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神は、ダンジョンを創り賜うた⑤

 アトムが、ラムガルの胸から肩口に向かって、斬り上げる。


「ガッ!!?」


 胸半分を斬り上げられ、ラムガルが未だかつてあげた事のない悲鳴を上げた。

 ラムガルに死はない。だが、痛みは存在する。

 レイスやゼロスによる負傷であれば甘んじて受けいれる。勇者の対峙傷も、認めた相手だからこそ、誇りとすら思い受け止めた。

 ーーーだが、この相手からの痛みだけは、受け入れられなかった。


 痛みと共に、ドロドロとしたマグマの様な怒りが吹き上がる。

 だけどそれは届かず、レイルは笑うだけ。


「しかし、これは本当に凄い。ほら、こんな事だってできる」


 レイルがそう言い、マスターキューブを組み替えると、相対する灰色の神獣達が分裂し、その数を増やした。


「それに、その者が持つ力も、手に取るようにわかる。秘められた力もね、こうやって簡単に開放できる」


 レイルがマスターキューブをカシャカシャと回すごとに、灰色の魔王の筋肉が、張り裂けそうなほどに膨張する。


 ーーードォオオーーーンッ


 筋肉だるまの灰色ラムガルが、本物のラムガルの肩を掴むと、その腹を渾身の力を込め、殴り飛ばした。

 アトムに斬り裂かれた痕もあり、その威力でラムガルの胴体が千切れ、彼方へと飛んでいく。

 上半身しか残っていないラムガルは、それでもレイルを睨んだ。

 レイルは、その姿を見下ろしながら、つまらなそうに言った。


「ーーーそうか、死刑にしようにも、死なないんだった」



 その時だった。





「ーーーっヤメロっ!!」





 凍りつくその場を、殺気を交えた怒鳴り声が響いた。

 レイルがそちらを見る。



「いい加減にしろっ!! レイル!!!」



 ーーーそれは、怒りのあまり、青いオーラを立ち昇らせるルシファーだった。


「……調子に乗りすぎだ。消すぞ。マジで」


 ルシファーはそう言って、レイルを睨んだ。


「……」


「……神に賜った力に溺れたか? お前に限ってそんなこと無いよな? お前がまだレイルのままなら、すぐに消せっ! すぐにだっっ!!」


 レイルは、黙ったまま、作り出した全てを消した。


 途端、神獣達とハイエルフ達がレイルを取り囲み、槍で身動きが取れないよう吊し上げた。上半身だけのラムガルが、キューブを持つ手を切り落とし、そのままレイルの顔面に、魔剣を突きつける。


「……」


 無言の、時が止まったように静かな睨み合いの中、ゼロスが言った。



「レイルを離してあげて」



「し、しかしっ」


「離してあげて?」


「……っ」


「これは、レイルとレイスの話し合いだったろう。お前達が口を挟むから、ややこしくなるんだ」


 ラムガルと神獣達、そしてハイエルフがその戦意を収めたのを確認し、ゼロスはやれやれと言った。


「ラムガル、残念だけど、レイルの言うことは全部正しい。あんな玩具で、僕らを牽制することにはならないし、レイスの創った風神と雷神は、本当に世に出してはいけない。……駄目だよ? ホントに。分かってる? レイス」


「……。ちっ、やはり駄目であったか……」


 レイスの顔を覗き込むゼロスから、レイスは目を背け、テンションに任せ、ゴリ押ししようとしていた事実を認めた。


「ーーー……とはいえ、レイルの言い方にも問題がある、と僕は思うよ。……レイル、何でそんなみんなを怒らせる言い方をしたの?」


「ーーー……ゼロス神が、僕を守ると信じておりましたので」


「はぁ……、まだそれを言うの。たしかに僕は創造した者達は守りたいと思ってる。だけど、取り敢えず、ラムガルに謝って。死なないからってやり過ぎだ。他の者には、全く手出ししてないし、わかってやったんでしょ」


「……」


「早くして」


 黙り込むレイルにゼロスは若干苛立ちながら言った。


「……すみません」


「……ふん、ゼロス神の聖心に免じ、その言葉は聞き届ける。しかし、余は貴様を赦しはせん」


 レイルは、体が元通り再生されたラムガルに、深く頭を下げたのだった。




 ◆


 ゼロスとレイスの号令により、ハイエルフと神獣達は、また森の中へと帰っていった


 静かな森の中、レイスが、まだ静かに眠る、風神と雷神に話しかけた。


「目覚めよ。風神、雷神」


「「はっ!」」


 レイスの言葉と共に、その鬼のような姿をした風神と雷神は目覚め、巨体をゆすり跪いた。

 レイスは言う。


「お前達は、ーーー強い。お前たちには、魔王とすら立ち会える強さを、その身に刻みつけた」


 そこで、レイスの顔が少し曇った……気がした。


「しかし、お前達がこの世界で生きるには、この世界は余りに狭い。……例えるなら、30センチ水槽でアロワナを飼うようなもの。しかも先住魚のメダカ達を食べては行けないと言う条件までついている。……だけど、アロワナは、全てのアクアリウマーの最後の夢なのだ……」


 ……全てかどうかは分からないけど、それは、確かに狭いね。

 とてもわかり易い。それなら俺でも分かる。そんなの無理だよ。

 ……そして、レイルやルシファーは、そのメダカを守ろうとするコリドラスといったところか。……駄目だ。諸共に餌食になるよ。それはもう、アロワナは勘弁してくださいって、必死に止めるよね。


「……だからお前たちはダンジョンに住め。そこなら、省エネ仕様で生きることができる。どのくらい省エネかと言うと、キノコで生きられる位、省エネだ」


 それは、……なんて低カロリーなんだ!


「……お前達は、力を持ちながらも、そんな窮屈なところで生きねばならない。そんなお前達に、レイスは2つの救いを与える」


 風神と雷神は、無言でレイスの言葉を待った。


「ーーーお前達に、武神の衣を守る使命を与える。それを餌に、この世界の猛者共が、現れるはずだ。衣を守る名目で、そいつらを蹴散らしていい」


 風神と雷神の目が輝いた。

 さすが戦闘民族の意思を受け継ぐ者。“オラ、ワクワクすっぞ”、なんだろうね。


「ーーーそしてもう一つ、お前達の好物は、松茸にしておいた」


 ……oh……


 確かに、エノキで生きる鬼神なんて、威厳がなさ過ぎる……。


「……秋に収穫し、酒を飲み祝い、冬は干し椎茸で食い凌ぐがいい……」


 レイスがそう切なげにいい、目を閉じた。

 ……と言うか、キノコ以外食べられない仕様なんだ……。


 それから、風神と雷神は、空に浮かび上がると、雲と共に空の彼方に飛び去って行った。



「ふん、これで満足か? ダンジョンマスター」


 レイルはその額に汗を浮かべながら、頷いた。 

 そして、ルシファーが2柱に膝をおって頭を下げた。


「この度は、誠にお騒がせを致しました。これの魂は、楽園(エデン)に連れて帰り、然るべき場所にて、コアキューブの管理をさせます」


「え? 連れて帰るの? 大丈夫?」


 ルシファーの言葉に、少し驚いた風に言うゼロス。


「……大丈夫、とは?」


「……だって、友達いなさそうだし。ラムガルとあれだけやり合ってたら、冥府にも居場所はないでしょ?」 


「「……」」


「勇者の魂も言ってたよ。“アイツは苦手”だって」


 ……ゼロス、そんなストレートに言うと、きっと、レイルが傷付いてしまうんじゃないかな……。


 案の定、レイルはふと目線をそらすように下を向いた。


「それじゃ可哀想だ。レイルがいいならここに居なよ。どうせ、ラムガルから逃げるために、ダンジョンに引きこもるつもりなんでしょ。だったら何処だっていいはずだ」


「……」


「しかし、神々のご迷惑では?」


「神の迷惑になるものなんて何一つ無いよ、ルシファー。全部僕らで創った物なんだから。……レイルはどう? ここは、世界の始まる場所だ。コアキューブを使う者としては、魅力的な地だと思うけど」


 ゼロスの提案に、レイルは深々と頭を下げた。


「ーーー…。僕を、こちらに置いてください。この魂の限り、神のため、この世界の為に働く事を誓います」


「うん」


 ゼロスはそう言うと、レイスと共に、高く、高く舞い上がった。



 2柱のいなくなった静かな森の中で、ルシファーとレイルは立ち上がった。



「……じゃあね、ルシファー」


「おう」



 ルシファーが踵を返す。

 そして、少し沈黙が続いた後、低い声でルシファーが言った。


「……本当に、お前を消さなきゃならねー所だった」


「世界の為なら、味方や仲間も、ルシファーは処分するの? ……いや、出来るの?」


 ルシファーは、うつむき、逡巡した後に、重い口調で言った。


「当たり前だろう。ーーー……だから、無茶はするな」



 レイルは頷かない。

 ルシファーは振り返らず、そのまま飛び去った。


 ーーーそして、その骨の翼は、ピクリともはためいてはいなかった。






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