森林にて1
獣との遭遇を経て、ユウは無事に森へとたどり着いた。先ほどのことがあったのでかなり慎重に進む。なにが飛び出してきても対応できるように。
けれど―――――
「……どういうことだ?」
気配が全くない。ここは森でありユウはいろいろな生物がいると思っていた。しかし実際には何の気配もない。冷えるような静寂は、あらゆる音を飲み込んでいるんじゃないかというほどだ。深い森とはこういうものなのだろうか。ユウは警戒しながら歩みを進める。
空気が重たく感じる。深い自然に圧倒されそうになって言うのだろうか。
「少し休むか」
ユウは近くの木の根元に腰掛ける。この森の木々は大きい。森にもいろいろあり、こういった大木だらけの森は生物が少ない。大木が日の光をさえぎるため新しい木々が育たず、隠れられる場所も少ないため動物もいつかない。ユウはこの森に動物がいない理由を考えながら、足を休める。
「のどが渇いたな……」
何かを手探る様にして気付いた。飲み物がない。考えてみたら自分は今手ぶらだ。
これは結構な問題だ。水がなければ人は生きられない。森を抜けるのを第一に考えていたが、水を探すのを優先したほうがいいかもしれない。
ここは森であり木々があるということは水を得られる場所もあるだろう。雨の多い土地なのかもしれないが、それならそれで水の確保には困らないはずだ。
川を見つければ、そこから人の住む場所を見つけられるかもしれない。
方針を決め立ち上がる。
といってもやることは変わらない。歩くだけだ。残念ながら自分には水を探す知識はない。ここがドラゴンのいるような世界でないなら丘の方に戻るべきだろう。しかしここでは助けは当てにできない。行動せざる負えない。動機がなくとも。
周囲を警戒する。些細な変化も見逃さないように。動物がいれば水場も見つけられる。水場は開けてるはずだから一際明るいところを見つけてもいい。
とにかく些細な情報も見逃さないように全身に神経を――――――
瞬間恐ろしい感覚におそわれた。
全身を駆け巡る警戒の感覚。
突然でありながらなぜかはっきりと理解できた。
この森に何かがいる。それも先ほどのワイバーンよりも危険な何かが。
違和感に気付いたせいだろうか。森が先ほどまでとは違って見える。
死――――
空気が冷えるなどというどころではない。この感覚を他になんといえばよいのだろうか。背筋が凍る。心臓をつかまれているかのような死の気配。
急な情報量の変化に頭がずきずきと痛み始めた。緊張からか心臓が信じられないほどに動いている。
水などという話ではない。一刻も早く森を抜けなければ。
そう思った瞬間匂いのような不思議な感覚を感じる。これは
「さっきの獣か……?!」
怯え、警戒、悲鳴、あるいは、そのどれでもなく。
音として聞こえたわけではないがはっきりと感じ取れた。
助けを呼ぶ声だ。