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番外編 〜ルシファーの花嫁 悪役令嬢と、悪魔のプリンス③〜

「それでは、第一回、没落回避ミーティングを始めますわよ」


 私は、一度解散した後の翌日の早朝、まだ薄暗い温室の中で高らかに宣言した。

 なぜこんな面倒な事をしているか、それはお互い立場というものがあるからだ。

 私はこの学園のクイーンと言っても過言ではない立場にあり、常に取り巻きの四天王達に囲まれ、一言口を開けばモブは野次馬に早変わりする。世話係のお付き達も含めれば、それこそ監視の目はおはようからおやすみまである。

 このスイートフェイスのチャーミング王子だって似たような物。ラースとか言うKY王子の親友とか言う厄介なポジションを獲得してるがゆえ、朝と言わず夜と言わず、呼び出しがあれば駆けつけなければならない。とんだ“親友”よね。もし私が頼まれたなら、現金にのしを付けて、お断りに上がるわ。


「早朝だからかな? なんだか、雰囲気が変わりましたか? マリアンヌ嬢」


 この一大事に、呑気に微笑むチャーミング王子に、私は冷ややかに言い放つ。


「ええ、変わりましょうとも。家の者が決めた婚約だからと、現状に甘んじておりましたが、こうなっては何をすがる必要がありましょう? ラース様も自身の立場を理解し、この話に同意されているものと思っておりましたが、まさか庶民に想いを懐き、成就を願う? 愚かにも程があるわ!」


「ラースを好きだった訳じゃないってこと? みんなの憧れの王子様だよ」


「見目だけ麗しい者等、履いて捨てるほどおりますわ。地位に惑わされず、その者の心を愛することこそが真実の愛だと、私は“トキ☆バラ”に教えられたのです」


「……略してる。って言うか、その“トキ☆バラ”にこうして苦しめられてるんだけどね?」


「お黙りなさい!」


 埒があかないから、この話は強制的に終える事にした。

 私達がいつも目覚める時間迄、後1時間50分。その間に今後の具体的な回避対策の方向性を決めないといけないのだから。



「まずは没落回避パターン案を出すわ」


 ①ラースに何とか惚れ直させて、本来の予定通りラースとマリアンヌが結婚し、アリアを適当に野に放つ。


 ②アリアと仲良くなっておき、万が一、ラースとアリアが結婚した場合にも、2番手となろうがお家取り潰し騒動までは発展しないよう保険をかけておく。


 ③家が取り潰されたとしても、没落まではしないよう、副業を始める。取り潰され次第、本職として出来るような手に職が持てればいいな。


 ④他のキープを作る。


 ⑤潰される前に、異国に高跳びする。


 ⑥下剋上。


 ⑦……。



「……なんだか、犯罪者やテロリストになってきてない?」


「じゃあ、レイル様に妙案がありまして?」


「1番の補助として、惚れ薬とか作ってみるのはどう?」


「却下」


「なんで!?」


 御自身の没落理由をお忘れなのかしら? 妙な薬を作って、売りさばいた罪でしょう!



 ◇



 結局、②と③を同時進行で進めることに決まった。

 それ以降は、冷静に考えれば、婚約がまだ有効である上でのハニートラップや、亡命、革命戦争などは間違いなく没落一直線の結末しかない訳ですし。

 ①に至っては、私の残りの人生全てにおいて、苦痛でしかない結末に終わるだろう。さっきも言ったように、現金に熨斗を付けて、お断り奏上致しますわ。


「だけど意外だったね。君ほど誇り高い人が、2番手に甘んじる選択を取るなんて」 


 今回のミーティングのメモ兼、今後の草案を見返しながら、レイル様が言った。

 私は腕を組みながら鼻を鳴らしながら言った。


「ふん。守りたい物を選んだ結果よ」


「守りたいもの?」


「私は、誰よりもお父様を尊敬しているわ。そして、お父様の親友であるデュフォー様も。“トキ☆バラ”の話はよくよくお読みになって? 没落と共に消えるのは、マリーゴールドの人間としての権利だけじゃ無い。マリーゴールドの父である宰相も、罪人として地に落ちる。私のつまらない誇りなどより、私は大切な物を守り通すわ。最悪、悪魔の嫁になろうとも、必ず守る。それこそが、私の誇りとなるのよ」


「……」


 私の宣誓に、レイル様はいつもの微笑みをそのスウィートフェイスから消し、私をじっと見つめた。


「何かしら? 私の顔に何か付いていて?」


 私が軽く睨みながら聞くと、レイル様はその口元を緩め、再び笑った。だけどさっきまでのチャーミング王子のキューティースマイルじゃない。ちょい悪ハンサム王子の微笑みだ。


 私は気付かないふりをした。


「いいや、何も付いていないよ。寧ろ、僕は君に付いていた、大切な物を見落としていたようだ」


「節穴だこと」


「返す言葉もないね。ーーー……いいよ。僕もちょっと本気を出してみようか。三流な脚本なんて、破いてしまえるようにね」


 今までのチャーミング王子からはかけ離れた空気を纏うレイル様。

 “俺はまだ本気を出してない”。これほど格好の悪い言葉があろうか? いや、無い。


 私は、ゆらりと尋常でないオーラを纏い立つレイル様を無視することにした。


「コレから僕達は同士だ。僕の事はレイルと呼んでくれ」


「人前でなければ、なんとでも呼んで差し上げますわ」


 内心では、チャーミング王子と呼んでいることですし。


「そして、今後僕も君の事を、マリーと呼んでもいいかな?」


「拒否しますわ」


 即答した。

 その後結局、マリアンヌと呼ばれる事になった。




 ◇




 教室の机に座るラースが、不思議そうな顔で友に言った。


「……雰囲気が、昔に戻ったな」


「昔? なんの事?」


「お前が、王位継承権を放棄する以前の空気だ。何か欲しいものでも見つけたのか?」


 ラースは質問を投げかけるが、その答えを確信しての問いかけだった。

 ラースの友レイルは、ふっと口だけで笑うと、教室の一角に出来た人だかりに目を向けながら、言った。



「うんそう。見つけた。だけど安心して? 王冠ではない事は確かだから」



 人だかりの中心には、学園の女王と学園のトラブルメーカーの二人が並び立っていた。



 その時、野次馬から一層大きなどよめき声が上がった。




「ーーーあれは、僕のものだ」




 野次馬達の野次に掻き消され、レイルの呟いたその言葉は、誰の耳にも届くことはなかった。

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