番外編 〜ルシファーの花嫁 悪役令嬢と、悪魔のプリンス⑧〜
マリアンヌ達は、何気に16歳になってます。なんやかんや端折って二年ほど経ってます(*´∀`*)
またマリアンヌ視点に戻ります!
私は、ラース様の言い分に、白けきっていた。
私がアリアを虐めていたと決めつけ、誇りはどこに行っただの、鬼畜と罵りながらも、昔の様に優しいマリアンヌに戻れだの言ってきて、まるで話が噛み合わない。
そのくせ結婚破棄を提案してみると、それとこれとは別だと言って怒ってくる。
面倒くさいわ。
もう、さっさとアリアのとこに行ってくれればいいのに。アリアの事が好きな割に、お見舞いにも行ってないでしょ。ホントに何考えてるのかしら、この方は。
私が内心で、溜息をついたその時、突然生ぬるい風が吹いた。
「?」
私が疑問に思った次の瞬間、突然校庭を照らしていた20もの篝火が、揺らめきもせず全て消えた。
「な、なんだ!?」
闇の中で何も見えないけど、ラース様の声が聞こえた。
ざわつく野次馬達の気配もする。
何も見えない。
その時、闇の中から、不思議な白銀に輝く光が降りてきた。
私はその光を見て、思わず呟いた。
「……雪?」
そのひとひらの後から、白銀に輝く、不思議な雪はどんどん舞い降りてきた。
因みに今は秋。多少の肌寒さは感じても、間違っても雪の降る季節ではない。
だけど私はそんなことを気にせず、その美しい降雪の景色に、ただ見とれた。
ーーーなんて綺麗な。
ーーー何だか、綺麗すぎて切なくなる。
「迎えに来たぞ」
「!?」
突然、闇の中から声が響いた。
そして、その直後、光を放つ積雪の上に、天使が舞い降りた。
見上げる程に背の高い、濃紺の髪の男。スリムなパンツにハイネックのインナー、そして膝までのロングベスト。
とてもシンプルな出で立ちで、まるでどこかの庶民のような格好。だけどそれは妙に様になっている。
色白で整った顔の左目には、黒い眼帯がはめられ、背にはーーー白骨化した翼が生えていた。
ーーー違う。 これは天使なんかじゃない。
ポケットに両手を突っ込んだまま、ニヤリと笑いながら私を真っ直ぐ見つめるこの化物に、私は、後ずさった。
「マリアンヌ!!」
皆が慄き、状況が飲み込めず、誰一人動けずにいるその中で、私の前に飛び出してきた1つの影があった。
「……レイル」
私はその影の名を呼んだ。
レイルはこちらを振り向かず、一分の隙も無い構えで、真っ直ぐに剣を化物に向けた。
「言っとくが、そんなもんオレには効かねえぞ?」
「分かっている。ーーー彼女には手を出すな」
……ちょっと、レイル。何やってるのよ?
何だかカッコイイじゃない。そんなのレイルじゃないわよ!?
私を背にかばいながら、レイルはキッと化物を睨む。
よく見れば、その肩は震えていた。
「……これ以上、僕の戯言にマリアンヌは巻き込ませない! 魔物よ、お前の狙いは分かっている。何故、彼女に手を出そうとする?」
「そりゃあお前。ヤローと美人がいたら、どっちに声かける?」
「美人に決まってるだろう!」
同意してんじゃないわよ。
化物は、うんうんと頷くと、向けられた剣を指で弾いた。
「っ!?」
大した力も加わってなさそうなのに、レイルの剣は空高く跳ね上がり、1拍後、寸分狂わず化物の手の中に落ちてきた。
何だか、剣に裏切られた気分だわ。
剣をなくしたレイルは、尚も拳を構え、化物を睨む。
その時、化物の背後にいたラース様が我に返り、化物に向けて魔法を放った。
ラース様は学園でも随一の魔法の使い手。学生故、まだ授業以外での生活魔法以外の使用は認められていないけど、世に出れば、既にトップクラスで通じるほどの力量を持っていた。
放たれたのは氷の矢。数多の凶器が、寸分の狂いなく、化物の急所めがけ放たれた。
ーーーパシャン
「……馬鹿な?」
氷の矢は、化物に到達する前に溶けて水となった。
「うひゃー、ツメテっ!」
背後から水をかけられた状態の化物が、呑気な悲鳴を上げ、ラース様の方を振り向いた。
ーーーラース様、逃げてっ!
私は声にならない悲鳴を上げた。
化物はラース様を見て、ニヤリと笑って言った。
「若いのに、なかなか筋がいいじゃねぇか。まあ、全然まだまだで、駄目なんだけどな」
どっちよ!?
「まあ頑張って、そのまま励め よ、っと!」
化物がそう言い、何かを投げる仕草をした瞬間、ラース様が吹っ飛んだ。
「っがっ!!」
そのままラース様は五メートルほど宙を飛び、後ろの人垣に突っ込んで行った。
化物は何でも無いように、またこちらを向く。
「結構飛んだな。誰だったんだろうな?」
「……っ王子よ」
「マジかよ!?」
化物は、叫びながら人垣を振り向いた。
そして眉間を抑えながらブツブツと呟く。
「……ま、まあしょうが無い。人間の弱さはちゃんと理解してるし、加減はしたし……。なんて言うか、アレだ。えーと、ホラあれ、王たる者、痛みを知らねばならぬ……、ってやつだよ。そうそれだよ!」
……人間が弱い? 加減をした? 何なのよ!? この化物は!!
私が唖然としていると、立ち直った化物が、こちらに両手を広げ言った。
「オレの名はルシファー。さあ、それじゃあ行こうか。オレの花嫁達よ」
何言ってるのよこいつ! 誰が、花嫁達ですって!?
花嫁達っ……達……。
ーーー……達?




