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神は、最強の装備を創り賜うた

 どさりと、レイスに投げ降ろされた天の邪鬼が、その場で蹲ったまま、呆然と呟く。


「なん……だったんだ? 伸芳の野郎に風穴を開かれたと思ったら、……海がっ、龍がいっぱい居て、……レイス様が居てっ……」


 未だに、天の邪鬼は、その目に見たものへの理解が追いつかない様子でプルプルと震えている。

 だけど、分かるよ。

 天の邪鬼が飛ばされたそこは、きっと水の惑星だったんだ。

 そこで、レイスが、レヴィアタンでも創っていたんだろう。

 うまく回収してもらって良かったね、天の邪鬼。

 俺はこの奇跡的な偶然に、神に感謝をした。……具体的には、レイスに感謝したという事だけどね。


「なんか、宇宙怪獣を作ってたら、ハム……小鬼達と天の邪鬼が飛んできた。小鬼達はもふもふしてたけど、天の邪鬼はモフ成分が少なくなってて、しょうがないから、ひとまず返しに来た」


「そ、そうだったんだ……」


 ゼロスも、この奇跡に、返す言葉が見つからない程驚いている。


 だって、ほら、広い宇宙の数ある1つ、青い惑星の広い世界で、小さな鬼の身体が届くなんて、……凄いよね!


 レイスは黙り込むゼロス達を、特に気にする風もなく、マイペースに話を続ける。


「向こう側に穴が空いたあれは何? ゲートとはちょっと違う感じがした。穴が空いた向こう側から、こっちが見えて、レヴィアタン達が驚いていた」


「あ、あぁ。あれはね……」


 そして、ゼロスは、レイスに伸芳の話を始めた。



 ◆◆



「……なる程。ラタトスクが侍を望んだせいで、……迷惑をかけたな」


 話を聞き終えた後、レイスはすっかりボス気分で、ハムを撫でながらそう言った。


「いや、迷惑なんて無いんだけどね。むしろ、天の邪鬼に申し訳ない事をしたな、と」


 ゼロスの言葉に、放心していた天の邪鬼が、吠えた。


「あんなのっ! 反則だっ!! 人間じゃねぇよ!!」


 それから再び大地に手を付き、“……違う、アンナの楽勝だ……。俺様にとっちゃ楽勝だ……”と、大地を見つめながらブツブツと繰り返す。

 天の邪鬼としての性だね。


 その姿があまりにも哀れで、神々と魔王は、心の折られた桃色の頭髪の鬼人を見た。


 ゼロスが声を掛ける。


「……天の邪鬼……」


「……」


 天の邪鬼は、答えない。


 レイスは、そんな地を見続ける天の邪鬼に、強い視線を向けた。

 そして言った。


「天の邪鬼よ、お前は何を望む?」


「力……俺様は……、力が………」


 ブツブツと、呟くように言う天の邪鬼に、レイスは溜息をついた。


「無様に負けて尚、“俺様”などと己を呼び、虚勢を張る哀れな鬼よ。力が欲しいだと? 力など、それを手に入れた者の心により、姿を変える不確定なもの。今のお前がただ力を手にしたとても、それは虚ろ。虚栄でしか無い。お前はそんな、虚ろの力を手に入れて満足か? 今一度、その心に問う。……そして、これが最後の問い掛けと心得よ」 


 天の邪鬼がぼんやりと頭を上げ、レイスを見る。


「お前は、一体何を望む?」


「オレ は、……伸芳を、……。 ……いや、伸芳と対等にやり合える力がっ……」


 天の邪鬼の目に、光が宿った。

 だけどその言葉を、天の邪鬼は言い切らない。

 そんな天の邪鬼に、レイスは鼻を鳴らしていった。


「フン、お前は天の邪鬼だからな。皆まで言うと“要らない”と言ってしまうとでも思ったか。心配するな、お前はこのレイスが創った。その性は分かっている」


「……くっっ」


 天の邪鬼が泣いた。

 ゼロスと魔王の無茶振りが、辛かったんだね。……よく、頑張ったね。


「ゼロス、レイスはこの天の邪鬼の願いを叶えようと思う。だけど、本当に伸芳と同等の力を与えると、十中八九、世界は滅びる」


「……うん……」


 ゼロスは、伸芳を作り出した手前、正面からレイスを否定出来ないでいる。


「だから、吸い込まれないようにだけ、してあげようと思う。風穴が無ければ、伸芳は、勇者程度の力しかない。それなら、天の邪鬼でも、やり方次第でなんとか食いつける」


 勇者の力を“程度”扱いするレイス。

 レイスの言葉に、ゼロスは思わず言い返した。


「っだけど、あの風穴に耐えられるって一体どうするっていうのさ!?」


「……ゼロスの協力があれば、出来る」


「え? 僕の?」


「そう。少しでも天の邪鬼に、罪悪を感じるのであれば、協力して。ゼロスの髪が欲しい」


「え、僕の髪? 良いけど、……はい」


「「!?」」


 そう言うと同時に、ゼロスはバッサリと、その長く美しい後ろ髪を、根元から切り落とした。

 その余りの思い切りの良さに、ラムガルと天の邪鬼が驚愕に目を見開く。


「これで良い?」


「ん。じゃあ……リリマリス」


 レイスが黒い毛束を受け取りながら、風の化身の神獣リリマリスを呼んだ。

 次の瞬間、空が一瞬陰り、黄金の翼をはためかせながら、巨大な乙女が舞い降りた。


「リリマリス。お前の羽根を貰う」


 レイスがそう言いながら、優しくリリマリスを撫でた。

 リリマリスは、親に甘えるようその身を委ね、ピンク色の口に1枚の黄金羽を咥え、レイスに差し出した。


 レイスはそれを受け取ると、空にそれらを投げ上げる。


「紡げ、精霊共よ」


 レイスの声に合わせ、それらは光る無数の砂粒に包まれ、踊るように捻れ、黒い糸と、金色の糸へと生まれ変わっていく。


「出来た。ラムガル。これでチャ……いや、新しい羽織を作ってあげるといい。ゼロスの力を持ち、風の加護を受けた服を纏えば、風穴ごときに吸い込まれることは無い」


「……は……ははっ!」


「……」


 糸を受け取るラムガルの声が震えている。

 天の邪鬼に至っては、声すらもう出せないでいる。

 その後ろでは、サッパリとイメチェンを果たしたゼロスが、少し困ったように微笑んでいた。




「ゼロス、短い髪型も似合うね」


「ありがとう、アインス」





 ーーーこうして、ゼロスの髪は短くなったんだ。




その日、聖域にはラムガルが機織りする心地良い音が、とったんぱったんと、響いていた。

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