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創世

 

 始まりはこうだった。




 そこは暖かくも寒くもない世界。


 そこは真っ暗な闇。

 

 そこに俺は居た。



 ―――目を閉じて眠っているのだろうか?



 そこは夜と言うには暗すぎる、完全なる黒の世界。


 例え本当に眠っているのだとしても、目を開けることは出来ない。

 何故なら目が……目蓋が無いから。



 ―――ここは何処だ? 



 かつてそう思ったこともあったが、何時の頃か、考える事をやめた。



 ―――俺は何故こんな事になったのか? 



 もう思い出せない。


 理由は忘れたけれど、焦り、もがき、帰らなければと泣き叫んだ事もあった。

 否、実際には泣き叫ぶことなど出来はしなかったのだけど。

 この闇の中に自分は在るが、居ないのだ。

 目も、耳も、口も、四肢も、胴体も、臓腑も、脳味噌もない。

  


 ―――なのに自分は何故存在している? 



 何故? どうやってこの“俺”という意識を保っているのか? 


 考えても分からなかった。確かめようが無いのだから。


 最早かつての自分が、自分の存在を確認できていた頃の記憶は、永遠かと思うこの虚無の中で、霧がかかったようにボンヤリと霞んでしまった。

 あれほど帰りたいと願ったその場所も、……もうよく思い出せない。

 思い出そうと言う、気力も湧かない。


 “今日”という概念は、もう俺の中で消えつつある。

 かつての記憶にある、時間と言うもの……確か“1秒”とか言ったか? 

 虚無の中では“1秒”も“1億年”も変わらない。

 過去や未来という時の流れがなく、あるのは現在だけ。



 ―――何もない。


 何もナいのだ。なにもナイ、ナニモ……。



 口は無いけど、また俺は歌うように口ずさむ。

 いつもの独り言。いつもの口癖。


 ―――何が起コったのだっけ? タスケテ……。

 ―――俺ハ誰だ? 俺はなンだ? タスケテ……。

 ―――ここはドこだ、何故コこにいる、誰がこんナことをした、ここハぢごくか、あいつらはどこにいッた、アイツラってダレだっけ? おれもおわらせて、おわらせておわりたいおわらせておわらせてタスケテオワリタイオワリオワリオワ……





 ◇◇





 ―――信じられない事が起きた。


 突然“虚無”が無くなった。

 つまり“世界”が生まれたんだ。


 暗闇の中に“光”が派生したのだ!


 それは小さな小さな、たった一粒の光る砂粒。

 今にも消えてしまいそうな光の砂粒は、揺らめきながら闇の中を漂っていた。


 何故? 否、そんな事はどうでもいい。

 それを見た瞬間、俺は歓喜して泣き叫んだ。

 ……まあ、目も口も無いけど。



 ―――手を伸ばしたい。


 ―――失いたくないんだ。


 ―――消えないで!


 ―――俺が……、守る!!



 俺は闇の中でひたすらに願った。

 口癖のようにタスケテと言っていたくせに、それを見た瞬間タスケテどころか、守らなければと本当に心の底からそう思ったんだ。

 否、それを守る事こそが自分の“救い”となると、瞬時に理解したんだ。


 虚無の中に産まれたたった一粒の砂粒は、俺にとって世界そのものだった。

 だって、時おり闇に圧し潰されそうに明滅するその光の砂粒は、何者の浸食も赦さなかった“絶望の虚無”を、ただの“凶悪な漆黒の闇”へと変えさせたのだから。


 そのたった一粒が“虚無”を“虚無”で無くしたのだから。


 今にも闇に圧し潰されそうな砂粒を、俺は全身全霊で求めた。

 伸ばす手等無いと言うのに、俺は俺と言う存在総てでその光を求めた。




 ―――――――パキ……。





 小さな、小さな、世界を震わせる音がした。

 それは俺自身があげた、魂の音だった。

 耳は無いので聴こえはしなかったが、確かに感じた。


 そして俺は光を求め、俺は確かに“触れた”のだ。







 そしてその時、世界が揺れた。








 ◇◇






「……いや、本当に焦ったよ。触れたと思った瞬間、光の砂粒は砕けたんだ。まっぷたつにね。世界が揺れたどころか、崩れ落ちたような気持ちだったよ」



 そう言って俺は、一度話を区切った。

 晴れ渡る青空の下、緩やかな風に波打つ遥かな草原の真ん中で、無表情な幼い双子が瞬きすらせずに俺を見つめている。


 いや、言い回しなどでなく、本当に瞬きをしないんだ。

 そして俺も瞬きせず、()線を双子に向け続けている。

 だけどそれは俺達にとって、不気味なことでも何でもない。

 だってこの二人こそ、後にこの世界の神となる“特別”な存在なのだ。

 少しくらい可笑しくても、問題ないだろう? 


 そして、俺と言えば、()線を向けても、瞬きなんて出来やしないんだ。





 だって俺は“樹”なのだから。






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