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番外編 〜ルシファーの花嫁 悪役令嬢と、悪魔のプリンス⑨〜

「レイル、貴方女の子だったの?」


「マリアンヌ、頭大丈夫? 気でも触れた?」


「ーーーそうね、私がどうかしていたわ」


「こんな状況だし仕方ないよ」


「そこは否定なさい。慰めになってないのよ!」


 私達は今、ルシファーの土魔法によって作られた円盤に乗せられ、星空の下を飛んでいた。

 そして、その斜め上辺りを、ルシファーが翼をはためかせて飛んでいる。

 レイルが言うに、このルシファーという化物は(いにしえ)の魔物だと言う。

 その人智を超える力の前に、私達は成す術なく連れ去られた。

 逃げられないけど、特に拘束されている訳でもなく、私は普通にレイルと話なんかしてる。


 ルシファーはこちらを面白そうに見ながら、時たま声をかけてくる。


「仲いいなあ! お前等」


「「……。」」


「……ちくしょう、オレは無視か……」



 ルシファーは化物だ。 

 外見もさることながら、その身に秘めた力は紛れもなく、人外の化物なのだ。

 だけど、ルシファーの態度や言葉は、妙に人間臭い。

 私達を欺くための演技? それとも、……。


「ねえ」


 レイルもそれを感じ取ったのか、警戒をしながらも、ルシファーに声を掛けた。


「ん?」


「その翼、骨でしょ? 風を掴めないのに何で飛べるの?」  


 ルシファーは、星空の彼方を見つめた。


「……。……男が飛ぶのにゃ、体一つあればいいだろ?」


「いや、そういう意味じゃなくて」


「……ちっ、コレはオレの力の源なんだよ。いいだろ? いちいちうるせーな」


 翼はルシファーの無尽蔵エネルギーの源……。覚えておこう。

 そして私もふと、ルシファーに聞いてみる。


「ルシファー、あなたは何なの? 何故わざわざ、トキ☆バラ……いえ、トキメキ☆薔薇庭学園のアリスのシナリオ通りにしたの? あなたほどの力があればそんな面倒な事しなくてもいいんじゃなくて?」


「トキバラ? なんだそりゃ?」


 私は、懐から一冊の本を出した。

 アリアにケースを渡した為懐が物寂しく、ラース様との対峙の際最悪の場合、提示しようと持って来ていたのだ。


「何か見たことあるな。コレがどうした?」


 そう言ってルシファーは本を受け取ると、パララと最初から最後までページを流しめくった。その間約一秒。


「何だこりゃ? そう思いだした。これ確か、“ドキドキ♡秘密の花園のリリス〜あなたのハート、貰うわよ♡〜”って本だ。同人誌でも作ったのか?」


「って、なんで魔物がその本を読んでるの!?」


 レイルがびっくりしたように、口を出してきた。


「オレの部下のリリスが、「自分が主役の本が刊行された」って、喜んで皆に配りに来てた事があってな。ちょっとエッチな逆ハーレムストーリーだった」


「え、何なのそれ? どーいう事?」


「え? お前が何言ってんだ? だってこれ、その本をそこのレイルが魔法で上書きしたやつだろ。レイルの魔力残ってるじゃねーか」


「え……」


 私は、絶句してレイルを見た。レイルが書いた? え?

 レイルはキョトンとした顔でこちらを見て、微笑んだ。そして言う。



「……なんの事?」



 私は、ブチ切れた。





 ◇




「この悪魔!!」 


 私は、話し終えたレイルに怒り咆哮をあげた。

 ルシファーも、その話に呆れ果てたようにレイルを見る。


「おいおい。えげつないな、お前……。悪魔って、本物の悪魔に失礼な程の所業だぞ? あいつら、いい奴等なんだぞ?」


 ルシファーはそう言いながら、涙を目に貯める私を慰めてきた。


「マリアンヌちゃんも……その、苦労してるなぁ。その小学生みたいなラースって奴と言い、このレイルといい……男運ねえなぁ。ドンマイ!」


「その最たるものが、貴方ですけど? ルシファーさん」


「……も、申し訳ない……」


 ルシファーは、目を逸らせながら謝ってきた。そして、話を変えるように、明るい声を上げた。


「あ、ほら。見ろよ! 見えてきたぞ! 地獄の門!!」


 それは森の中に突如と立つ、おぞましい異形の骸骨で造られた門。


 ーーー冥界への扉だった。




 ◇




 暗い、地の底まで続くような階段を降りながら、ルシファーが言う。


「手紙は見たか? そこに書いてあった通り、お前等は、二日後、俺の嫁を復活させる為に来てもらった。レイルには7割、マリアンヌちゃんには2割の魂が混じっている。明後日の夜、月が消えるその晩に、神との盟約により嫁の魂は復活させる。儀式には立ち会ってもらうが、終わればちゃんと返すし、儀式までの2日間、お前達には傷一つつけないよう保護するから安心してくれ」


 ? 手紙? なんの事?


 私は、ルシファーの話に首を傾げた。

 隣を歩くレイルが、見上げながら、ルシファーに言う。


「宝って、奥さんの事だったんだ?」


「ああ、そんな書き方してたんだな。まあその通り、オレの宝だよ。……って、マリアンヌちゃんどうかした?」


 レイルとルシファーの話について行けてない私に、ルシファーが気付いた。


「……。! 手紙ってもしかして、あれ? “常闇のプリンス”っていうやつ?」


「ブッ!! な、なんだそりゃ? ちょっと待て。手紙になんて書いてあったんだ?」


「え、“今宵、ーーー……”」


 私が内容を言うと、ルシファーは崩れ落ち、レイルはお腹を抱えて笑った。


「あはは! 何それ! いいなあ! 僕もそんな内容が良かった!」


 ……まあ、ギャグ要素としては、こちらの手紙の内容はずば抜けてるからね。


 崩れ落ちたルシファーが地に手をつけ、震えながら喉から声を絞り出す。


「……あんの、野郎!!」


「「!」」


 突然ルシファーは私達を抱え上げ、信じられないスピードで飛び出した。


「ちょっっ! 落ち、落ちる!!」


 たぶん、これ落下速度より早いっ! 怖いぃ!!



 ◆



 ーーーバターン!!



 ルシファーは、凄まじい速度で冥界への階段を降りきり、その先のいくつもの部屋を飛び抜けると、一層大きな両開きの扉を蹴り開けた。

 そして、恐ろしいオーラを出しながら、怒りを滾らせた声で静かに言った。



「……オイ、ハデス」


「チィーーーーッス!! どうだったんスカ!? あ、もしかしてその子等がそうスカ! マジちょーマブイじゃん? 今回も当たりっすね!!」


 ルシファーの呼びかけに、部屋にいた、グレーのマントを羽織ったモヒカンが嬉しそうに駆け寄ってきた。

 ルシファーはふらつく私達を静かに降ろし、感情のない声で言う。


「招待状、代筆した奴は誰だ?」


「えーーと、あ! アルセーヌとか言う奴すよ。ほら、何か貴族だけど義賊してて、最終的にお姫様のハートを盗んだ罪で、死刑になった奴ス。相手が貴族ってゆってたから、俺チョーナイスチョイスじゃないスカ!? めっちゃ冴えてると思うんすよ!」


「ほう? そりゃあ何とも、オシャレな泥棒さんだなぁ。で、お前は内容を見てたんだろ? 何で止めなかった?」


「え? 何でって? それより、ちょ、ルシファー様聞いてくださいよ! アルセーヌってやつマジちょー天才なんすよ! 女の子に手紙書くときのコツ教えてもらったんすけどね? “ミステリアス”てヤツが、気を引くコツらしいんすよ!! マジもう目からウロコっすよね! ル……」



 パァーーーーーーーン!!



 高らかな響きと共に、ハデスは見えない何かにプレスされた。


「謎の手紙に、謎のメッセージか。そりゃミステリアスだよな。むしろ謎すぎて、もう怪文書だ。気を引くどころか、触れたくも無くなるよな?」


 こちらに、それはいい笑顔を向けてくるルシファーに、私は、頷いた。


「破り捨てたわ」


「ちょっ、ルシファー様っ、まじで核までっ!! ヤバイっすって!! つ、潰れ……っ」


「……もう、いいんじゃないかな? 潰れても。思い残すこと無さそうだし」


「ちょーーーーーっっ!」


 ハデスの叫びを聞きながら、隣を見ればレイルが腹を抱えて笑っていた。

 そして私はふと思う。


 ーーーそう言えば、ここまで自然に笑っているレイルは初めてかもしれない。


 私はそのグダグダした様子を見ながら、何だかレイルに対する怒りも冷めてきてしまった。

 確かにレイルの言う通り、ラース様への思いは私の中で完全に消え去っている。それに、なんやかんやでアリアと過ごした2年間はとても楽しかったのだ。

 レイルに対して憎しみはある。だけど同時に、感謝も多少なりとも感じているのだ。


 私は、目に涙を浮かべて笑い転げるレイルを見て、小さく肩をすくめた。



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