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わが青春の泉荘  作者: 田久青
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17/22

アルバイト番外編②

東京の最も南のエリアに大田区がある

大田区の中で最も大きな街が蒲田だ

新編武蔵風土記によると、かつて蒲田は梅の木村と呼ばれ、梅の名所だった

江戸時代には歌川広重が蒲田の梅を描いていて、蒲田梅屋敷と呼ばれたらしい

現在でも蒲田の属する大田区の「区の花」は梅である。

JR蒲田駅より東急池上線の蓮沼駅の方が近い場所にそのアパートは建っていた

年季の入った木造モルタルの2階建

ひび割れ模様の広がった外壁

歩くとギシギシときしんだ音がする渡り廊下

風呂なし共同トイレで部屋は6畳一間

そのアパートの名前は「泉荘」

池袋乱闘事件主役の神田君は


変わったアルバイト先を探してくるのが得意だった


神田君に誘われて行ったアルバイトが今でも忘れられない


1980年の10月だった


神田君に言われるままに横浜の磯子区という場所にある


JR根岸駅東口に8時に降り立った


煙草をうまそうに吸っている少し寝ぼけ眼で寝癖のついた神田君が


タクシー乗り場近くに立っていた


「おー、こっちこっち」


手を振る神田君のそばに行くと


僕を駅のロータリーの端の方へ連れて行く


神田君の後ろをついていくと小さな白いマイクロバスが停車していた


横のドアからそのマイクロバスに神田君が乗り込み、続いて僕も乗り込むと


マイクロバスの中には年配のおじさんとおばさん十数名が既に席に座っていた


神田君が明るく


「おはようございま~す」


とおじさん、おばさんたちに声をかける


見知ったおばさんなのだろうか


「神田君、おはようさん」


と声をかけられている


その後すぐに出発したマイクロバスに15分くらい揺られると


大型トラックが何台も同時にすれ違えるようなゲートをくぐって


倉庫のお化けのような大きな建物に横づけされた


神田君に案内されジェラルミン製の階段を上ると


頭の禿げた親父が座った木製の長テーブルの受付のようなところで


「はい、これに名前と住所書いて」


と神田君が言う


そのカードには名前と住所以外に服と靴のサイズも書く欄があった


カードを受付のおじさんに渡すと


「はいこれね」


と言って


作業着の上下と安全靴、足の裾に巻くゲートルのようなものとヘルメットを手渡してくれた


慣れない手つきで作業着に着替えて安全靴を履く僕の様子を


既に素早く着替え終えていた神田君がニヤニヤして見ている


神田君と一緒に工場の中に入る


見上げるとロール状に巻かれた巨大な鉄板の塊から


それはまた巨大なベルトコンベアーに畳2枚くらいの大きさの


鉄板が裁断され流れてくる


固定したレールを運転席の付いたクレーン車が


ハッカーと呼ばれるUFOキャッチャーの先のようなものをぶら下げ


右に左にゴーゴーとという大きな音を立てて運んでいる


初めて見る景色に思わず息を呑む


神田君に教えてもらった仕事の内容は


大型クレーンから下された何枚かに重ねられた鉄板を結束バンドで固定し


固定された鉄板を今度は上から2段とか3段とかの


指示を受け、またゴーっという音とともに


やってきたクレーンの先にぶら下がっているハッカーを手で引っ張り


鉄板の向こう側のY君とその鉄板にハッカーを差し込み


クレーンがそれを釣り上げてまた別の場所に運んでいくという作業だった


きっかり12時から1時間お昼休みを取って


夕方5時までその作業は続く


作業が終わってロッカールームで着替えていると


頭の禿げた親父が給料袋を持ってやってくる


中身を確認するとお昼の弁当代が引かれて3670円の現金が入っていた


帰りのJR根岸駅までのマイクロバスの中では


あまりにもクタクタに疲れ果てウトウトと眠ってしまった


横浜で少し飲んで帰ろうやというY君を断ってまっすぐ家に帰る


アルバイト4日目のことだった


段々仕事の要領も掴めてきた


重たいホッチキスのお化けのような道具で


下された鉄板に結束バンドをキュッキュッと締め


鉄板の上から結束バンドの少し出た部分をゴンゴンと叩いてつぶす作業が


なんか快感に変わってきた


初日に比べて作業のスピードが一段と早くなっているのが自分でもわかる


一端の職人になったような快感もあった


お昼の弁当を食べた午後の作業の時


ちょっとした事件が起きた


鉄板にハッカーをかける場所が二段目なのか三段目なのか


神田君の声が聞き取りにくく


神田君は3段目に対して僕は2段目にハッカーをかけてしまった


工場内にけたたましく警報音が鳴り響き


クレーンが止まった


上空のクレーンを操縦していた親父から「ばかやろー」と怒鳴られる


後で現場監督のおじさんから聞いた話では


何年か前にハッカーを段違いに掛けてしまい


重さが何トンもある鉄板がずれて片方の作業員の両足が


切断される大きな事故があったそうだ


その話を神田君は横でニコニコして聞いている


翌日、僕はそのアルバイトにはもう行かなかった


神田君とは1ヶ月がんばろうやという約束をしていたのだが


朝、あの現場監督のおじさんの話が蘇り布団を出ることができなかった


何か月か経って神田君と会った時


「神田君、ごめんな、アルバイト突然行かんで」


と僕は神田君に言った


「あ~あのアルバイトね、俺もむかつく親父がいて喧嘩になってあの後、すぐ辞めたよ」


「あ、そうや」


僕は少しほっとした


たったの4日しか行かなかったアルバイトだったが


今でも、あのゴーっというクレーンの音と


結束バンドをかける時の変な快感と


事故を起こしそうになったけたたましい警報音が鮮明に蘇る


インターネットでさりげなく検索をしてみたら


下記の求人募集の記事をみつけた


なんだかな~


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お読みいただきありがとうございました。

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