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わが青春の泉荘  作者: 田久青
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そして泉荘の物語がはじまった

東京の最も南のエリアに大田区がある


大田区の中で最も大きな街が蒲田だ


新編武蔵風土記によると、かつて蒲田は梅の木村と呼ばれ、梅の名所だった


江戸時代には歌川広重が蒲田の梅を描いていて、蒲田梅屋敷と呼ばれたらしい


現在でも蒲田の属する大田区の「区の花」は梅である。


JR蒲田駅より東急池上線の蓮沼駅の方が近い場所にそのアパートは建っていた


年季の入った木造モルタルの2階建て


ひび割れ模様の広がった外壁


歩くとギシギシときしんだ音がする渡り廊下


風呂なし共同トイレで部屋は6畳一間 そのアパートの名前は「泉荘」


18歳で生まれて初めて九州の親元を離れて


大都会東京の大学に進学した僕は


大学に近い世田谷のアパートに住むことになり


東京での刺激的な生活に目を輝かせながらも


一人の生活に慣れず、毎日が寂しくて仕方なかった


ある日九州の同級生伊藤君が住んでいた「泉荘」に遊びに行くと


海産物を取り扱っている実家から送ってもらったらしい


大量の焼あごでご飯とお味噌汁を作ってくれた


僕はまるで一度餌を貰った野良猫のように


その伊藤君の住んでいる「泉荘」に入り浸るようになる


そして、同じ餌の臭いを嗅いで


予備校に通っていた佐藤君も入り浸るようになる


いや佐藤君はそこに住み着いてしまう


伊藤君の人徳からか、当時東京に出てきていた


高校時代の九州の友達も次から次へ


遊びに来るようになり


「泉荘」は、


あるときは同窓会の宴会場になり


あるときは麻雀部屋になり


あるときは酒場になり


取り留めのない議論を朝までかわし


まだ東京弁をうまく使いこなせない僕にとって


思いっきりリラックスでき


全く気を遣うことのない素敵な空間だった


ある日、ちょっとした事件が起こった


その日は、何人かいた友達も終電で帰り


伊藤君と佐藤君と3人で飲みなおしていた


佐藤君の話に、大笑いをしていた時


入口のドアをドンドンと叩く音がする


「あれ?誰か終電に乗り遅れたとやろか?」


ドアを開けると、隣の部屋に住んでいる


白いジャージを着た角刈りのおじさんが


血走った目で立っていた


「お前ら、毎日毎日、うるせぇんだよ!コラー・・・・・」


突然のことで、僕らもびっくりしてしまい


「あ!すいましぇん!もう静かにします!」


3人で一生懸命に丁寧に頭を下げて何とか部屋に帰ってもらった


僕らは興ざめをしてしまい


「さあ、もう寝よか」


布団を敷いて電気を消して床に入った


すると隣の部屋から大音響が・・・・・


恐らく、僕らへの腹いせにTVのボリュームをMAXにしたのだろう


「佐藤君、少しボリュームば下げてください、ってゆうてこいよ」


「ばかたれ、行けるわけなかろうもん、さっきの血走った目見たろ?」


「確かに格好からするとお寿司屋さんかもしれんけん、包丁もっとるかもしれん」


僕たちは仕方ないので我慢することにした


佐藤君がつぶやいた


「なんかさ、映画館のスクリーンの下に布団しいて寝とるごたるね」


「ほんなこと・・」


急におかしさが込み上げて大笑いをしようとしたとき


伊藤君が「しーーしずかにせんば」・・・


僕らはいつの間にか眠っていた


大音響は結局、朝方までおさまることはなかった


お読みいただきありがとうございました。

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