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神は、ダンジョンを創り賜うた ②

少し長めの投稿です(;^ω^)

 

 ゼロスは言った。


「そうだね、レイルの言う通り、この世界は限界を迎えてる。だけどもレイスの力はどんどん膨らんでる。この世界にはもう収まらないんだよ。だから、外に創るしかなかった」


 ゼロスが困ったような笑顔を見せながらレイルに言い訳すると、レイルはその言葉に注釈を入れた。


「それでも間にあっていません。たかが人間ごときの造った武器(宝貝)ですら、この世界には荷が重い程に、この世界はもう、限界が来ているのですから」


 うん。だけど、たかが人間とは言っても、神獣で武器を作るのは君くらいだろうと思うよ。

 グリプスの地下に置かれていた、ルドルフの所有物である獣達の部位を貰うため、ルドルフに交渉に行った時だって、「ギドラス様と勝負させろ。出来るなら、全部くれてやる」とか言う無茶振りを、叶えたくだりはすごかったと思う。

 闇のエルフを捕まえてきて、色んな意味での、まさに“ドリームマッチ”を果たしたんだ。 

 きっと夢の中で、2頭の巨大な馬がぶつかり合う様は、伸芳の決戦にも引けを取らない戦いだったんだろうと予想する。ーーーまぁ、何れにせよ、夢の話なんだけどね。

 そして、その後、満足したルドルフの伝言により、地下深くに眠るその巨獣の爪を掘り起こし、手に入れたんだ。

 その時、レイルは再びまた地獄の門を叩き、暇を持て余したゾンビ達を使って掘り出した。……確かその時“死霊使い(ネクロマンサー)”の伝説も生まれていたね。

 多分、ゼロス達が伸芳に興じ、盛り上がってなかったら、レイルはゼロス指名の聖者リストに間違いなく登っていただろう。



 ーーーその時、レイルの話に、ふと、いい事を思いついたとでも言うように、レイスが言った。


「ーーー……なるほど。貴様の言いたいことは分かった。レイスがこの世界を少し消そう。お前の宝貝も、壊しておいてやる。それでこの世界の寿命も延びる……」


「「「っ分かってないからっ!」」」


 ラムガルを除く、3人の声がかぶった。


「ちょっと、僕が話すからっ、レイスは少し黙っててくれる!?」


 ゼロスは慌ててレイスを隅に押しやるように、その言葉を遮った。

 レイスは渋々、また風神と雷神の創造作業に戻る。


 それを見届け、レイルが再びゼロスに言った。


「ーーー……せ、世界の危機を感じたので、率直に申し上げます。グリプス迷宮の様な地を増やし、この世界に在る、世界にとって許容し難い神具を、封印してください」


「そうだね。もう、余計なことを言うのは辞めよう。と言うか、封印は既にルシファーがやってたんじゃないの?」


「それは……」


 話を振られたルシファーが、口籠りながら目を逸らす。

 代わりに、レイルがため息を付きながら切り出した。


「ルシファーのかけた封印は単純な物でした。僕が一発目に潜ったとき、全部解けてしまった程に。当然、中身を見た時、その危険性に気付いた僕は、より厳重に封印を掛け直しておきましたが」


「だったらいいじゃない」


「いえ、それが、……後に、ルシファーの作成したリストと照らし合わせた結果、1つの神具が消えてた事に気付いたのです」


「へえ、……何がなくなったの?」


 レイルが重々しい口調で答えた。


「“神の爪”です。……伝説では、アダマンタイトを豆腐のように切り裂き、この世の最高位の存在、神獣様の毛で紡いだ神衣すら裁断したとか」


「……えぇ!? アレ…って、ちょっと、レイス!? 何でグリプスなんかにそんなの入れてるの!?」


 驚愕し、思わずゼロスはレイスに声を掛けた。

 レイスは“黙ってて”と言われ、ふてくされているのか、それには答えず黙々と創作を続けた。


 ……因みに、俺は今それが何処にあるのか知ってる。ずっと見ていたからね。

 もし、話を振られたら、俺は快く話そうと思う。



 ーーーだけど、結局俺に話が振られることはなかった。



 いや、いいんだよ。だって俺はただの樹なんだし。別にいいんだ。本当に、いいってば。さあ、どうぞ話を続けてください。



 ルシファーは、バツが悪そうに言い訳をした。


「……幸い、破られていたのは外側の宝箱だけで、爪の本体を封じた、小箱の封印は破られていないみたいなので、まだ世に出たと言うわけではありませんが」


「どうしてわかるの?」


「万が一、その封印が解かれた場合、緊急アラームが入る仕掛けをしていたんです。そのスイッチが入ったとの知らせはまだありません」


 ゼロスの質問に答えるルシファーを、レイルはため息をつきながら責める。


「あのさ、封印が解かれてからじゃ遅いよね? 何で、その小箱自体に発信機なりを付けておかなかったの? だから、ルシファーは詰めが甘いとか、馬鹿とか言われるんだよ」


「……すまねえ。ってか、言ってるのお前だけだけどな」


「いや、僕も内心思ってるから」


 と、ゼロス。

 ルシファーは、声もなく泣き出した。


 ルシファーが人間でなくなり、ゼロスの創造物でなくなってから、ゼロスのルシファーへの対応は、若干辛口になっている気がする。


 レイルは言った。


「主神ゼロス様、その捜索はルシファーが責任を持って果たすとの事ですが、今後もこのような事態が起こらないとは限りません。それにもう、グリプスの迷宮だけでは、それらを隠すには狭すぎ、またそれらを手にする為の攻略の難易度としても、低すぎるのです。ーーーどうか、新たな迷宮の創造を、お願い申し上げます」


「……」


 ゼロスは腕を組みながら思案した。

 そして、顔を上げ言った。


「ーーー……駄目だね。それを創ったところで無意味だよ。ねえ、レイス?」


「「……。」」


 ゼロスの言葉に、二人は押し黙った。

 レイスが背を向け、作業を続けながら、独り言を呟くように言う。


「迷宮ならばいくらでも創れる。だがそれの管理を誰がする? 言っておくが、レイスはしない。ノッているときは楽しいが、波も去れば、宝箱の中身など誰が見に行くものか。どうせ大したPVも稼げないのに、そわそわするだけ時間の無駄だ。貴様の言う通り、グリプス攻略の難易度は超初級。言うならば、お試しサービス版と言ったところ」


 レイスの言葉に、二人は眉間にシワを寄せた。

 だってグリプス大迷宮と言えば、人類史上まだ、3組しか踏破できていない所だしね。ガルシアとレイル、それにまぐれ攻略を果たした、例の彼だ。

 とは言え、レイスの言う通り、レイスの爪や、神獣達の部位が手に入るには、あり得ないほど、優しい難易度である事は間違いなかった。


「難易度を上げることも簡単だ。だが、場所は場所でしかない。そこに来るものを選び、試す事は迷宮には出来ない。迷宮は、ただ、あるがままを受け入れ、プログラムされた流れを行うだけ。レイス達の創った物は、見合った者が使う事で初めて活きる。見合わない者の手の届く場所や、誰も来ない場所に封印しておくだけならば、壊し、消滅させてしまうほうがよっぽど良い」


 そう言い切る、レイスに、ふとゼロスが言った。


「あれ、レイス、ディスピリアの件は……?」


「……ナンのコトかワカラナイ」


「……なる程、あれは記憶から消滅させたって訳か……」


 ゼロスの茶々をスルーして、レイルは尋ねる。


「迷宮に、魔導書ソルトスの様な意思を持たせることは出来ないのですか?」


 レイスは首を振った。


「それこそ危険だ。個の意思が、レイス達……ましてや貴様等の思い通りに行くことなどあり得ない。ダンジョンがお前達の言う所の“神具”をその腹に収めてしまった場合、貴様等は対処できるか? その時偶然、レイスやゼロスが近くにいるとは限らない」


「……全知全能の神の、思い通りに行かぬことなど……あるのですか?」


 レイルの問に、レイスは哀愁を漂わせながら言った。


「……レイス達は万象を定められる。だが万象を動かし、結果を導き出すのは、当事者共だけだ。もし、神の思い通りに全てが動くのであれば、この世には邪神も、偽神も存在はしなかった……」


 黙り込むレイスに、その場の誰一人口を開こうとはしださなかった。


 ……そう、レイスは決して邪神なんかになりたくなかった。レイスが目指したのは、みんなに愛と夢を配る、サンタさんだったんだから。

 だけどその夢はまだ遠く、何故かレイスは、邪神で、サタンで、始まりの悪の権化と言うことになっている。

 可哀想に。……だけど、きっと夢は叶うよ! レイス頑張れ!


 俺は内心で、一生懸命応援していたのだけど、実際のその場は、無言の静寂に包まれたままだった。


 やがてレイスが振り返り、レイルの前に降りてきた。


「ーーー言え、脆弱なる者よ。例えそれに、どれ程の力を秘めたものだろうが、今ならレイスがその全てを壊してあげる。レイスは別に、それこそ世界が壊れようが別に気にしない。……壊したくないというなら、帳の外に移して、ゲートを壊すという手もあるか。何れにせよ、簡単な事だ」


 レイスの淡々としたその言葉に、レイルが拳を握りしめながら、「破壊神」とか呟いていた。

 だけどレイル、それは違うよ。これはレイスなりの優しさなんだ。レイスは、“人間達で処分や対処ができない物は、レイスにお任せ☆”って、言いたいだけなんだ。


 俺はもどかしさを感じながら、黙って沈黙の中、枝を揺らした。


 レイスがまた黙り込んだのを見て、ゼロスが慰めるように言った。


「……そういう事なんだ。ーーーとはいえ、僕は、創造をしたものは壊したくないと思っているよ? だけど、迷宮にただそれら放り込むだけでは、何の解決にもならない。間違って迷い込む者を、ただいたずらに喰らう、黒い穴が出来るだけなんだよ。残念だけど、レイスの言う対処が1番確実だね」


 ルシファーが、レイルの肩を叩いた。


「ーーー神は、全てを考えておられる。オレ達は、それを受諾し生きて行くしかないんだ。さあ、帰ろう。楽園(エデン)に送ってやる」


 レイルは暫く拳を握りしめていたが、ふとその拳を解き、困ったように笑いながら言った。



「ーーーなら、僕がその管理を全てします。それなら創ってくださいますか?」



 レイルの言葉に、場が静まり返った。

 そして、その静寂を破ったのは、ゼロスの横に並び立つ、レイスだった。



「ーーー構わない。だが、今在る物を隠すだけで、その数は数千では利かない。到底人間等の下等生物に管理しきれるとは思わないが?」


「どんな困難でも、僕は立ち向かいやり遂げる所存です」



「ーーー……ふん。人間の考えることなど、初めから分からないが、なぜそんな面倒な事を引き受けようとする? 理解出来ない」


 レイルは跪き、頭を下げて言った。



「ーーー……全ては、ゼロス神の、聖心に適いたい為」



 俺に、もし瞼があれば、今この瞬間それを瞬かせていただろう。そして思う。



 ーーー上手い。



 おそらく他の者であれば、この最高位の2柱を前に、同じ事を問われれば、きっと自我を主張する者が殆どだろう。

 だけど、この場でも、レイルは己の立場を見失わず、そう言いったんだ。その答えが意味することを、よく理解した上でね。


 だって、その答えが何処までレイルの本心かはさて置き、そう答えた者を、レイスは邪険には出来ないんだ。

 何故なら、レイスはゼロスが大好きだから。

 そしてまた、自分が創造した者達を愛するゼロスも、こう言われてしまえば、断る事はできないだろう。

 レイルはこの一言で、己の立場を最大限に利用し、神々の逃げ道を奪い、その心を決めさせる事に成功しようとしていた。


 ルシファーとじゃれ合う様な軽口を叩きながら、レイルはきっとこの2柱を観察していたんだ。その反応と2柱の性質を見極める為、ラムガルなど、始めから歯牙にもかけず、そうと悟られぬよう、ずっと本命だけを狙っていた。

それに、多分レイルは、元から自分のみを捧げる覚悟くらい、はじめから既に持っていたように思う。

 生前の生き様もそうだった。目的の為に、己を顧みず、最善を尽くす。それが、レイルと言う男だった。 



「ふん、好きにすれば良い」



レイスが言った。



ーーーそれは、レイルが神から、望むものを賜る確約をとった瞬間だった。

 


 ニコリと笑うレイルに、ゼロスは困ったような笑顔を向けた。

 そして、その様子に、ラムガルは怒りを堪えながら爪を掌に食い込ませ、ルシファーは呆れ果てたように笑ったのだった。






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