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神は巨人とネ申々の国を創り賜うた②

 光の道に入ったジャックは、光そのものとなり、分子レベルまで分解された。

 光となったジャックは、光の速度で空高く登っていく。


 雲を突き抜け、青空を突き抜け、やがて帳すら超え、燃え盛る星の散りばめられた闇の空間、宇宙を突き進む。


 そしてやがてたどり着いたのは、宇宙の果て。

 まるでふわふわの雲のような大地の広がる、オリュンポスと呼ばれる星であった。

 ジャックがゲートの外に出ると体は再構築され、その足で白い大地に降り立った。




「ここが、……人食い巨人の住処がある場所」




 地平線まで続く雲海の様な大地。

 所々に、白い石でできた、巨大な神殿のような建造物が、そびえ立っている。


 幾ら探しても見つからない筈だ。

 だって、巨人は、ジャックの住む大地には住んでいなかったのだから。


 ジャックは白く柔らかい大地を歩き進み、やがて巨大な、……巨大な城を見つけた。

 ジャックは、そのあまりの巨大さに圧倒され、城の前で立ち尽くした。

 だがその時、風に消えてしまいそうな程に小さな、啜り泣きが聞こえた。


 ジャックは耳を済ませた。 

 その声は、泣きながら歌っている。



 ―――私の産まれし地は、緑が輝く遙かなる大地


 ―――黄金の小麦が風に波立つ、豊穣の大地


 ―――この身は遠く、心は近く


 ―――嘆けど想えど、私の身はここで果てるを待つだけ



 この大地には白い雲以外何も無い。

 だけどジャックは、歌にあるそれ等のある場所を知っていた。

 そう、自身の生まれたその世界。


 ジャックは堪らず、その城に飛び込んだ。

 巨大な扉はジャックの力では開かず、ジャックはまるでネズミのように壁を伝い、穴に飛び込み、ホコリまみれになりながらその声を頼りに走った。



 ジャックは声を頼りに、たどり着いたその部屋は、まるで巨大な洞穴のような竈のあるキッチンだった。

 カウンターに置かれた巨大な鳥かごの中に、目を見張るほどに美しい、囚われの姫がいた。


 姫は泣きながら歌っていた。


 ジャックは崖のようなカウンターをよじ登り、姫に声をかけた。


「泣かないで。僕が君を、きっと助けてあげるよ」


「!」


 姫はジャックの声に驚き、美しい涙をたたえた瞳をジャックに向けた。

 そして、また涙を零しながら、首を横に振った。


「いいえ、貴方はお逃げになって。何処のどなたかは存じませんが、ここは人食い巨人の住む居城。どうか見つかる前に早く!」


 姫は、己の命より、目の前の名も知らぬ少年の命を尊んだんだ。

 その美しき心を前に、ジャックは強く思う。


 ―――この子を、絶対に死なせてはならない、と。


 そしてジャックは手を伸ばした。

 どうか、この手を掴んでほしいと願いながら。


「どうか諦めないで。姫が諦めさえしなければ、僕は必ずあなたを助け出せる!」


 姫は、じっと差し伸べられた手を見つめる。

 格子越しではあったけど、その手は姫にとって、闇に差し込む光に見えた。

 そして、諦めていたはずなのに、思わずその手を取った。

 そして、その温かな手に縋り、二度と望むまいと心に決めた筈の願いを口にする。




「―――私を……私を助けて……。  家に帰りたいっ」




 強く握り返されたその手をしっかりと握りしめ、ジャックは笑った。


「勿論だ。僕はジャック。必ず君を守る。約束するよ、美しい姫君」


 その力強い笑顔と言葉に、姫はまるで花が咲いたような愛らしい笑顔で、ジャックに微笑み返した。


「ありがとうジャック。だけど私は姫では無いわ。ある科学者のしがない娘、名をオーディン」


 ジャックは顔を少し赤らめながら言った。


「お、オーディン、取り敢えずこの籠から出よう。僕が鍵をなんとかして開けるから……」


「きゃっ! ジャックっ、後ろ!」


「!?」


 ジャックがオーディンの悲鳴に振り返るが、気づくのが少し遅かった。

 ジャックは背後から巨人につまみ上げられ、遙かなる高みに吊るし上げられる。


「はっ、離せっ!! お前が人食い巨人か!!」


 ジャックは足をばたつかせながら叫ぶ。

 巨人はジャックをじっと見つめ、地響きのような声で応えた。


「人食い巨人? ―――もしかして、アタシの旦那ユミルの事かい?」


「き、巨人は一人じゃ無いのか?」


 ジャックは呆然と、自分をつまみ上げる巨人を見上げた。


「そもそも巨人って何さ。だったらアンタは小人かい? 知ってるよ。アンタ、ニンゲンって言うんだろ? アタシ達は巨人じゃない。ティターンさ」


「ティターン……?」


「そうさ。アタシ達はティターン。このオリュンポスに住まう者だよ。……とはいえ、ニンゲンを珍味とか言って食べるのは、オリュンポス中探したって、アタシの旦那くらいなもんだろうけどね。ニンゲンなんて、臭いし、捕まえるのも手間だし、小さ過ぎて腹の足しにもならないだろうし、とても食べる気になんかならないからね」


 ユミルの奥さんはため息をつき肩をすくめた。そしてふと思いつきジャックに問う。


「そもそもアンタはなんでこんなとこにいる? ここがユミルの城だって知ってるんだろ。食われちまうよ?」


 ジャックは少し考え込み、そして少し眉間にシワを寄せ答えた。


「僕は人食い巨人を……いや、ユミルを倒しに来たんだ。―――ユミルはあなたの大切な人なのかも知れない。だけど僕もこれ以上、大切な人を失いたくないんだ!」


 ジャックの真っ直ぐな眼差しに、奥さんはキョトンと目を瞬かした後、笑いながら溜息を吐いた。


「アハハハ! あんた、正直だねぇ! ―――そうさね、アタシ等にも大切な者が居るように、アンタ達にも大切なものが居る。当たり前の事だったね」


 奥さんはそう言うと、ジャックをカウンターにそっと降ろし、オーディンの籠の鍵を開けた。


「さあ、逃げな。ユミルの帰ってくる前に……」


 奥さんがそう言った、まさにその時だった。



 ―――バタンッ!!!



「今帰ったぞぉ―――!!!」



 城を震わせる程の大声が響いた。


「まずいっ、アンタ達隠れなっ!」


 奥さんが二人を鷲掴み、暖炉の中に慌てて隠す。



「お前、何してる?」


 奥さんが二人を竈に隠した丁度その時、奥さんの背中に恐ろしい声が投げかけられた。


「あぁ、あなたおかえり。ちょいと竈の掃除をね」


「そうか? それにしてはお前ちっとも、汚れていないな」


「そういえば昨日、掃除したばかりだった。だからあんまり汚れなかったのさ」


「……そうか、まあいい。おい、酒とツマミを出せ。ニンゲンがあっただろう」


「ニンゲン? 無いよ? あなたが昨日食べたでしょう。何を言っているの?」


 ユミルはカウンターの籠を見た。

 籠は、空っぽだ。


「……。」


 奥さんは、ユミルに優しく話しかけた。


「あなた、昨晩はたくさんお酒を飲んでいたからね。そのせいかも知れないね」


「……そうだったか? うーん……まあいい、別のツマミと酒だ。ニンゲンが切れたなら、また獲りに行かなきゃならんな」


 奥さんは竈を離れ、素知らぬ顔で準備を始める。

 ジャックは竈の中で息を潜めた。そして思う


『……奥さんには悪いけど、やはりあいつは倒さなければならない』


「さあ、あなた、酒だよ。たんと飲んどくれ」


「ああ。……魔法の金貨があったな。あれを持ってこい」


「はいはい」


 ―――チャリン。


 奥さんは金貨のたくさん詰まった革袋を持ってきた。


「おお、これだ。この魔法の金貨はニンゲン共の巣への転移装置(ゲート)。ただ、一枚でも足りないと、変なところに飛ばされてしまうからな。面倒だが使う前にキッチリ数えておかないといけない」


 ユミルは、そう言うと、酒を飲みながら金貨を数え始めた。すると間もなくユミルは目を擦りだし、5分もすると眠ってしまった。

 奥さんが、ジャックに目で合図を送ってくる。

 おそらく、眠り薬でも盛ったのだろう。


 オーディンが手を引く。


「ジャック、逃げましょう」


 ジャックは頷いた。


「―――だけど、あの金貨を持って行かなければ、やつは何度だって僕達の住処を荒らしに来る」


 ジャックはひらりと竈から舞出ると、テーブルに登り、ユミルの金貨を奪い、戻ってきた。


「行こう」


 ジャックは、オーディンの手を引き、走り出した。





 ―――オーディン、僕は君を必ず

    







    守る。



ちょこちょこ感想、評価、ブクマ、ランキング投票を頂きまして、本当にありがとうございます(´;ω;`)

たいへん嬉しく思っており、次話の活力にさせていただいております!

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