神は世界樹の番人神獣と、終焉の魔物を創り賜うた
「レイス、どう? 出来た?」
天使達に負けず劣らず美しい、三百六体のハイエルフ達を創り上げたゼロスは、レイスの手元を覗き込んでそう言った。
「うん。七つ創ってて、もうちょっと。強さは全部ラムガルや天使達より上。情報処理の上手なのが六つと、下手なのが一つ。本能はアインスを守るようにした。完璧。だけど……」
自分に言い聞かせ、確かめるようにレイスが言った。
しかし最後でそこ言葉をつまらせ、困った様な顔をしてゼロスに目を向けた。
「レイス、ヤッパリ上手に出来なかった」
レイスの手元には何を混ぜればそんな色になるのか、黒とも、緑とも、青とも、灰色とも言えぬ……不思議な色をした物体があった。
ソレはまるでのっぺりしたツチノコに、不恰好な小さい手足をつけたような物。
そして他にはまだ形のなされていない、捏ね上がっただけの肉の塊が六つ並べられていた。
「……っ」
思わずゼロスが言葉を詰まらせる。
まあ流石に俺も『ゼロスが三百六体の芸術を完成させてる間に、このツチノコかぁ……』と、内心思ってしまった。
ごめんねレイス。
そして続く気不味い沈黙。
「レイス様! 余も及ばずながら、お力添えさせていただきますゆえ! 創りたい形……いえ、イメージを言ってくだされ」
沈黙に耐えきれず、普段控えめなラムガルがレイスに声をかけた。
そう言えばラムガルは、ゼロスに成型を教わっているんだったね。
だがそんなラムガルの頑張りにより凍った空気が緩み、我を取り戻したゼロスも、慰めるように優しくレイスに声をかけ始めた。
「そうだよ。手伝うって言っただろ。ラムガルとレイスでその創りかけを完成させなよ! その間、僕がこっちの肉を創っておくからさ。皆で協力して創ろう」
かくして神々渾身の共同作である、七体の神獣ができた。
と言うか、レイス(ほぼラムガル)が成型したもの以外の神獣は、全てゼロスが成型したんだけどね。
……ともかく、神獣達は巨大で轟々しく、更には雄大かつ美しかった。
一体目は水の化身、ウェルジェス。
―――透き通るアイシーブルーの青龍。
二体目は風の化身、リリマリス。
―――上半身は黄金の長い髪の乙女、下半身は黄金の双翼を持つ鷲。
三体目は土の化身、ガルドルド。
―――白いサラサラの馬のような尻尾を大地に繋げた、六つ目の陸ガメ。
四体目は熱の化身、フェンリル。
―――針のような白銀の毛皮をまとった、双頭の狼。
五体目は雷の化身、サリヴァントール。
―――エメラルドグリーンの鱗を持つ、山吹色の瞳をした水蛇。
六体目は光の化身。フェニクス。
―――純白に輝くの飾り羽を持つ極彩鳥。
そして、七体目のレイスが手がけた破壊と終焉の化身、ギドラスは、ラムガルの助力により生まれ変わっていた。
あのなんとも言えない黒に近い緑? 青? グレー……? まぁいいか。
ツチノコに手足が生えたソレは、色はそのまま巨大な羽のないドラゴン【地竜】となっていた。
刺々しく鋭い鱗を全身に纏い、目を合わせただけで生理的恐怖を覚えさせる、恐ろしい深紅の瞳。
首から腹にかけての弱点となり得る箇所には、取り分け頑丈な漆黒の鱗が並べられ、一分の隙も無い。
そして同じく漆黒の爪、牙、角は、全力で目の前のものを消滅させたがっているように、鋭く禍々しく輝いていた。
……うん、そうか。レイスはこんなのが創りたかったんだね。
いいよ。とてもカッコいいと思うよ!!
レイスが得意気に胸を張って、俺に解説をしてくれた。
「ギドラスはね、他の子と違って頭が良くない。だけど他の誰よりも強い。怒ったら全部壊す。あ、アインスは壊さないから大丈夫。だけどレイスか、ゼロスが、もう止めなさいって言うまで止まらない。アインスは優しいから、きっとすぐ止めなさいって言ってしまうから、アインスは言っても聞かないようにしてる」
……またレイスは極端なモノを創ったね。
俺がうんうんと話を聞いていると、レイスは気持ちにやりと笑い、更に得意気なって言った。
「でもボンボン世界が壊したら、ゼロスが悲しむから、レイスはセイヤクをつけた」
レイスはドヤ顔だ。
ゼロスがハイエルフ達に付けた“制約設定”を気に入って付けてみたくなったんだろう。
「ギドラスはずっと寝てるの。だけど緊急事態の時、ハイエルフ達三百六人全員で起こせば、ギドラスは起きる」
俺は嬉しくなって盛大に枝を揺すった。
考えるのが苦手なレイスが一生懸命考えたんだ。俺を守る為に、そしてゼロスを悲しませない為に。
これを喜ばずにいれようか? いや出来ない。もうよくできましたの判子を押してあげたい。
そうだ。今度ゼロスに、俺の枝で判子を彫ってもらおう。
俺はにこにこと、いつまでもレイスの話を聞いていた。
―――そしてその後、ほんの50メートル程しかない俺は、ゆうに体長二百メートルを越える神獣達に、一斉に平伏された。
そのあまりの迫力にしどろもどろになってしまった俺は、ゼロスとレイスに笑われるなんて事もあり、このちょっとしたこの事件に、やっと幕が降ろされる事となったのだった。
始まりは一匹のゴブリンの粗相だった。
そこから聖域が定められ、ハイエルフと神獣、そして終末の魔物が創られた。
まぁ、俺にとっては特筆するに値しない、ただの平和な日常なのだけれどね。
後話。
そうそう、あのレイスの創った例の不思議な色は【ギドラス色】と呼ばれる事になった。
それは世界の終焉まで、誰も知ることの出来ない伝説の色である。