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神は聖女イムを定め、遣わし賜うた

「フォンテレっていいよね」

「ん?」


 ある日突然、ゼロスが呟いた。


 ―――フォンデレ? ツンデレとかヤンデレの仲間かな?


 うん。よくわからないけど、良いんだよ。

 きっとゼロスは神としてではなく、大人の階段を1つ登って、新しい世界を見つけ……


「フォンテレだよ。電話のこと。アインスが話してくれた事あったでしょ」


 あぁ、電話ね。


「話したね。だけど“フォンテレ”ではなく“テレフォン”だよ。突然どうしたんだい?」


 ゼロスは『しまった!』と言うように、口に手を当てる。

 いつもはしっかり者のゼロスのそんな行動が可愛くて、俺はついにっこりと微笑んだ。

 顔はないけど気持ちだけ。


 ゼロスはポリポリと頭を掻いて、切り出してきた。


「実はさ、人の扱いで困っててね」


 それだけ言うと、ゼロスはため息を吐いて肩を落とした。

 そして普段見せない陰険な表情で、愚痴り始める。


「この前、ちょっと目を離していた隙に、人の間で変な噂が広まってたでしょ? だから僕、人間の代表っぽい感じの人に、誤解を解こうと話しに行ってみたんだ。けど、結局全人類の10分の1にも伝わらない内にその人は死んで、伝わった人々の間でも『真偽がわからない』とか言ってもみ消されたんだよ」


 今や、この世界の総人口は1億3千5万飛んで364人だ。

 電話はなく、最近やっと馬を乗り物として活用を始めたばかりの人々には、確かに情報発信ツールが少なすぎた。

 いくら時の人とはいえ、勇者クラスの影響力とカリスマ性が無ければ、短い寿命の内で全人類の思想を変える事は難しいだろう。


 因みに勇者は今、魂の休息中につきここニ百年ほど転生はしていない。

 ゼロスが、赦せと言ったものの、やはり信じて守ってきた仲間(人間)に殺されたのはショックだろう。

 俺は勇者が木の住むまで、否、気の済むまで、俺のうろでうろうろしてて良いと提案してみた。

 すると勇者は喜んで神々の下に留まり、今も俺の木陰で魔王と一緒に昼寝をしている。


 おっと、思考が反れてしまった。

 今は、珍しいゼロスの愚痴を聞いている所だった。


「―――……なのにさ、例の勘違いの時とかに限っては、書物にまで残して語り継いでるし。何なんだよ」


 それは所謂“伝説”と言うやつだ。

 英雄や極悪人など、特殊な者の伝記。それを更に面白おかしく脚色した、小説のような物。

 例の勘違いに関しては、こう書かれている。



 ―――かつて、邪神を崇拝する、魔王が降臨した。

 勇者は破れ、人は、問答無用で攻撃を受けた。

 絶望すべきその強さは、手を翻しただけで城を吹き飛ばし、ひと睨みで、数多の人は劫火に焼かれ、瞬く間に燃え尽きる。

 魔王の咆哮は、それだけで、大国を塵と変える―――



 だから、邪神ではないし! 問答無用でも無いし! とどめを刺したのはお前達だし! と、青筋浮かべて再び人里に向かおうとするラムガルを、ゼロスとレイスが止めたのはそれ程前の出来事ではない。


「成程ね。それは大変だったね。人が増えるのは嬉しいけど、人側の技術が追いつかず、末端までゼロスの言葉が届き辛くなっているという訳なんだね」


「そう、そうなんだ。最近では隣人を愛する一方で、隣人を憎む人間も増えてる。僕の創ったものなのに、お互いを憎み合うなんて。僕……哀しいんだ」


 ゼロスはそう言って俯いた。

 1億3千5万364‥‥違う、367になった。

 それだけの人が居れば、諍いや不信が起きるのも仕方ない。

 喜びに比例して、悲しみも産まれるんだ。


 仕方のない事。


 だけどせめて、その悲しみが少しでも和らぐように、ゼロスの声がちゃんと人々に届けばいいのに。


「可哀想に。ゼロスの言う通りだ。だから電話があったらと思ったんだね。だけど俺の知る電話と言う物も、留守だったり、着信音を消していて気付かなかったりと、決して万能なものでは無かったよ」

「そっか。電話だけがあっても駄目なんだね。……いや、待てよ。電話番を創ればいいんじゃない? ずっと着信が入らないか、見張ってる電話番が居たら良いじゃない」


 そうして、神と通信の出来る【聖女】が創られることになった。


「どうして女の子にしたの?」


 俺がふとした疑問を、ゼロスに投げ掛ける。


「別に理由はないけど、勇者が男だからかな」


 ゼロスはそう言いながら、金色に光る文字で何かの設計図のようなのを空中に描き始めた。

 光る設計図を描きながら、ゼロスは俺に言う。


「人の寿命は短いから番人はすぐ入れ替わってしまうけど、次世代番人の指定をランダム自動指定で設定すれば、手間ではないと思うんだ」

「いい案だね。レイス達や天使達と遊んでいる時も、いちいち気にしなくて済む」


「あ、でも番人になったら、名前は変えてもらっとこう。知らない内に代替わりして、新しい子の名前を呼び間違えたら、きっとその子、悲しくなるよね」


「確かに、余計な誤解を生むかもしれない」


「電話番に指定された人は、申し訳ないけど【イム】と改名してもらおう」


 ―――イム。

 それは、ゼロスがかつて初めて人を作った時、片割れの女の子につけた名前だ。

 大好きなレイスから、一文字取ってつけたと自慢していた、懐かしい名前。


 初代勇者の名前はアトムだった。

 人はその名前を尊んで、以降代々勇者に“A”を含む名前をつけてきた。

 しかしイムの名は、その影で段々と忘れ去られようとしていたのだ。

 俺は葉を揺らしながら頷いた。


「大丈夫。真名は忘れられないし、役職名みたいなものだから」


 俺がそう言うと、ゼロスは少しホッとしたように、小さく笑った。



 やがてゼロスはたまたま目に付いた、遠くの国で花摘みをしている小さな女の子に話しかけた。


「こんにちは。僕は神だよ。いいかい? これから君に(マナ)をあげる。これは僕が神で、君が特別になった証明だ。これから君は【イム】と名乗って欲しい。そして僕の声を、他の人達に伝えるんだ」


 小さな女の子は不思議そうにしたが、直ぐにコクリと頷くと、大人達の居る輪の中に走っていった。




 ―――こうして、初代【聖女】が誕生したのだった。




一昨日、昨日と更新ができなかったのに、閲覧者数が、増えてました。

まさか、クリスマスの奇跡!?


メリー・クリスマス!


そんなわけ無い。読んでくださってありがとうございます。

ブクマいただいた方もありがとうございます。

まだまだ続きますので、よろしくお願いします。

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