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緋龍炉心《ドラゴンハート》と騎士のウタ  作者: 暮夕太
第一章 ユークリアと緋色の騎士
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第二話:異邦人

朝。かちゃかちゃとスプーンを動かし、おかわり実に三杯目。隣では謎の金色少女ががつがつと皿を鷲掴みにしながらエイミーが作ってくれた朝食(豆を軟らかく煮たスープっぽいもの。うまい)をごちそうになっていた。


「ごちそうさま」


「うん。よく食べたよく食べた」


エイミーは満足そうにうなずく。

隣の少女はお腹が膨れたことに満足したのか、また寝始めてしまった


朝のひと悶着から少し、現在ユウはエイミーから体の手当を受けていた。手当といってもユウの体に外傷はなく、体力を回復するためにご飯をしっかり食べることを命じられ、体力が回復する薬草を作ってもらっているところだった。


「はい、どーぞ」


「ありがと、う……?」


ユウは薬草を受け取る。薬草といってもユウには葉っぱをすりつぶした物のにしか見えない。子供のごっこ遊びに付き合わされているのかと疑ってしまうが、エイミーはふざけてる様子もなく、さあ飲んで飲んでと催促する。


「っく!仕方ないか……!」


意を決して一気に口に流し込む。

ゴクリ。

苦い。


「どお?良く効くでしょ?ラミアおばさん直伝なんだから」


エイミーはふんすっと鼻をならし得意げだが特に、何か効果が出たように感じない。薬草というからてっきりHP回復的なものかと思ったが、口に苦い後味が残っただけだ。


「なんの変化もないんだが……」


そういうと少女はきょとんとして、その後おかしそうに笑い始めた。


「そんなすぐには治らないよ。少し休んでから」


クスクスッと少女は笑う。どうやら変なことを言ったらしい。


「いや、良く効くかっていうから……こう体力、回復!みたいな……」


言い訳。しかし薬草からゲームアイテムを連想し素っ頓狂なことを言った事実は覆らない。

そういうとエイミーは今度は大きく足をパタパタしながら笑いだす。


「魔法じゃないんだから。子供みたい。」


「こ、子供……」


子ども扱いされてしまった。そういえば小さいころ幼馴染もよく風邪をひいたとき薬を飲んですぐ、「治った!?」と聞いてきたのをユウは思い出す。治るわけない。

どうやら普通に薬をくれただけらしい。こういったナチュラルな薬が効くのかわからないが、恩には感謝しなければ。


「すまない、水とかあるか?」


口の中の苦みが気になりエイミーに尋ねる。

ユウがそういうと少女ははっとして


「あーごめんね、今汲んでくるね」


と言って立ち上がろうとした。


「あーストップ。ちょっと待ってくれ」


そう言ってユウは引き留める。汲むということは井戸か何かかもしれない。それなら女の子にまかせっきり、というのもよくなかろう。


「場所を教えてくれ。自分で汲むよ」


「大丈夫?無理しないでいいよ?」


「大丈夫。全然動けそうだよ。世話になってばかりじゃ悪いからな。」


エイミーは心配そうにユウをうかがう。

ユウはそんなエイミーの心配を晴らすように、よっと勢いをつけるとそのまま跳ね起きる。


「おお!」


エイミーが驚きの声を上げる


倒れてもすぐ立ち上がれ。昔見た特撮番組のセリフとともに覚えた、ユウの少ない特技の一つ。特技といっていいのか微妙かもしれないが、今日はとくに体が軽かった。


「薬草が効いたのかもな」


エイミーを見て言うがエイミーはまだ感心しているようだった。


――――――――――――――――――――


エイミーに連れられてベッドの部屋を出る。

そこは先ほどの部屋と同じくらいの大きさの部屋でやはり同じように簡素だった。

かまどのようなものがあり、食器かなにかの棚がある。真ん中には大きなテーブル。それだけだ。

エイミーが玄関のドアを開け、そのあとをついていく。


「おお」


外に出ると牧歌的な村です。といった雰囲気だ。なだらかな平原。なんとなくかなり小さな村を想像していたが思っていたよりずっと広い。後ろは小さな山があり前は少し下っていて、おかげで見晴らしがいい。木造かと思っていた建築は外側は石などで補強され白く塗られている。同じような家がいくつか立ち並び、その奥には畑が並んでいる。その間を縫うように土でできた簡素な道が伸びていく。


「素敵でしょう?」


感心したユウに気付くとそうエイミーが話しかけてくる。


「ああ、素直に感心したよ」


「そうでしょう、そうでしょう。これこの村の自慢なの」


都会に住んでいるとこれほどの見晴らしはなかなかない。展望台などから見るのとは違う、低い視点からの見晴らしは新鮮だった。

ユウは改めて確認してみるがやはり現代的な物は見当たらない。なんとなくではあるが状況はわかってきている。少なくとも現代とは何らかの形で隔絶された場所だろう。と推測してみる。

しばし景色にいろいろ思いはせていたが、エミリーが行きましょうか、と歩き出す。あわててユウも後を追う。


「ここですよ」


家の裏手に回ると以外にも井戸ではなかった。どちらかというと大きな水ためで、木でできた蓋がついている。少し意外だったが川まで汲みに行くんだったらどうしようということも考えれば問題はない。というのもユウはしばらくここに滞在する可能性について考えていたからだ。ここが何処かも分からない以上、すぐに日本に帰れるとは限らない。急に放り出されても右も左も分からなくてはどうしようもない。謎の少女のこともある。同じベッドで寝かされていたのだから、自分がここにいる事に関係があるのかもしれない。となると彼女からも離れないほうがいい。厚かましいかもしれないがここでお世話になる可能性はかなり高い。


「今朝汲んできた新鮮な水だよ」


と思ったらこれは汲んできたものらしい。一応聞いておこう、とユウは質問する。


「毎日川から汲んでくるのか?」


「ううん、ここはね、山があってきれいな水がたくさんあるんだ。村の真ん中に昔みんなで掘ったっていう大きな井戸があってそこから汲んでくるの」


「そうなのか」


「山の近くのアガタさんちは山からくんでくるけどねえ。ロジェさんの作業場のあの辺なら小川もあるし」


エミリーが誰かの話をするのを聞きながしていて気づく。そういえば生で飲んでも大丈夫なのだろうか。現代の水道の水しか飲まないユウにとっては盲点だった。蛇口をひねれば水が出るわけじゃない。衛生状態は気をつけたほうがいい。


「聞き忘れてたけどこれってそのまま飲んでいい水なのか」


ユウが尋ねるとエミリーはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに目を輝かせると、自慢げに語りだす。


「大丈夫だよ、大丈夫だよ。この辺はねえ自然が豊かで、精霊様のお力も強いから水もねそのまま飲めるの。すごいでしょ、これこの村の自慢なの」


「へー」


ひとまず安心。気になる単語があったが、とりあえずそのまま飲めるらしい。そんなユウの態度にエミリーがすこし残念そうにする。きれいな水はこの村のかなりの自慢らしい。


「じゃあいただきます」


飲む。

うん、普通の水だ。特に体から何かが沸き上がったりはしなかった。

横を見るとエミリーがこちらを見ている。


「どお?こんなおいしい水初めて飲んだ?」


ユウは困惑する。もしかして水を信仰してたりするのだろうか。それぐらいの得意げさ。水が特産というのにいまいちピンとこないユウは「おいしかったよ」と告げるがエミリーは不満そうに「もっと感動すると思ったのに」とつぶやく。


意外な文化の違いに浸っていると後ろから足音がする。そちらを見てみるとユウと同じくらいの年の若い男がやってきていた。


「ダイモン!」


エミリーが声をかける。ダイモンと呼ばれた青年は手を挙げてそれに応じる。


「村の人か?」


ユウが尋ねる。


「うん。麦畑のとこのダイモンだよ」


聞いてるうちにダイモンがやってくる。


「おう、エミリー。それとあんたも目覚めたか」


ダイモンがじろじろとこちらを見る。

こちらも警戒しそうになるがすぐにニッと笑うと、


「元気そうで何よりだ!昨日見つけたときは死んじまうかと思ったけどよ」


そう言って肩を豪快にたたいてくる。正直苦手そうなタイプだが、どうやら自分をどこかで拾って運んでくれたのは彼らしい。

ユウは姿勢を少し正して話しかける。


「ああ、お陰様で助かったよ。何とお礼を言ったらいいか分からないけど、とにかくありがとう」


感謝を告げる。

するとダイモンが小刻みに震えだし、その後大笑いをしだす。


「ぶははは!何だおめえ、その回りくどいようなおかしなしゃべり方はよお」


笑われる。


「何かおかしかったか……?」


すると今度はエミリーが笑いだす。


「あはは!さっきから思ってたけどユウのしゃべり方バカ丁寧だよ」


「そんな風には見えねえけどよお、もしかして結構いいとこの坊ちゃんなのか?」


「いや、そんなこともないんだが……」


しゃべり方がよくなかったらしい。考えてみればユウはあまり会話の得意なほうじゃない。しゃべると笑われるという事態に困惑するが、不思議と嫌な気持にはさせられなかった。二人とも人柄がいいのかもしれない。


「まあなんにせよ、目覚めてよかった!俺はダイモン!いずれ国中にその名がとどろくぜ!」


「俺は佐倉勇。ユウと呼んでくれ」


「おう、よろしくなユウ!」




――――――――――――――――





ダイモンとエミリーの世間話に適当に相槌を打ちながら、家へと戻る。すると家の前がなにやらさわがしい。


「あれどうしたんだろ」


エミリーが不思議そうに首をかしげる

するとダイモンが興奮したように声を上げる。


「ありゃあユークリア騎士団の紋章だ!」


「ユークリア騎士団?」


「知らねえのか!?この国を守る騎士様だよ!」


「でもなんで騎士様がうちに……あっ」


興奮するダイモンの横でエミリーが何かに気付いたようにこちらを見る。ユウはそれを見てなるほどとつぶやく。


同時に騎士の一人がこちらに気付く。隣の鎧を着た男に耳打ちすると、こちらへと歩いてくる。

応じるようにユウも一歩前へ出る。お目当ては自分だからだ。


相対する。おもっていたよりも若い。年もユウとそんなに変わらないだろう。

鎧姿の騎士はバカ丁寧な態度で姿勢を正すと、こちらをにらみつけるように告げる。


「私はユークリア騎士団正騎士を務めるロランというものだ。こちらに奇異な風貌の異邦人がいると聞いた。貴殿のことで間違いがなければ嘘偽りなく答えるがよい」


めんどくさそうなやつだな、というのがユウの印象だった。







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