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神は、罪人たちの眠る呪われし地に“憂いの都”、と名付けられ賜うた

前回番外編の、アフター話です!

 その日。俺とレイス、そしてラムガルと勇者の魂が、横1列に並んで正座していた。

 いや、まぁ俺と勇者の魂に関しては気持ちだけではあるんだけどね。


 そしてそんな俺達の前には、ゼロスとルシファーが眉間を顰めながら並び立っている。


「―――で、勇者の言い分は? “一人ボッチでハブられ寂しかったから、優しくしてくれた女の子と仲良くなりました。反省はしてるけど後悔はしてない”、だって? 駄目でしょ。後悔もしてよ」


 腕を組み、上空から冷ややかな目で俺達を見下ろすゼロスが言う。

 俺達に向けるその目には最早慈愛の欠片も無い。

 これはおそらく、以前レイスがマナ爆発で世界を崩壊させそうになって以来、本気で怒っている。

 ただあの頃と違って癇癪を起こした様に泣き叫んだり、感情を爆発させる事は無い。まぁその分、余計に迫力があるんだけどね。


「―――あの、オレも一つだけいいですか?」


 ゼロスの一歩後ろに控えたルシファーが挙手をする。

 ゼロスは無言でそれを促した。


「アインス様。アンタなんてモノを野に放ってるんすか?」


 なんてモノ? 一体何の事だろう?


「ラウとかいう女、あいつヤバすぎっすよ? 自分でゼロス様の石化魔法解くとかありえ無いでしょ? 欠片とはいえ【聖石】をその身に宿した存在とか、マジふざけてるんですか? 聖石ってそもそも扱いが危険すぎてアインス様に預けてられていたんでしょ? ねぇ!」


 そう、その通りだ。 


 ―――だけど愛しい創造物に泣きながらお願いされたら、しょうがないじゃないか。


 アビスは、ただ自分の居場所が欲しかっただけの無垢な子供だった。

 そんな純粋な彼が最後に縋ったものを、たまたま俺が持っていた。

 あげないなんて可哀想だったんだもの。


「あの女、アビスにベタ惚れだったから奇跡的に助かりましたけどね? オレがゼロス様にマジ泣きしながらお願いして、アビスの記憶を集めた魂の欠片を、勇者の魂から切り取って頂き、それを人質ならぬ魂質として奴らの納得する理由を必死で考えて交渉して、何とか井戸の底に引きこもって貰う事に成功して本っ当に助かりましたけどね? 失敗したら世界が滅びる交渉っすよ!? それがどんなストレスか!? 交渉成功の瞬間、オレもう泣きながらバカ笑いしましたよ! マジで!!」


 そうだね。ルシファーは、とても素晴らしい提案を二人に持ちかけた。

 始終笑顔で、とても彼らを思いやった会話の運びは、まるでお手本のような営業話術だったよ。そう、笑顔は交渉時の基本だよね!

 そして結果、今二人はとても幸せそうだ。


「―――考えなかったんすか? もしラウがあのままアビスを失くした時、ラウが一体どんな行動に出るかと。普通に考えて“瞬殺”っすよね。誰をってそり勿論この世界そのものを。ま、アインス様は無事でしょうが、オレなんかゴミムシの如くひとひねりっすよ? ―――……オレ、コレでも時間見つけては、レイス様とゼロス様の創ったヤバイやつを地道に人目の触れない所に隠したり、封印を掛けてったりしてんですよ。マジで。どんどん出来てくるやつを、コツコツと。 なのに、なのに……アインス様迄とか、……オレもう、何ていうか……、救われねぇっ……」


 話の最後の方で、ルシファーはとうとうメソメソと泣き出した。

 あぁ、悲しませるつもりは無かったんだ。


 どうか泣かないで。



 ―――その、




「 ごめん 」




 俺は誠意を込めて謝った。


 ゼロスは若干申し訳そうな顔をしながらも、メソるルシファーの頭を撫でている。


「だっ、たけど!」


 今度はレイスが挙手をした。


「ゼロスも悪いとこはあると思う! アビスはそれまでだって派手に世界を揺らす力を使ってたのに、ゼロス、ちっとも関わってこなかった!」


 成程。確かにアビスがラウの死に怒り、ラムガルに八つ当たりをした時の攻撃魔法の光なんて、この聖域からでも見える程に激しかった。

 それにラウ復活の時に放たれた聖石の輝きもまた、凄まじかったと思う。

 ゼロスがそれに気付かない筈はない。


「―――……世界を揺らす力、ね。確かに感じた。そして僕はそっと様子を見に行った。そしたらそこにはラムガルと戦う勇者がいた。―――でもさ。そんなの()()()()()でしょ?」


 成程。いつの時代も勇者と魔王は人智を超えた死闘を繰り返してきてきた。

 そしていつの時代も、そのやんちゃな取っ組み合いにゼロスが介入することなんてなかった。


「そしてここ聖域の奥で放たれたもうひとつの光の時も、近くまで様子を見に来てはいた。だけど遠目に確認したところによると、レイスと勇者が仲良く話をしていただけだったよね。更にその場には神獣にハイエルフ、アインスも居たんだ。まさか何か問題なんて起こるはずないと思ってたんだけど?」


 うん、分かるよ。これ迄の功績からも言って、俺達の中でハイエルフへの信頼はかなり高い。

 彼等はどんな時も思慮深く公平で、この世界の歩く六法全書と言ってもいい存在だ。

 なるほどね。確かに法に厳しい彼らがいれば、そうそう問題なんて起こらないだろう。―――ただ相手が悪かった。

 彼等は、俺や神獣達を諌めたり、意見するほど気の強い子達ではないんだよね。


「―――そして次に覗いてみたら、勇者がハイエルフより強い女の子を連れて、人間を滅ぼそうとしてるんだもの。“なんで!?”ってなるよね? え? 違う?」


 ゼロスの言い分と言及に、レイスはギュッとスカートを握りしめながらボソボソと必死に反論を試みる。


「……勇者はゼロスの創った人間共の代表。色々考えてはみたけど、それがそう決めたのなら、そうかなと思った……。………レイス……悪くない……」


 そうだね! レイスは何も悪くないよ! 懸命に考え抜き、導きだした答えを信じることこそが正しさなん……っ


「いや、止めてよ普通に。そんなに深く考えなくても変だって気付いて」


 間髪入れず、ゼロスはレイスに突っ込み切り捨てた。

 レイスは震えながら弁明する。


「……レイスだってっ、レイスなりに色々気遣いをした! 勇者が勘違いしてるみたいだったからや色々訂正もしてあげた! “ゼロスは自分の創造物が大好きすぎるから、悲しみはすれど何をしても怒らない”って教えてあげた。それにレイスは“邪神”と言われても、神の貫禄を見せる為にゼロスの創造物には手を出さなった。軽く口頭注意で済ませた。更にっ! 先走って“皆殺し”とか言っていた勇者に妥協案を提案したりもした。 ……レイスは寧ろ未だかつてなくパーフェクトな程に気を遣った対応をした! ……つもり!」


 言い募るレイスに、ゼロスは動じず冷ややかに言い捨てる。


「言いたい事はそれだけかな? その、“つもり”で僕の人間達が滅びかけたんだ。言い訳より先ず反省をしてくれる?」


「―――……っ、ハイ、ゴメンナサイ。」


 レイスも頭を下げて謝った。

 ゼロスはそうして静かになったレイスを一瞥すると、次はラムガルに冷たいままの視線を移す。


「―――そしてラムガル。勇者と遊びたいからって魔物の軍団までそんなことに貸して何をしてるの?」

「なっ! よ、余はっ、決して遊びたかった訳ではっ……」


 だがゼロスはラムガルの言葉を遮り、冷徹に言い放った。


「証言があるよ。ヴォイス、再生して」


 と、その時フワリと一体の妖精が進み出た。

 世界を破滅に導いた【音】の魔法を、嬉々として勇者に提供したあの仔である。

 ヴォイスはまるで“我関せず”とゼロスに絶対服従の姿勢を見せながら、聞き覚えのあるワンシーンの音声の再生を始めた。


「はっ! 主神様の聖命のままに。………“よぉ、ガルガル”……“明日は来んじゃねぇぞ”……”俺を連れてけ。お前となら、もっとマシな世界になるような気がする”…………“―――……余も、勇者の輝きに惹かれていたのかもしれぬ”」


 うん。見事な手のひら返しである。


「―――……ねぇ、どうなの? 随分仲が良さそうだけど。ねぇ、ガルガル?」


 うっすらとした微笑を浮かべ、ラムガルを愛称で呼ぶゼロス。

 その恐怖から、ラムガルは軽いパニックを起こし、その矛先を隣に鎮座する勇者に向けた。


「………っおのれええぇぇ! 勇者めぇぇぇ!!!」


 ……なんだかよくある魔王の台詞だなぁ。

 なんて事を思いつつも、当のラムガルは必死にそのものである。


「っっだから! 余はあれほどその呼び方はやめろと言っていたというのに!!!」

「……っ」


 ラムガルに怒られ、勇者の魂は困惑気味に明滅していた。

 まぁ今の勇者の魂はアビスだった部分が切り離されているから、実際関係ないので困惑するのも無理はない。

 そしてテンパる魔王にまたゼロスが声を掛けた。


「勇者に当たる前に僕に言う事があるんじゃないの? ()()()()?」

「っんまっことにっ!! 申し訳ございませんでしたぁっ!!」


 土下座をキメるラムガルに、ゼロスはため息を付きながら、ボソリと呟く。


「……まぁ、仲良くすることは良いんだけどさ……」


 だがゼロスは直ぐに気を取り直したように厳しい口調でラムガルに言った。


「全く。ここまで減ったら人間だって増えるのに時間がかかるんだからね! ちゃんと数が落ち着いてくるまで、魔物達に人間を食べないように言っておくんだよ、ラムガル」

「は、しかし人間を主食にしている種族もおりますが……」

「……」


 ラムガルの抗議にゼロスの無言のが突き刺さり、ラムガルの心は二秒と掛からず折れ砕けた。


「いえ、予が責任を持って、何とかさせていただきますゆえっっ」


 ゼロスは頷くと空を見上げ、小さな溜め息と共に哀しげに呟いた。


「はぁ……僕の人間達、ごめんよ。僕が油断せず、もっとちゃんと見てあげられていたら……」


 可哀想に。ゼロスは悪くないんだ。

 と、その時ふと俺の根本をレイスが小突いて来た。

 俺が反射的にそちらに枝を傾けると、レイスは空を見詰めるゼロスに目を向けながら俺にポソリと言った。




「自分で最後、とどめ刺してたくせにね」




 ―――やはりレイスは凄い。


 ゼロスに聴こえないようにとはいえ、この状況でそれを口に出来るとは、勇者なんて目じゃないくらい勇敢だ。


「―――……ゼロスにとって、人間には“愛”がなければ“ゼロスの思う人間”では無いんだよ。多少の諍いはしょうがないとしても、今回はゼロスにとっての許容範囲を超えてしまっていたんだろうね。己の創造物として、置いておきたくない程に」

「……ゼロスは、潔癖すぎる」


 まるで理解不能だとでも言うように唇尖らせるレイスに、俺はそっと枝を揺すりながら頷いた。


「そうだね。だけど、……だから、あんなに美しい物を創り出せるんだろうね」


 するとレイスは尖らせた唇を納め、悲しげに空を見上げるゼロスをじっと見つめた。

 そして納得した様にコクりと深く頷く。


「うん。ゼロスは凄い。レイスには真似できない」


 そう言ったレイスの眼差しには、尊敬と憧れの色が色濃く浮かんでいるのだった。




 やがて、長い沈黙が続いたあと、ゼロスは地上に視線を戻した。

 すると自分を見上げるレイスと目が合い、眉を下ろして困ったような微笑みを浮かべた。


 ゼロスは時に我が儘で意地を張る事も多々あるが、“許さない”と言う選択肢はない。

 どんなに悲しみに暮れても、優しいゼロスは何時だって妥協点を定め、許しの手を差し伸べてくれる。


 ゼロスは正座する俺達に向かいこう告げたのだった。


「―――彼らの石の骸は、冥界から程近い海峡の底にある洞窟に沈めた。彼の地は僕の哀しみ、嘆きに因んで、“憂いの都”と名付けることにする。……それからレイス。今回の事を忘れない様に、今後レイスは冥界に行ったら、彼らに黙祷をしてあげて。そして二度とこんな事を起こさないと、彼らの前に誓うんだ」

「ただの石に? 魂はもう流れの中に還って欠片も残っていないのに?」

「そんな物理的に考えないで。これは気持ちの……心の問題なんだ」

「ココロ……。分かった。レイス、黙祷してあの者共に誓うことにする」

「うん」




 ―――かくして、この事件にやっと幕が下りたのだった。


 始め、皆それぞれに言い訳を募ったが、当然のごとくそれらは全て却下され、最後にはひたすら皆でゼロスと泣き続けるルシファーに謝り倒した。

 そして女神は死者に祈りを捧げ、魔王は魔物の取締の強化に努める事になり、勇者は反省だけじゃなく後悔もし、俺はと言えば“今後聖石を求める者が現れたら、ハイエルフによって排除させる”という条件を呑まされる事となった。

 そして漸く、ゼロスとルシファーはその怒りを鎮めたのであった。



 ◆



 レイスが言う。


「ねぇ、ゼロス。レイスは人間共の心を学ぶ必要があるのではないかと思う。レイスが着れる、人間の身体を創って。それを着て、ちょっと人間共の所に行ってこようと思う」


「えぇ!? それ多分余計な事だよ!」


 平和を取り戻した聖域では、またレイスが爆弾を落とそうとしていた。



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― 新着の感想 ―
ラムガルの一人称は予なんですか、それとも余なんですか?最初の方は余と言っていますが、話数が進むにつれ予になったりこの話では予と余が混ざってます。
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