表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/582

番外編 〜ルシファーの花嫁 悪役令嬢と、悪魔のプリンス⑦〜

今回はレイル目線です。


前々回、とても沢山の誤字報告をいただき本当にありがとうございました!

すべて適用させて頂きました(*´∀`*)

 日は沈み、マリアンヌを吊るし上げるための舞台は着々と整って行った。

 校庭には篝火が灯され、野次馬たちの円舞台が出来上がっている。まるで決闘でもするようだ。

 だけどアリアは目覚める気配もなく、証人の居ない、一方的な尋問が始まろうとしていた。


 ーーーま、うまく行かないだろうけどね。


 僕はポケットから1枚の手紙を取り出した。


 今朝、僕の部屋に届いていたものだ。

 信じられないだろうけど、おそらく差出人は、今や伝説の中の存在、“魔物”だった。

 魔物とは、人に害をなす醜悪な、魔力をその身に宿した生物。ただし、その姿を見たものは、ほとんどいない。

 稀に魔物が見つかったとは報告されても、それは動物より無力な物ばかりだった。

 遥か昔の伝説では、魔王の従えた魔物の軍団と光の勇者が、滅世界の果てにて死闘を繰り広げたとあったけど、今では稀にスライムやホーンラビットの幼体が発見される程度。

 かつては魔物が世界のどこもかしこも蔓延っていたなど、もはや誰も信じてはいない。この世界に生まれ落ちた聖女や勇者も、今や未開地の開拓のためだけに、その力を奮っていた。


 そんな、魔物がよこしたこの手紙。

 僕はまたその文章をまじまじと見た。


 “拝啓、レイル殿。

 この度誠に勝手ながら、貴殿の力を借りたく願い候。

 貴殿の中には、我らの主の宝の欠片が混じっている。

 その欠片を、一晩だけ貸して頂きたい。

 月の消える夜、約二日後にその秘術は行われる。

 今宵我が主が直々を持って貴殿を迎えにゆく。

 同行されたし。


 ーーー常闇の亡者よりーーー”



 願うとか書いておきながら、拒否権は無いとでも言うようなその文章。

 まあ他の人が見たら、きっとイタズラと思い捨てるだろうね。だけど僕には確信があった。この手紙が書かれているこの素材、一見紙だが紙ではない。

 土のようなものをマナで固め形作っている。触感、色、全てに置いて紙と見紛うこの出来。

 

 一体、何でこんな物で?


 人間のイタズラなら、差出人は普通に紙を使うはずだ。

 だけどわざわざこんな、あり得ないほど高度な土魔法で、こんな事をするのか? そもそも、現在世界で“大魔法使い”と呼ばれている者だって、ここまでの物を土で造形できるとは思えない。

 となると、これは人間の仕業ではないという結論しかなかったのだ。この手紙に書かれているよう、“常闇”に住まう魔物。しかも、無害で貧弱な魔物では無い、伝説にあるような、勇者すら苦戦させる程の、(いにしえ)の魔物。


 僕は手紙を折りたたみ、ポケットに仕舞うと、野次馬達の波に並んだ。


 魔物たちの欲しがる“宝の欠片”というものが何かは分からない。だけどそれは、僕の持つ不思議な記憶に関係してるような気がした。



 間もなく、マリアンヌがやってくる約束の時間だ。

 僕はテラスから校庭を見下ろし、舞台の中心で腕を組むラースを見つめた。

 証人のいないマリアンヌを、きっとラースは厳しく責めるだろう。

 そこに、僕がさっそうと飛び出し、マリアンヌを適当に庇いだてして時間を稼ぐ。その内にアリアが起きて来たら、無実を証言し冤罪が確定する。

 無実の罪を着せようとしたラースは責められ、マリアンヌもラースを見放す。婚約は破談となり、僕のチャンスが始まる。

 ーーー、筈だったんだけどな。


 僕は溜息を付きながら笑った。

 魔物に同行し、命があるとはとても思えない。


 まさか僕が、悪魔にさらわれる役になるなんてね?

 ちょっと違うけど、ほぼトキ☆バラ通りじゃないか。……、ほんとにマリアンヌの言葉通り、呪いなのかな?


 例えどれ程分の悪い立場に立たされたって、古の魔物が襲来すれば、きっとそんな事どうでも良くなる。

 僕がこの場にいることで、彼女の立場は守られるってわけだ。


 間もなく、野次馬達の前に、凛とした佇まいでマリアンヌがその姿を表した。

 こちらなどちらりとも見ない。味方の一人もいないこの舞台でもなお、マリアンヌは見惚れるほどに美しかった。



 ーーー僕が、マリアンヌに出会ったのは、まだ6歳の頃だった。

 共に王位継承権を持つ王子達の集まりに、ラースが連れてきたんだ。

 衝撃が走った。その美しさに。

 そして思った。



 ーーー彼女は僕のものだ。



 その頃の僕は荒れていた。

 その理由は、僕には物心がついた頃から、妙な記憶があったからだ。生まれてこの方、やったことの無い薬の調合や魔法の使い方を知っていた。3歳くらいの幼児がだよ? それも、現代の魔法学に於いて、公表も発見もされてない、超高等の技術だ。

 薬学に至ってはポーションどころか、幻の薬と言われる、万能薬やエーテルの作り方まで知ってるんだ。だけど肝心なことが分からない。主原料となる、ハーティーの成分の抽出の方法だ。それさえ出来れば、エリクサーだって作り出せるかもしれないのに!

 自分の記憶に、経験のない記憶があることに戸惑い、その記憶の穴に苛つき、僕は立場と金に物を言わせ、様々な本を読み漁った。そして、その書物全てが幼稚に思えた。

 どこをどれ程探しても、僕の記憶の穴は見つからない。なにかに取り憑かれたようなその執念に、大人達は恐れ慄き、邪な考えを持つもの以外は、僕に近寄ろうとはしなかった。まあ実際、僕がほんの少しその気になれば、王位など簡単に取れただろうとは思う。継承権第7位なんて、僕にはハンデとも思わなかったんだ。

 だけどあの日、マリアンヌを目にした時、僕は全てがどうでも良くなったんだ。

 王位など要らない。彼女の爵位も当然いらない。薬学のことも、どこにも載ってないなら、いつか自分で編み出せば良いんだ。そんな事より、マリアンヌを、僕の物にする。いや、マリアンヌは、僕のものなんだ。誰にも渡しはしない!

 そんな思いに取り憑かれたんだ。


 それからすぐ、僕は王位継承権を捨てると宣言した。僕を祭り上げようとしていた貴族達は、面倒だから後ろから手を回して、全部消しておいた。

 そして、マリアンヌの婚約者である“ラースの親友”という位置に上手く収まった。

 そこから僕は、マリアンヌを追い続けた。

 だけど知れば知るほどマリアンヌは高慢で、嫌味な女だった。なのになぜこんなに惹かれるのかがわからず、僕は悔しさに任せ、要らないちょっかいをマリアンヌに出した。それでマリアンヌが困る様子を、ほくそ笑みながら見て、気を紛らわせていたんだ。

 そして、今回の件の原因である“トキメキ☆薔薇庭学園のアリス”だけど、実は僕が執筆した。とはいえ、“ドキドキ♡秘密の花園のリリス”と言う、あやしい小説を元にした訳ではあるんだけど。

 マリアンヌが怪しんで、市場調査でもすれば、直ぐにバレたいたずらではあったんだけどね。

 まあアレのおかげで、マリアンヌが、ただ高慢なだけじゃなかった事を知れたのは良かったかな。

 マリアンヌの過去についてはずっと見て、知っていたから対して執筆も難しくはなかったし、その先の事はイベントごとに僕が手を回し、話に沿うように人心を操ってやれば簡単だった。

 本の通りになって無くても、“マリアンヌが本の通りに事が起こっている”と思うように仕向ければ良いんだから。

 マリアンヌは単純で、ラースからの幼稚な照れ隠し対応を、嫌われてるからだと簡単に勘違いした。ラースの奴、本当はマリアンヌにベタ惚れだっていうのにね?

 皆がマリアンヌを恐れ、おべっかしか言わないのに、アリアはマリアンヌを心から支持した。

 アリアはふとした時、ラースにそのことを話し、大好きなマリアンヌの話をもっと聞きたいラースは、ちょくちょくアリアと会って話をするようになった。マリアンヌを褒めるアリアに、ラースが微笑みを見せる様になるのに、そう時間はかからなかった。

 マリアンヌ本人の顔は、恥ずかしくてまともに見れないくせにね。

 まあ、予定通りだった。



 ーーーって言うか、悪魔に嫁ぐって言う展開は、ネタのつもりだったんだよ。

 原作はリリスって悪魔の話だったし、最終的に悪魔()の物になれって意味も込めて書いたんだ。



 野次馬達の壁の向こうで、マリアンヌはラースと静かな問答をしている。

 僕は夜空を見上げた。

 細い、下弦の月が出ている。



ーーーまるで、悪魔が笑っている口みたいな月だ。



 ぬるい風が吹いた。



「な、なんだ!?」



 突然ラースの叫び声が響き、僕はそちらを見た。


 煌々と燃えていた篝火が消えている。

 

 野次馬達がざわつきながら闇を見回す。







 ーーーそして闇の中、それは舞い降りてきた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ