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番外編 〜ルシファーの花嫁 悪役令嬢と、悪魔のプリンス19〜

 私とレイルが、学園に到着したとき、辺りは騒然となった。


「マリアンヌ!!」


「お父様!」

 

 私は、目の下に隈を浮かび上がらせたお父様に、抱きついた。

 お父様は、私が魔物に攫われたという知らせを受け、駆けつけてくださっていたのだ。


「心配をかけてごめんなさい、お父様。私は、マリアンヌはこの通り無事ですわ」


 目に涙を滲ませながら、強く私を、抱きしめるお父様。

 全寮制だった学園は閉鎖されて、学生達は強制的に帰されていた。教師陣は残って居るものの、その敷地は、今や王国兵で埋め尽くされていた。


 ……未知の魔物だったって事もあるでしょうが、一応私と共にさらわれたレイルは、“王子”でもあるからね。


 私がお父様との抱擁を交わしていると、ツカツカと歩み寄る1つの影があった。


「マリアンヌ、無事……だったのか?」


 ラース様だった。

 私はお父様から離れ、ラース様に優雅な一礼をした。


「はい。この通りにございます」


 ラース様は眉間にシワを寄せながら、くやしげに言い放った。

 ーーーただ、その内容は予想外のものだった。


「ーーーすまなかった。先日の騒動、全ては俺の思い違いだった。……赦せ」


「……」


 あらあら……、ちょっと見ないうちに、随分素直になって! 

 だけどまぁ、その表情が、まだまだ子供なのでございますがね?


 私はじっとラース様を見つめ、そして深々と膝を折りながら、言った。


「赦します。但し、我が誇りを傷つけられたことは、この身を裂かれる程の苦痛にございました故、条件が御座います」


「なんだ? 構わん、言ってみろ」


 私は俯き、表情を悟られない角度でニヤリと笑う。


「私との婚約、破棄をして頂きたく申し上げますわ」


「な!?」


 私の言葉に、ラース様だけでなく、お父様や周りの者達も騒然と騒ぎ出す。


「一体この3日の内に何があった!? 何故そのような事をっ」


「この3日。ーーー……とんと記憶がございません。魔物に攫われ、恐怖に気を失った後、気付けば私はここに居たのですから」


 嘘ですけどね。

 3000年前まで覚えてますけどね。


「っ、レイルっ! お前はどうなのだ!? 一体何があった!?」


 ラース様は、泣きすがる母と並び立つレイルに、まるで怒鳴るように言った。


「……ごめん、僕もマリアンヌ孃と同じく、まるで記憶がない。外傷といえば、顔に残る軽い凍傷だけど、これがいつ付いたのかさえまるでわからない。……ただ、何やらこんなものを握り締めていた」


 レイルはそう言って、ひと巻の羊皮紙を、懐から取り出した。

 あれは確か、ルシファーと一緒に作った、対魔物武器の設計図じゃなかった?

 ……って言うか、乗ってくるとは思ってたけど、ホントにノリノリね。後、顔のそれは、雪合戦でハッチャケ過ぎたから。


 首を傾げながら、その巻物を見るラース様の後ろから、チラリとそれを覗き込んだ一人の教師が、目を見開き、不敬も構わずそれを毟り取った。


「……! コッ、コレは、魔法武器(マジックウェポン)の設計図!!? しかし、……馬鹿な? あり得ない! こんな物を使えば地形自体が変わるぞ!!?」


「!?」


 本物の偽物(サクラ)にも負けぬ、その教師のアピールぶりに、人々は皆、巻物に視線を集中させた。

 ……この時、レイルがニヤリと笑っているのには、誰も気付いていないみたい。

 レイルはひと呼吸つき、首を振りながら言った。


「僕はそれを何故握ってたのかは、全く記憶が無い。ーーーだけど、僕の持ち帰ったそれを見るところ、これだけは言える」


「……。」


 皆が、レイルの言葉を待った。

 レイルは、まるで睨むような強い視線を皆に送り、王子の貫禄を無駄に放ちながら、言った。


「伝説の魔物は、間違いなく存在し、奴らは僕達より強大なパワーと、未知の文明を有している。そして奴らはいずれ、眠りから目覚めるよう、突然この平穏を引き裂き、僕ら人間達に牙を向くだろうと!」


「ーーーっど、どうすれば!?」


狼狽える野次馬達に、レイルは声を少し低くして言う。


「奴らのその武器を、逆に利用してやるんだ。いずれ来る闇に立ち向かう為、その武器を完成させ、作動させられる技師を教育する」


「!?」


「ーーーラース、僕は、この学園を辞めようと思う」


「な、レイルまでおかしくなったのか?」


「……()()? ラース。僕も、マリアンヌ嬢もおかしくなどない。むしろお前の方が、望みが適わず、なんとかしようと現実から目を背けているように見えるが?」


「どういう事だ?」


「マリアンヌ嬢は、魔物に3日もの間拉致をされた。この意味が分かるか? 本人の覚えは無くとも、そのような者を妃に置けるわけがないだろう。お前はいずれ王となる身。それを案じ、この一分の非も無いマリアンヌ嬢は、お前の為に身を引こうと言っているんだ! お前は、それが何故分からない!?」


「!」


 ……。……そこまで考えて無かったわ。


「……そう だったのか? マリアンヌ」


「え、ええ。このような事があったのでは、私も身を引かざるを得ませんわ。私は父の歩んだ医学の道を、一人志してゆく所存にございます」


 切なげに私を、見るラース様。

 ……だけど、あの超弩級美少年セーレのチワワ攻撃に比べれば、後ろ髪1本引かれないわ。


「僕は、学園を辞め、旅に出よう。この事実を世界の者に伝えるには、当事者である僕にしか出来ない事だと思う。この学園には優秀な者が多い。僕などいなくても、その武器はきっと完成させられる筈だ」


「っ、と、当然だ! 任せてくれ、レイル王子!」


 野次馬の中から、レイルを応援する声が上がった。

 ……流石だよ。うまく全部ぶん投げて、一人で旅に出る気だ、この人。


「ただ、僕が学園を中退したとあれば、母の家名に傷がつく。先生、これは僕が個人的に翻訳をした、現在未解読とされていた古文書だ。卒業論文の代わり、これでいいかな?」


 ーーーパララ


「……ほげっ!?」


 レイルの差し出したノートをめくった教師が、妙な声を上げた。



 ーーーこうして、後日の正式な会見を持って、私の婚約は無事破棄される事となったのだった。




次話、やっと簡潔です!

 


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