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番外編 〜闇落ち勇者 なんか奴隷にされたから、魔王と手を組んでみる事にした12〜

とうとう100話……長かったなぁ。

そして、この話でも番外編完結しません!(笑)

 主神ゼロスの降臨により、その場の空気は一変した。


 人間共も、魔物共も、その姿を見上げ、放心したように武器を捨ててゆく。

 俺も、その声に、威圧に、魔法でもかかってしまった様に、剣を手放したくなるが、必死にその思いを抑え、剣を強く握り締めた。


 俺の隣に立つガルガルは、悔しげに歯を食いしばり、ゼロスを睨みつけながら呟いた。


「……っやはり、駄目であったか!」


「あ? 一体何が?」


 俺はその言葉の意味を聞き返したが、ガルガルは答えず、突然天を突く大声で叫んだ。





『ーーー者共、引けっ!!!!!』





 一瞬だった。





 その声を合図に、一斉に魔物の群れが動き出す。

 それは1つの波のようにうねり、陣形など全く無いのに、ひとつの意思の元に、全く無駄ない動きを見せる。

 形の残る魔物の骸や、傷付き動けずにいる魔物を拾いあげながら、引いていく黒い波。

 俺が呆気にとられ、その様子を見ていると、ものの三分もしないうちに、魔物は痕跡すら残さず消え去った。

 そしてその波に取り残された、俺とラウは、人間共と共に、ゼロスの前に立ち尽くす。。

 当然、ガルガルも煙のように消えていた。


 ガルガルに裏切られた? いや、この場合は命令を下した邪神に裏切られたと言う方が正しいだろう。


 まぁいい。もともと奴らの手など借りずに、成し遂げるつもりでもあったのだから。




 ゼロスの声が響く。




「何なの? 一体どういうこと? ……天使達、まずは死にかけている者の手当をしてくるんだ」



「「「「「「「賜りました」」」」」」」



 天使共が一斉に、美しい声で謳う。


 音魔法を極めた俺にはわかる。この歌は魔法だ。

 とんでもない量のかマナの込められた魔法。四対の羽を持つ天使共の一体一体が、聖女を遥かに凌ぐマナを持ち、その無限にも思えるマナを、惜しげもなくその声に乗せ、撒き散らす。



「ぐあぁぁ……ぁ あ? あれ? 傷が……」



 ちっ、部位欠損程度なら、再生させて完治させてやがる。流石に死人は生き返ってこねぇみてーだが、化物かよ!?



「神だ……、絶対神ゼロス様が、我らをお救いくださった!!! ゼロス様ぁーーーー!!! 魔物共も見ろ、跡形もなく消えている! ゼロス様が滅せられたのだ!」


 ちゲーよバカ共が。魔王が退却させたんだよ。あいつにゃ敵わねぇってな。

 しかしゼロス、今まで影も見せなかったのに、なぜ今更になって現れた? もう少しだったってのによ!


 俺はオオサマに向けていた剣先を、ゼロスに向けた。


 気に食わねぇ。

 絶対神なんて大げさな名前が付いてるから、どんな奴かと思ってたら、こんなガキだと?

 つまりはこの世界は、お前のお遊びってことか?

 ガキの遊びで、俺等を……この下らねえ糞な世界を創ったってか?

 側に侍らしてる天使共だってそうだ。全部ゼロスと同じ顔をしてやがる。とんだナルシスト野郎が!


 俺の中でゼロスに対する憎しみが、どんどん募ってゆく。



 ゼロスは、剣を構える俺をじっと見据え、不思議そうに聞く。



「ーーー何をしているの?」


「お前を、ぶっ殺してやる!」


「? 何を言ってるか分からない。そんな事無理だよ。それに、お前は僕のものだよ。僕の大切な、永遠の魂を持つ者」


 ゼロスはそう言い、ニコリと笑った。




 ーーーゾッ……




 全身の毛が逆立ち、鳥肌が立った。



 俺が、お前のもの?

 俺が?  お前の?



 ふっざけんな!!!




「アビス」



 怒りで、目の前が真っ白になりそうな俺の手に、柔らかいものが触れた。


 ーーーラウ……。


「アビス、大丈夫。」


 ラウが俺の手を握り、微笑んでいた。

 ラウは俺の腕に肢体を絡め、ゼロスに視線を移した。



「主神ゼロス。ひとつ言っておく。アビスはラウのもの。例え神様にも、アビスは渡さない」


「? 君は何? その耳……、ああ、レイスが創っていた奴か。君には関係がない。口を出さないでくれる?」


 ゼロスは煩そうに、ラウに言う。

 俺の中に、さっきとは違う怒りが込み上げてきた。


「てめぇ……」


 だが、その先を言う前に、別の声が響いた。


「神よ! おぉ、ゼロス神よ! やはり貴方は我々をお救いになった! 我々は正しかった!!」


 オオサマが、涙を流しながら汚い顔で叫んでいた。


「そんなの当たり前だよ。僕はお前達を、愛しているからね」


 ゼロスはそう言い、白々しく微笑んだ。


「おお、おおぉぉぉぉ!!  ゼロス神様! どうか我らに救済を! あの悍ましき、勇者を騙る化物を、滅ぼしてくだされ!!」


 ゼロスは微笑んだまま、口調を変えず言った。






「何を言ってるの? 彼は勇者だよ」





 オオサマの表情が固まる。


「ーーーー……。」


 声も出せず、とうとう膝をつき、その場にへたり込み、何やらブツブツと呟く。


「……嘘だ。 あれが勇者? あれは邪神の作りし化物。勇者なわけがない。 ……あれは勇者な訳がない。 アレをユウシャなどと言うアノモノは……、アノモノハ……アのモノは、……邪神?」


 微笑むゼロスに、オオサマが吠えた。


「クッ、  ……クソォオォオオオォォォオオォォオーーーーーー!!!」


 ゼロスが眉をひそめ言う。


「一体、何だというの?」


「煩い! 黙れ邪神! ゼロス様の名を騙るこの偽神めぇ!」


「落ち着きなよ。 僕は、“ゼロス”だよ」


「黙れ黙れ黙れ黙れ、黙れぇーーーーー!!」


 オオサマは、叫び近衛兵の落とした剣を拾い、それを構えた。

 ゼロスに向けて。


「ーーーお前達、一体何のつもり? まさか僕に、その剣を向けているの? 本気で?」


「当たり前だ!」


 オオサマの言葉に、不本意だが俺も同意する。


 そうだ。こんな奴を、神と認められるかよ。人をなんだと思ってやがんだ?


 ーーーぶっ殺してやる!


 俺も剣を握る手に力を込めた。



「ーーー……。」


 ゼロスは白々しく、悲哀な表情をその顔に浮かべ、俺達に懇願するように諭し始める。


「お前達、何故人間同士で争う? 愛は忘れたの? その心に宿すよう、教えたはずだ」


「邪神が愛を語るな! 汚らわしい!」


オオサマが吠える。


「ーーーつまり、人を傷つけ、死を与えることがお前達にとっての“愛”だと言うの?」


「あぁ、俺は愛の為に、人を滅ぼすと決めた!」


 俺はラウを抱き寄せた。その時だった。


 この世の全てを拒絶する、凍りついた声が響いた。







 




 ーーー……僕は、哀しい。






   





「ーーーな  あぁ?」


 オオサマが、妙な呻き声を上げる。

 自分の身体を見て、俺もその理由に気づいた。



 俺の右足が、石になっていた。

この話の一番の被害者は、実はゼロスかもしれない……。


次話、いよいよ最終回です。明日のアップになります!

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[一言] ゼロス様可愛そう…
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