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番外編 〜闇落ち勇者 なんか奴隷にされたから、魔王と手を組んでみる事にした13〜完結

 石化は、まるで水が染み込むように、ゆっくりと、だけど止まることなく、俺を侵食してゆく。


 俺だけじゃない。

 オオサマや、他の人間共、それにラウ迄。


「アビスっ」


 下半身を石化させたラウが、俺にしがみつき、小さな叫び声を上げた。 


 チクショオ。



「チックショォオォォオオオーーーーー!!!!!」



 俺はラウを胸に抱き、全力を込めた一撃を、ゼロスに向け放った。




「ーーー眠るんだ。 魂を巡らせ、すべてを忘れ……」




 俺の技は、ゼロスに届く前に、まるで空に溶けるように消え去る。


 畜生、ちくしょう。




「ーーーまた、正しき道を歩み直すといい」




勝手な事言ってんじゃねぇよ。

俺の命は、生は、俺のもんだ。てめぇなんぞに敷かれた、おキレイなレールの上なんざ……。



「お前達の体は石となり、永遠にこの世界に記憶しておこう。罪の証、二度とこの過ちを忘れ無い様に」




 成す術もなく、俺はラウを抱き締めた。


 せめて、もう二度と、離すことの無いように。


 生身の身体は、顔をわずかに残すだけとなったラウが、俺に笑いかけてくる。




「アビス。 あり  がとう。ラウは、  全然、平気……だから…… アビスと一緒なら……」



「……っ」


 そして、俺の言葉とラウの言葉が被さる。




「「愛してる」」




 ラウは静かに、その美しい姿そのまま、幸せそうに微笑む石像となった。




 すまねぇ。 すまねぇ、ラウ。

 そうだな。一緒にいよう。ずっと一緒だ。 


 ずっとーーー




 俺の体もじわじわと石と変わりゆき、最後に視界が暗くなるその刹那、ラウの石像に小さなヒビが入ったのを見た、ーーー……気がした。








 ーーーーー呪われし、死の都の物語ーーーーー



 かつて邪神が、偽の勇者を世に放った。

 真の勇者の降臨も噂されていたが、邪神に消されたのか、ついぞその姿を著現させることはなかった。


 偽の勇者の名はアビス。真の化物。

 その者は闇。 その者は深淵。 その者は奈落。


 だが、アビスはかつては唯の人の子であった。その青年は腕のいい、寡黙な冒険者であったと言う。


 しかしなんの因果か、邪神に魅入られたそれは化け物と化す。

 アビスが囁けば、老いも若きも、女も子供も皆その命を散らす。その絶望は人に留まらず、魔物や魔族にすら死を撒き散らした。


 そして、やがてアビスは魔王と手を組み、魔物を従え、人を滅ぼそうと明確な意思を持って動き出した。


 魔物の軍団に化け物。

 人は成す術なく、ことごとく打倒された。



 そして、もう一息で人類は滅びると言うその時、さらなる絶望が降り掛かかる。

 魔王軍ですら逃げ出す終焉の化身。“創世神ゼロス”を騙る、偽神が降臨したのだ。



 偽神は、純真に、無邪気に微笑みながら、その場にいた者全てを石と変え、その恐ろしい躯をそれらの立つ大地諸共、海の底に沈めた。


 ただ運が良かった事もある。

 全人類の八割が死に絶えたその出来事を、良いと表現するのもおかしい話ではあるが。

 ともあれ、偽神によるその恐ろしき呪いにより、アビスも共に石となり、深き海の底に封印される事となったのだ。

 

 偽神がどこから来て、なんの為にそんな事をしたのかは、未だに謎に包まれている。


 後に、被害を受けた人類を真の神、主神ゼロス様はこの出来事を嘆き、残された人類を保護され賜うた。

 それから1000年の時、作物は豊かに実り、人が魔物に襲われることがなくなった。人々はまた、これまで以上に、ゼロス神へ感謝の祈りを捧げた。





これが、かつて類を見ない程この世界を震撼させた、最悪の物語。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーー





 ◇◇◇





 ーーービス。   アビス……。






 闇の中で、声が聞こえた。

 低い、男の声だった。


 なんだよ。

 折角なら、もう一度、ラウの声が聞きてぇなぁ。


「おい、寝ぼけてねーで、とっとと起きろ」


「!?」


 はっきり聞こえた男の声に、俺の意識は急速に目覚めた。


「よう、アビス。気分はどうだ?」


「っは? え、一体俺は……って、ラウは? ラウはどこだ!?」


 俺は自分の体を見回し、抱き締めていたはずのラウがいないことに気付く。

 そして声の主に掴みかかる。


「おいおい、周りをよく見ろよ。ちゃんと居るだろ」


 男はへらりと嗤いながら、両手を上げたポーズを取る。

 男の言葉に、俺は周りを見渡した。


 ーーー居た。


 男の隣、真っ暗な空間の中で、浮かぶようにラウは佇み、俺と目が合うと嬉しそうに笑った。


 俺は再び男を見る。


 俺より頭一つ分でかい長身に、濃紺の髪。白い肌に、背には一対の白骨の翼。ニヤニヤと笑う、眼帯を着けたキザな顔。

 明らかに人外だ。


「ーーー……なんだよ、お前は」


「オレか? オレはルシファー」


 ルシファー。聞いたことがある。アンデッドや、悪魔達の総頭って話だ。


「……」


「そう睨むなよ。お前の魂を拾い上げたのはオレだぜ?」


「俺の魂? ーーーそうか、やっぱり俺は死んだのか。しかしどうして俺はここにいる? てっきり神の元に向かうもんだと思ってたが? ……まあ、もし行ったら、あの面もう一回ボコってやるつもりだったがな」


「本当にお前は不遜な奴だな。……お前は、神の元にゃ行かねーよ。勇者の魂は、確かに神の元に戻ったが、お前は勇者の魂から切り離された。だから前みたいな力もねー。勇者の残りカスみたいな存在だ(……っつっても、精霊王くらいの力はあるんだけどな……。)」


 その言葉に俺はピンときた。

 あの自分勝手な、ナルシストヤローの考えそうな事だ。


「……なる程な。自分の大切な“ユウシャサマ”の歴史に、俺みたいな汚点は不要ってことか。潔癖なこったな。反吐が出る」


「……。 まぁ何だ。そんなお前には、新たな使命がある」


 にやけ顔のルシファーのその一言に、俺の毛が逆立つ。


「はぁ? 使命だ? ふざけんなよ。もう神だろうが悪魔だろうが、俺に命令すんじゃねぇ!!」


 そうだ。使命だなんて、もうまっぴらゴメンだ。

 俺が毛を逆立てて威嚇をするが、ルシファーは俺の威圧なんぞそよ風の如く、相変わらずニヤニヤしながら話し続けた。


「そっか、そっか。使命は嫌いか。なら言い方を変えよう。結論から言う。お前はその女、ラウと永遠の時をある場所で二人きりで過ごしてもらいたい」


 ラウと、俺と二人きり?

 俺は戸惑い、ラウを見たが、ラウは嬉しそうに微笑むだけ。

 俺は再び、ルシファーに視線を戻した。


「そりゃあこっちとしては願ったり適ったりの状況だが、……どうせ、悪魔の言うことだ。なにか条件でもあるんだろう?」


「ーーー、よくわかったな。そうだ。お前達にはやってもらう事がある」


「勿体ぶらずに言えよ。まぁ条件によっては、テメェもぶっ殺してやるがなぁ?」


 俺の脅しに、ルシファーは面白そうに笑った。


「はは、やめとけ。お前達にやって貰いたい事。それは“ヴァンドーラの箱”という、絶対に開けてはいけない箱を守ることだ。もしそれに近づく者がいたら、ぶっ殺せ。ただ、それだけだ」


「へぇ?」


 さすが悪魔。俺にさせたい内容がぶっ飛んでんな。


「その箱は、深い井戸の底にある。今は2匹のスライムがその箱を守っているが、そのスライム達はお前たちを絶対に邪魔しない。そいつ等以外が箱に近づいたら、否、井戸を覗き込んだら、だな。それはもう、殺していい対象だ」


「魔物が見張り役だと?。……なる程な。邪神の宝か」


「ああ。お前も、絶っっ対に開けるなよ?」


「ああ。興味ねぇな」


 そうさ。俺にゃ、神の宝なんぞ、これっぽっちも興味ねえ。


「片時も離れず、ラウと見張り続けろ。それが出来るなら、永遠にも近いその命を、ラウと共に、井戸の底で静かに暮らすがいい」


 ルシファーの話の後、俺はラウに視線を送る。



「ラウは、何があっても全然平気だよ。アビスが一緒なら」



 ラウはそう言って微笑んだ。


 このルシファーの持ち出した簡単すぎる条件が、この世に、どんな影響を及ぼすのかは知らねえ。だけど、




 俺はルシファーに言った。




「守ってやるよ。俺達をその井戸の底に連れて行け」




 ーーーアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァーーーーーッッッ!!!






 俺の答えに、ルシファーが突然狂ったように笑いだした。


「よっし、言ったな!? 絶対に、絶対にっ! 片時も離れず、だぞ!? わかったな!? ハハハハハハハハハハハ!!!」


 闇に響く、ルシファーの狂気すら感じる不気味な高笑いを聞きながら、俺は思う。


 いいさ。この世界を敵に回そうが、悪魔に魂を売ろうが、俺はこの愛を、守る。













 ーーー〇〇〇を覗き込む事なかれ。〇〇〇を覗き込むとき、〇〇〇もまた、こちらを覗いているのだからーーー。






ーーー完結。


これにて、番外編の完結となりました。

気持ちの悪い創世神がラスボス説、それを書いてみたかったのです。(*´艸`*)


読んでくださってありがとうございました。


さて、次回は、この番外版の事後が書かれた本編となります。

よろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
[一言] 創世神ラスボス論はそこだけ切り取るとお約束なんですが、 討伐エンドとかしだすと、少し失敗すると茶番感と主人公とかの性格の悪さに諸に反射されるので主題にするのは難しいですけど、 こういう風な語…
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