてあげるんだよ。あ、そうだ。今から新しい肉体に入ってたら、今の代の【イム】の手助けには間に合わないだろうから、イムの近くの適当に空いてる肉体に入るんだ。いいね?」


 ―――了解です、じゃあまたな相棒。とでも言うように、勇者の魂は一度だけ俺達の周りをふわりと飛び、小さな魂の欠片をコツンと弾いて、天に舞い上がり飛んでいった。


 行ってらっしゃい。

 新しい勇者。


 俺達はいつまでも君を待ってるし、いつでも頑張る君を応援しているからね。





 ―――さて、聖域に残った勇者の魂の欠片だけど、肉体がないので【精霊】と呼ばれるようになった。


 精霊は肉体のない魂、つまり【マナ】の素体に近い存在である為か、とにかくマナの操作が上手だった。

 【マナ】の保有量ではラムガルに負けるが、器用さにかけては、ラムガルに精霊の爪の垢でも飲ませたい程だった。

 どれ程器用かというと、肉体を持たなくとも【マナ】で風を操り、声を出し、水と光を操って人の幻影を作り出す程だ。


 そして【精霊】は、聖域に住む【ハイエルフ達】ととても気が合った。


 ハイエルフ達は、精霊から細やかなマナ操作の手ほどきを受け、精霊はハイエルフ達の清廉な心と美しい容姿に憧れた。

 ハイエルフ達と精霊は、楽しげに聖域を駆け回り、よく遊んでいた。


「もっと遠くに行ってみる?」


 精霊が尋ねる。


「いえ、我等はこの聖域から出られないのです。気にはなりますが、大切なお役目もあることですし」

「そうか。だったら僕が“森の外”の事を教えてあげるよ」


「いいのです。ありがとう。精霊はゼロス様のお傍に居たくて、肉体を捨てたのでしょう? わざわざ離れる必要はないのです」


 精霊は『大丈夫』と言って微笑んだ。

 そして、自分の小さな魂の欠片を更に小さく砕き粉のようにすると、それを大気のマナに乗せて空に散らした。


「あの欠片の一粒一粒が、全て僕の分身だ。彼らが世界のいろんなものを見て、僕に知らせてくれる。それを僕がハイエルフ達に教えてあげるよ」


 そう言って最後に一粒残った欠片を、本体の精霊が作り出した少年の姿の幻影が受け止めた。

 欠片は瞬くように明滅すると、幻影を作り出した。

 昆虫の羽を持つ、小さな小さな人の子の姿。


 ソレはニヤリと悪戯そうな笑顔をすると、他の欠片達のように、天高く飛んで行った。


「なんと妖艶で可愛らしい。随分と創作のセンスが良いのですね、精霊は」

「そんな、まだまだだよ。ハイエルフ達をいつも見ながら、どうすればそんな美しいものを作れるんだろうって、研究は日々してるけどね」

「我等は、ゼロス神より直々に創られた者達ですからね。ハイエルフは代が変われど、その姿は受け継がれていますし」


 ハイエルフは精霊の言葉に謙遜せず、それは当然だし、仕方が無いと頷いた。


「そうだよね。だから僕は、レイス様みたいな“オリジナル路線”を行こうと思ったんだ」


 そう言って、精霊はニヤリと悪戯そうな笑顔を見せた。



 ―――やがて、聖域で神と共に暮らす精霊の本体を【精霊王】と呼び、更にその分体を【精霊】又は【妖精】と呼ぶようになった。


 精霊や妖精達は、今後精霊王の目となり、ハイエルフ達に世界の出来事を伝え、本体である魂を持つ【勇者】をよく助ける存在となっていく。

 精霊や妖精達が、ちょっと不遜でいたずら好きで、自由奔放な所は、きっと本体の勇者に似たんだろうと俺は思った。


 ところで、精霊達がこんなに力を持ってるのに、その数千倍は強い魂の力を持つ勇者が、何故あれ程簡単に魔王に負けたのか?


 それは、人の子と言う【肉体の枷】があるからだと俺は思っている。

 もしゼロスが、レイスの創り上げた魂に見合う頑強な肉体を本気で創り、勇者に与えたなら、ラムガルとかなり良い勝負をするかも? とも思う訳だ。


 ま、そんなドリームマッチは、ゼロスとレイスの気分次第かな。



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― 新着の感想 ―
[良い点] それぞれの価値観の違いがよくわかること。 [一言] やっぱり神と人間は屑だってはっきりわかんだね
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