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番外編 〜ルシファーの花嫁 悪役令嬢と、悪魔のプリンス17〜

 私はリーナ。一度死んだ。

 だけどルドルフ様の願いにより復活し、神々に見初められたと言う有り得ない運命を辿った夫により、この世界に蘇らせられた。

 ーーー私の記憶はこうだ。

 リーナとして死んだ後、私は約三千年後に再び蘇った。

 アーチェと言う、ある村人の娘だった。

 アーチェは幼少より村で育ち、ルシファーからの招待状を受取ったのは、18歳を迎えてすぐの事だった。来月、幼馴染との結婚を控えていると言うその時に、訳もわからず攫われ、訳もわからず歓待を受け、2日後の夜、リーナとして目覚めた。

 当然目覚めたばかりの時は、私も訳がわからず、夫を名乗る魔物を問い詰めた。

 そうこうしてる内に、夜は明け、そこで私のアーチェとしての記憶は終わっている。

 次が、リリー。23歳の今一うだつの上がらない歌手だった。

 そしてその次が、ジーンと言う、41歳の狩人(男)。

 シュートという名の、牧羊犬の時もあった。


 そして、動物や魔物だった事もあったりして、約60の人生を超え、私は今、ようやくマリアンヌなのだ。

 ただ、私とリーナ以外の、()の人生は、ルシファーとあった夜を境に途切れている。


 そこで私は、1つの結論に辿り着いた。


 “ルシファーがリーナと逢っている時、その人(?)達は、ちゃんと意識があった”、と。


 そう、今の私のように。

 魂と肉体の関係はわからないけど、医学的には、生物は、その脳に記憶を蓄積するとされている。

 魂なんてもの、医学においてはおとぎ話で、空に浮かぶ“楽園(エデン)”は、子供を躾けるための作り話だと思ってた。亡者なんてのも、当然なにか悪い呪いや魔法の一種かと……。

 だけどもし。……もしよ? 魂にも記憶容量があるなら、その記憶が肉を得た地点で、その脳に、魂の記憶が書き込まれる。そして魂にも、その者の人生の記憶が書き込まれる。謂わば、“記憶の同期”のような現象が、起こってしまってるんじゃないかしら?


 私は、隣でそわそわしているルシファーに回す気が湧いてこず、ただ呆然と幻想的な景色を見つめた。



 ーーー、いやぁ。これは、正直キツイ。


 確かレイルも言っていた。“ルシファーの奥さんの記憶に、自分を見失いそうになった”、と。

 今私の中には、飛び飛びではあれ、約60人分の人生、時間にして、およそ2500年分もの記憶が頭の中に入っていた。

 ーーーそう言えば昔、エルフもドワーフも居なかったわよね? 今でこそ当たり前に居るけど、いつの間に出てきたのかしら?


 レイルから話を聞いていたから、自分を見失うなんてことは無いけれど、過去の私達も、この記憶の荒波を乗り越えるのに、最低でも朝が来るまでの半分の時間は消費してしまっている。


「ーーー大丈夫か? 目覚めさせたら、必ず調子悪くなるよな。身体にも、魂にも負担はかかってないはずなんだが……。ほら、薬茶を持ってきた。これ飲んで落ち着けよ」


 私は思わず、ルシファーを睨んでしまう。


「ーーーあなたって、本当に何もわかってないのね!」


「!? ?」


 私の言葉に固唾を飲みながらも、頭にはてなマークを浮かべるルシファー。

 そうだ。……ルシファーは何も悪くはない。ルシファーは、ただ(リーナ)に逢いたかっただけで、この副作用(?)を知らない。

 あのマリアンヌの記憶しかなかった時、苛立つほどにその惚気話の中で話していた。“意識は無い”、と。

 っと言うか、今となっては顔から火が吹くほどに恥ずかしいあの話……。っあんな話、他の人にしないでよ!

 私は、はあ、と大きなため息をついた。


 ーーーそれに、私だって逢いたかったんだもの。


 せっかく逢えたのに、こうして何も言えないのは勿体無い。

 私は、困ったような顔をするルシファーに、笑顔を作って、なるべく明るい声で言った。


「ふふっ、もう50年も経ったのね」


「あ、ああ。……わかってないって、何が?」


「ああ、良いの。気にしないで。それより、呼ぶときは“ガルシアさん”のまでいいの? ルシファーさん?」


「あれ? その名前、リーナに言ったっけか? んー、まあどっちでもいいんだけど、今じゃこんなナリだし、“ルシファー”にしといてもらおうか」


「わかった。()()()()()()()


「ルシファーでいいぞ?」


「ーーー……ポッ」


「なぜ照れる!?」


 だ、だって、今まで“魔物”だと思ってたから、呼び捨てにできたけど、ガルシアさんだって知ったら、呼び捨てにするなんて。……内心でならともかく、ねえ? 


「ったく、変わってねーな」


「ーーーわかった。ルシファーって呼ぶわ」


 私はそう言って、ルシファーの差し出してくれたコップを受け取った。

 ミルクと蜂蜜の入った、温かい薬草茶を一口飲む。

 それを見て、やっと肩の力を抜いたルシファーが言った。


「あのさ、リーナ。今回お前を聖域に連れてこうと思ってたんだ。実は、ルドルフとはもう約束をしてるんだ」


「聖域! ルドルフ様、お懐かしいわ。お元気なの?」


「ああ。あいつ、この三千年で結構でかくなっててな。絶対びっくりするぞ」


 そう言って、ルシファーは立ち上がり、私に手を差し出してきた。だけど、私と目が合うと、その身体をこわばらせた。


「……っ」


 ? あ、もしかして、臨終の件、根に持ってる?


 やっぱり手を降ろそうとするルシファーの手を、私は捕まえた。

 そして、上目遣いにルシファーを見上げた。


「……リーナ?」


「連れて行ってくれるんでしょ?」


「!」


 手を握り、私の甘えるような声に、ルシファーの目が輝いた。

 ……ふ、男ってチョロい。


「よっしゃ! 捕まってろよ!!」


「えっ! ち、ちょっとルシファー!?」


 私が内心ほくそ笑むと同時に、私はルシファーに横抱きに抱え上げられ、そのまま空に舞い上がった。

 その目の回りそうな高さに、私はルシファーの首に抱きつくようにしがみついた。


「……。」


 ルシファーと目が合った。


「……こ、怖いから、しがみついてるだけよっ」


 ルシファーが嬉しそうに笑った。


「ははっ、そりゃ男冥利に尽きるってもんだな」


 っ……怖い、から。 ……怖いけど、まあいいか。




 ◇




「おおーーい! ルドルフ!」


 ルシファーが、世界樹様(アインス様)の根元にいる、ルドルフ様を見つけ声をかけた。

 ……しかし、世界樹(アインス様)は相変わらず大きい。

 その葉は淡い光を放っていて、夜だというのにその周りは明るかった。

 ルシファーは、ルドルフ様のそばに降り立ち、声をかけた。


「早かったんだな。待ったか?」


「はぁ?今来たとこに決まってんだろ。誰がお前なんか待つかよ!」


 そう言って足を踏み鳴らすルドルフ様。相変わらずだなあ。

 っと言うか、ルドルフ様、めちゃくちゃ大きくなってる! 4メートルくらいあるよ!?


『黒王号みたいでカッコいいよね』


 無意識に呟いてしまった私の声に、世界樹様(アインス様)が応えて下さった。……って言うか、黒王号って誰?

 そして私を見下ろすような格好で、ルドルフ様が言った。


「おう、お前もしかしてリーナか?」


「は、はい! お久しぶりです!」


「おう、3000年ぶりだな。なんかちっこくなったか?」


 アナタが大きくなったんですよ。


「まあいい。ルシファーから話は聞いてるか?」


「? いいえ、一体何の事でしょう?」


「……おい、言ってねえのかよ」


 私の答えに、ルドルフ様がじとりとルシファーを見る。


「はは、サプライズだよ。んじゃ、やるぞ」


 ? ?? 


 訳のわからないまま、ルシファーが青く光る、磁場を作り出した。

 そしてその直後、空から美しい光の渦が降りてきた。


「!?」


 私がその光が成した影を認めた瞬間、かつてに聞き慣れた叫び声が響いた。


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