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番外編 〜ルシファーの花嫁 悪役令嬢と、悪魔のプリンス11〜

ルシファー目線です

 オレはレイルの話を聞いて冷や汗が出た。

 だって案内役につけたあいつ等は、オレの前ではずっと、軽口は叩けど、真面目で、頭もよく回り、気が利いて、実にいい働きを見せてくれていたんだ。

 ……だから忘れていた。ベリアルとセーレの属する種族、インキュバスと言う生物の本質を。


 インキュバスとは、愛を求める者に愛を与える者。そう、神に創られた者達だ。

 人間が食物を食べ、眠り、排泄し、やがて死ぬと言う神から定められたその理から逃れられないように、インキュバスもまた、目の前に、愛を求める者がいれば、与えようとせずには居られないのだった。


 感情の消え去った様な顔をしたレイルに、申し訳なく言った。


「そうか。お前、そこまで愛に飢えてたんだな」


「なんでだよ!? 別に飢えてないし、他に言うことあるでしょ!?」  


 更にレイルが怒った。レイルには、どうも自覚がないが、人間ってのは愛を与えるぶん、見返りも求める生き物だ。それが貰えないとふてくされて、“もう誰も愛さない”とか、いじける事がある。見返りは、たいてい三倍の見返りを求めるため、人間は常に欲求不満状態。当然、このレイルも例にもれずにな。


 俺はなお睨んでくるレイルに、肩をすくめて言った。


「ーーーまぁ、お前等にアイツ等を付けたのは、オレのミスだった。すまん。代わりにオレのベッド貸してやるよ」


 ま、実際の所、インキュバス達からの被害はボディータッチ以上の事は何もなかったようだし、精神的ダメージについては、悪いが自分で克服してくれ! 人生、色々あるさ。そして世は事も無しって奴だ。


「ーーー、それだけ?」


 レイルが睨みながら、職務椅子に腰掛けるオレに詰め寄ってきた。

 オレは椅子を回し、レイルに背を向けた。手を動かしながらでも話は出来るからな。

 背中越しに、オレはレイルに聞く。


「なら、それ以上何をして欲しいんだよ? 言ってみろ」


 まあ、ほぼ無理矢理連れてきたと言う引け目もあり、一応出来うる限りの望みは叶えてやるつもりだ。

 オレがレイルの次の言葉を待っていると、背中にふわりと温かいものがのしかかって来た。

 肩に、首に、細い腕が伸びて絡みつく。そして耳元で囁くような声が響いた。


「ーーー……責任をとってよ」


「は?」


 レイルが俺に抱きついていた。


「っ!!!!?」


 オレは驚きのあまり、椅子から落ちた。


「な、っな、……な?」


 尻をつき、驚愕に言葉も出ないオレを、レイルは見下しニヤニヤと嗤いながら言う。


「僕の気持ち、少しは分かった?」


「!」


 ……こんの、小僧がっ! 当てつけかよ!!?



 そして、この不遜で掴み所のない王子様とオレの、不思議な一夜が始まったんだ。




 ◆




「だいたいさあ、監督不行届だと思うよ? 手紙の件にしろ、案内役の件にしろさ。職務怠慢だよ」


「……。」


 オレは、レイルに寝具を提供したのだが、レイルは何故か俺のデスクに丸椅子を引っ張って来ては、隣に腰を降ろし、頬杖を付きながらグチグチとオレのダメ出しをしてくる。


「……あのさぁ、寝ろよ?」


「突然、こんな所に攫われて来たんだ。オチオチ寝てなんて、いられないよね」


「じゃあなんでグチグチ小言は言えるんだよ? お前は監査か何かか? こっちはもう3徹中なんだ。勘弁してくれよ」


「3徹? 3日も寝てないの?」


「……3年だよ」


「え!? 徹夜なんて、仕事できない奴の典型なのに、3年!? どんだけあったま悪いの!」


 辛辣なコメントを吐きつつ、それは可笑しそうに笑うコイツを、オレは殴りたくなった。

 マリアンヌちゃんの前や学校内じゃ、随分なお行儀のいい猫を被ってたようだが、オレの部屋に入って来てから、レイルはその腹黒さを隠そうとせず、完全な悪に染まってしまった。

 たった3日の付き合いなんだから、オレにも猫被ってくれよ! 何で俺だけこんな塩対応なの? 心が折れるだろ。


「ねえねぇ、明後日の儀式って、一体何するの? 痛いことは嫌だな。終わったら帰すって言ってたけど、後遺症とかは無いの?」


「まあ、お前等の肉体に負担はかけないから、痛みはないだろうな」


「やっぱり魂には神経がないんだ。魂が引き裂かれるような痛みってどんな痛みかと思ってたんだけどね」


「ものの例えだ。言ったように、お前に7割、マリアンヌちゃんに2割の魂がまざっている。そして残りの1割は世界各所に散らばってるんだけどな。儀式って言うのは、それを約束の日の夜に、オレの魔法で集めて、復元した魂を、1番魂の保有割合の多かった肉体に入れることだ。まあその間、魂の欠けた者達は眠りにつく訳だが、そいつ等には、安全のため疑似魂を魂の欠けた部分に入れておくから、まず問題が起こることはない」


「え、ちょっと待って? だったら僕の肉体で、ルシファーの奥さんは復活するってことだよね? マリアンヌは一体何のために連れてきたの?」


 ……っ。 俺は言葉に詰まった。


「いやー、……その、マリアンヌちゃんが嫁の若いころそっくりだったんだよ」


「へぇ? マリアンヌにそっくりだなんて、ルシファーの奥さんは随分綺麗な人だったんだね。……つまり、本来の流れとは違って、僕じゃなくてマリアンヌの身体に奥さんの魂を入れたくなったって事?」


「……まあ、仮魂が出来てから、8割までなら魂を抜く事ができるようになってな。ーーーってか、おまえだってヤローと過ごしたくは無いだろ?」


「……そう、そうだね。そんなの当たり前だよ」


 レイルはオレの事情に納得し、頷いた。

 そして少し俯き、何かを考えているような沈黙が続いたあと、またレイルは、小言の続きを始めた。


「って言うかさ! そもそも、インキュバスたちだって変じゃない? そんなに盛りたいなら、他の魔物やルシファーに盛ればいいのに」


 盛るとか言うな! アイツらの行動は愛なんだ。尊いんだぞ!


「インキュバスの本能は、“愛を求める者に、愛を与える者”、って事だ。そしてそもそも“誰かに愛されたい”なんて、愛を求めたり、愛に飢えたりするのは人間だけの感覚だ。魔物達はみんな、自分を一番に愛している。そして他人の事など気にも留めない。神にそう創られたんだ。だから魔物達は、自分が存在してる限り、愛を他人から求めることなんてしない」


「ならなんでルシファーは、今更奥さんを復活させたいって願うの? 自分大好きなら、過去の奥さんなんてどうでもいいんじゃないの?」


 ……クッ、レイルの奴、中々痛い箇所をついてくる。

 オレは、オレの過去を封印した。もしそれが世間に出ると、厄介なことになるからだ。

 レイルの疑問は、オレの隠した過去、その核に触れるものだった。

 オレは、目を泳がせ、適当に濁した。


「あーー……オレはちょっと特殊なんだよ。人間って奴を良く知ってるというか、こんな形だけど、人間に近い存在というか……。」


「?」


「まあ、そういう訳で、嫁に会いたいとは思うんだよ。だけど、愛に飢えるってことはないな。オレは自分が愛されてる事を知ってる。神から、そしてこの世界から、無尽蔵の愛を受けた。だからオレはここに存在してるんだ」


 オレはそう言ってから、自分が何とも恥ずかしい事を言ってしまった事に気付いた。

 そしてそれに、漏れなくレイルは、辛辣コメントを入れてくる。


「ーーー……何ていうか、“自意識過剰”?」


「けっ、言ってろ。インキュバスに狙われる、愛に飢えた寂しん坊が」


「じゃあ、ルシファーが慰めてよ?」


「……そういう冗談はやめろ」


 オレはニッコリと笑うレイルを睨んだ。そして、立ち上がり書類を運びながら言う。


「さあ、本当にもう寝ろ。オレにはまだ仕事が残ってる。お前にはまだ構ってられねんだ。言っただろ? マジで片付けねぇと、明後日……いや、明日の儀式で集中できないんだよ。仕事が気になって」


 いつの間にか、時計の日付は変わっていた。


「……ねぇ」


 レイルが頬杖をついていた肘を降ろし、声を掛けてきた。


「見てたけど、本当に頭悪いよね」


 何?

 この野郎、相変わらずっ……


「だって、さっきから同じ様な形式の書類の数値の纏めと演算でしょ? 魔法陣でオート演算させれば良いじゃない」


 ……何? 


「それ、何かの個人の名簿情報の書類でしょ? それをさっきから、レベル別に振り分けて纏め直したりしてる。さっきから運んでる書類の数見たら後20000人は居るよ? 明後日までにそのペースじゃ終わらないと思うよ」


 オレは、驚きに目を見開き、レイルを見た。


「待て。コレはお前等の所の文字とは違う筈だ。しかも、暗号化して書いてるんだぞ。何で読める?」


「そうなの? 似たような文字の形見てたら、なんと無く分かってくるでしょ。古文書や民族伝承なんかも、そんなふうにして読んでたし」


 大したことでもないと、レイルはサラリと言う。いやいやいや、普通そんな方法で読めないからね? そんなんで読まれたら、なんか暗号考えたオレ、バカみたいじゃん。なんか恥ずかしくなってきたよ。


 レイルは、オレの職務机に置かれたペンを取ると、書き損じた書類の裏にサラサラと魔法陣を書いていく。


 ーーーってか、この子なに!? ルーン文字マスターしてるよ! オレだってまだ未解明のやつ、使っちゃってるんですけど? ……人間達って今、まだ5枚しか石板発見してないのに、何でそこに載ってない文字まで知ってんの!?


 レイルは、書き上がった魔法陣の紙を無造作にオレに差し出してきた。


「たいしたことない、生活魔法の一つだけど自動読み込みに自動演算の魔法陣。はい」


 オレはそれを受け取り、眺めた。

 シンプルだけど非の打ち所がない。


 オレは、恐る恐るその裏紙魔法陣と白紙の用紙を、20000枚の書類の上に置いた。



 ーーーピカッ!



「!?」



 ーーーそれは、……オレにとって、奇跡の光だった。



 俺の一週間分の仕事が、……一秒で!!

 白い用紙は、その光で焼かれ、じわりと文字が浮かび上がってくる。20000枚のデータの数値が書き込まれた書類、それを纏め、芸術的な程に美しく色分けまでされた棒グラフ、緊急要項や備考欄が書き込まれた綴りまで!


「ーーー……。」


「どう?」


 オレの動揺を見て取ったのか、レイルはニヤニヤしながら聞いてくる。

 凄いって言いたくない! また無能って言われてしまう!!


「……は、ハッハッハー。オレの仕事はまだまだあるんだ。こんなもんで終わりと思うなよ?」


「次はどれ?」


「え?」


「だから、次はどれ? 文字はもう読めるから手伝うよ。寝てないんでしょ? さっさと終わらそう」


 至ってつまらなそうに、そう言うレイル。

 まるで夏休みの宿題を、哀れみながら渋々手伝うお兄ちゃんのような言い方。


 ……くそっ! 絶対に、「こんなの無理」って言わせてやるからな! 絶対にだ!!


 俺はここぞとばかりに、溜まりに溜まった仕事を、全てぶちまけてやった。

こちらを書きつつ、本編で何を創ろうか考え中ですが、いいアイデアが思い浮かばない……。

何かいいアイデアがあれば教えてください(´・ω・`)


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