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セイント・ブルー  作者: 千年寝太郎
第一章 魔法師たち
9/10

2-3 幻術と記憶

久々の投稿です

 二年前、滅びた学者の国。レンヴァスモス公国。


 それが、今、ソニアの目の前で幻として蘇っている。これは、紛れもなく誰かの記憶を元にしている幻であり、それ故に。

「じゃあ、ここはシモンとレニーの過去の記憶を元にした幻術の中?」

 山賊のリーダーの若かりし頃の姿を横目に見ながら、ソニアはジェスに尋ねた。

 どうやら今、鎧に身を包んだ僅かに若いシモンはソニアたちの事は見えていないらしい。試しに前に立って飛び跳ねても、横に並んで歩いても、視線一つすらこちらに向けない。それどころか、ソニアの体に触れたかと思えばその触感はなく、ソニアの体をすり抜けていった。

 確かに実体がない。


「そういうところだろうな」

「じゃあ、シモンは昔、騎士だったっていうこと?今は山賊をやっているのに!」

 信じられなかった。一体何がどうして、騎士から山賊へと身をやつしてしまったのか。

 ソニアは辺りを見渡した。

 賑やかな街並み。舞う花びら。質素ながらも洗練された装飾品の数々が飾られ、大道芸人が火を吐いている。道の中心を歩く鎧姿の騎士たちの表情も晴れやかで、誰もが楽しそうに笑っている。

 人の息遣いを感じる。

 生命の気配を感じる。


「こんなリアルなのに、幻術で、もう滅びていて……今は人さらいって、もう、何がなんやらわからないよ!」

 心の内を吐露すれば、ジェスは真顔で答える。

「難しいことは考えるな。取り敢えず、この幻術を生み出している山賊どもを見つけて引っぱたけば、幻術は解ける。それだけ考えていればいい」

「どうやって探すのさ?」

「魔力の気配を感じとる。発生源に山賊どもがいるはずだ」

「またそれ!」


 本日何回目の、“魔力の気配を感じる”だろうか。ソニアはうんざりして、頭を抱え込んだ。

「透視の魔法が使えるわけでもないだろう。方法がそれしかない。幻術はかなりの魔力を消費するからな。分かり易い」

 言いつつ、ジェスは視線を泳がせる。何度か周囲を注意深く見渡して、それから指をさす。

「あっちだ」

 その方向には、小さいながらも立派な造りをした、城が存在していた。白亜の城、と呼ぶにふさわしい。屋根は蒼く彩られ、空に溶け込みそうな色をしていた。

「お城?」

「城だな」


 頷きながら、ジェスは早足で城の方向へと向かっていくので、ソニアは慌てて後を追う。と、背筋に悪寒を感じた。まるで誰かに見られているような、呼びかけられているような、振り返らなければいけないような衝動に駆られる。けれど、振り返ったらそれで終わりのような気もして、思わずジェスのコートを掴んだ。

「その反応で正解だ。振り返るなよ」

 僅かに緊張で引き絞められた、ジェスの声が降って来る。


「死者共が、こちらをずっと見つめてきている。目が合った瞬間、奴らの領域に引き込まれるぞ」

「う、うん」

 呼吸を詰まらせながら、ソニアはなんとか返事をした。

 振り返れば危険だ、と本能は語りかけてきている。

 よし、振り返らないようにしておこう。


『―――それにしても、小隊長』

 耳に流れ込んできたのは、騎士の声だった。小隊長、と呼ばれたのは紛れもなくシモンと呼ばれていた山賊のリーダーであり、彼は部下の言葉の続きを待っていた。

『今日はレニー様にお会いしなくてよろしいのですか?』

 レニー。未熟な女性の魔法師。彼女も、この滅びた国の出身であったのか。

 シモンは苦笑しながら、頭をくしゃくしゃと掻いた。

『今日は城の中で会う予定なんだ。たく、なんだかなあ。懐かれちまって困る』

『ははは。我が国の魔法学の最高顧問の娘の研究対象は、小隊長ですからな。“どうしてシモンの筋肉はそんなに俊敏に動くの?”とか言って、まるでひな鳥のように後ろをついてきますからね』


 よく見れば、シモンと会話をしている騎士は、山賊の一人であることに、ソニアは気づいた。さらによく見れば、後に続く騎士たちもみんな、見覚えがある。

 その数は十三人。全員、今は山賊として悪事を働いている人間たちだ。


『いや、最近はもっぱら、古代遺跡の研究に没頭しているらしい。ほら、この間の新聞に載っていただろう?“大昔、人間は魔力炉を持っていなかった。しかし、魔法らしきものを使い、神々と戦ったと言い伝えられている”とな』

『変な話ですよね。魔力炉を持っていないと、魔法は一切使えないのに。俺たちのように』

『本当になあ……。けど、顧問の言った事を証明するために、レニー様は夏至祭にも参加せずに、昔の資料を引っ張り出して頑張っているからな。今日は差し入れだ』

 そう言ったシモンの手には、柔らかな紙に包まれた小さな何かがあった。

『シフォンケーキですか。喜びますよ、あの子』

『そうだといいのだがなあ』


 小隊長と呼ばれたシモンと、年若い騎士との、穏やかな会話は続いていく。とても平和な、良い国なのだろうな、とソニアはよく考えずに、ただ直感で感じ取っていた。

 それにしても。

 昔の人間が魔力炉を持っていなかった、というのは。

 少し気になる話だ。

 気になるだけだが。


 やがて、道は緩やかな坂に差し掛かり始める。上るのはそこまで苦ではなかったのだが、なんだかとても、息苦しさを覚えた。

 城の大きな門は開かれている。

 開いている。

『……今日は王城の開門日ではない……筈だよな?』

 シモンが怪訝そうに、目を細めた。

『そのはずです』

 若い騎士が、頷いた。


 声には、不審と緊張が孕んでいる。不穏な空気が流れ始めている。城門前は不自然なほどに静かだ。祭りの音の一切が、城門をくぐった途端に遮断されてしまったかのようだ。

 と――――。

 城の入口にあたる正門から、突如として飛び出してきた化け物がいた。体長にしておおよそ一メートルほど。獅子の顔、竜の尾、蝙蝠の翼を肉体に持つ、化け物が。


「うわっ……!」

「合成獣か」


 ソニアは驚いてジェスのコートをがっしりと掴んだが、ジェスは落ち着いた様子でその化け物の名前を呼んだ。ソニアの目の前を、化け物―――ジェスが呼ぶところの合成獣が通り過ぎていく。その背中には不自然な部分に、人の手が生えていた。肋骨と思われる骨が、剥きだしていた。

『小隊長!』

『ちっ!』

 シモンは手に持っていた槍を瞬時に構え、突き出す。槍の先は合成獣の顎を突き刺し砕き、破壊して脳まで至る。血が噴き出し、辺りに飛び散り、ぶらりと合成獣の体は槍にぶら下がった。

 絶命している。


『なんだ、これは……?』

 シモンは怪訝そうに合成獣を眺めた。その間に合成獣の体は重力に耐え切れずにみしみしと音を立て、遂には千切れて、顎から下が地面に落ちた。シモンの槍に残ったのは、獣の顔の一部だけだ。

『人の手が……』

『獣……?』

『いや、爬虫類か……?』

 獣の死体など、割と見慣れたものだ。実家が田舎だったので、獣を狩ることだってあったのだから、見慣れたものだと思っていた。

 しかし。

 目の前の生き物は、自分が知っている獣のどれにも当てはまらない、未知の生物である、と直感が告げてきている。


「ジェス、これって……生き物?それとも化け物?」

「生物兵器だ」

 ジェスはきっぱりと断言した。

「合成された獣。命と命を掛け合わせ、より強力な生物兵器。それが合成獣だ。こいつらの製造は、もう百年も前に使用を禁止されている。まさかこんな所で目にすることになるとはな」

 あまりに非人道。あまりに倫理に反する行い。命を何だと思っているのだろうか。自然にこみあげてくる怒りを必死に飲み込んで、ソニアはジェスに尋ねた。

「誰がこんな事を……」

「知るかよ。んなことよりも、本物のおっさんたちを探すことが先決だ。早くこの悪夢から目覚めさせないと、魂を死霊に持っていかれて、ぽっくり逝っちまう」

「けど」


 気になって仕方がない。幻術の中のシモンたちは、声を上げながら、城の中へと入っていく。

 何があった。誰がやった。どうしてこんなことが。生存者はいるか。どこにいる?

 混乱しているのが分かる。

 探しているのが分かる。

 助けを求めているのが分かる。

 ならば、助けに行かなければいけないじゃないか。

 それは、おそらく本能。

 声のする方へと、ソニアは足を浮かした、その時だ。


「しっかりしろ」

 両頬を大きな手で挟まされた。強い力で無理矢理首を捩じられて、視線は強制的にジェスの顔の真正面へと移動する。

 眼が合う。真っ青な、深海のような色の瞳がそこにある。

「いいか。よく聞けよ。今、お前が見ているのは幻術だ。過去の出来事だ。過去は誰にも変えられない。変えてはいけない事だ。ここでお前が救える者は誰も居ない。お前がここで助けられるのは、山賊のおっさんたちだけだ。間違えるな、惑わされるな。奴らの思うつぼだぞ」

 ジェスの声は真面目そのもので、ソニアの脳にゆっくりと言葉は浸透していく。

 つい先ほどまで若い騎士の姿をしたシモンたちを助けなければ、と思っていた心が、徐々に薄れていくのが感じる。霞がかかっていた思考が晴れていくのが感じる。

「分かったか?分かったのならば、しっかりと貴様の意思表示をしろ」

 ジェスの確認するような声で、我に返ってみればその顔が思いのほか近くにあって、それが急に恥ずかしくなった。顔がかあっと熱くなるのを感じる。


「わ、分かった、分かったから、放して!」

「よし」

 ソニアの訴えを素直に聞き入れて、ジェスはソニアから手を離し、体を離した。どこか満足そうだ。

「今やるべきことは?」

 確かめるように尋ねてくる。ソニアは息を呑みこんで、それから噛みしめるように、確かめるように、しっかりと言葉を口にする。

「山賊さんたちを助けること」

「分かっているな。では行くぞ」


 ジェスの言葉にソニアは頷いた。それでも少し振り返って、シモンたちが消えていった廊下へと視線を向けた。

 これは過去の情景だ。過去の記憶だ。

 本物のシモンたちは確かにまだ生きていて、だからこの過去の時点で死ぬことはない。

 今はしっかりと理解しているのだけれど、ならば。


 仮にも騎士であった人間が、山賊にまで身を堕とすこととなった、理由がかなり気になった。


 城内に人の気配はない。人の姿もない。死体の一つも出てきやしない。

 奇妙だ。変だ。異常だ。

 ソニアはジェスのコートの裾を未だ、ぎゅっと掴んで離さなかった。

 死体が出てくることを想像していた。だからこそ、予想外のこの城内の状態が怖かった。これから何が起こるのか、それが怖くて仕方がなかった。

「ふむ……。どうやら、一か所に集められているな」

「え?集められている?」

 ジェスの呟きに、ソニアは不思議そうに首を傾げた。


「そうだ。集められている。まあ、幻術に限らず、魔法を複数にかける場合は、なるべく一か所に集めてからかけるのは定石だ。魔力の消費を抑えられるからな。……覚えておけよ」

「う、うん。覚えておけば、いいんだね?」

 自分の呟きだろうが何だろうか、尋ねれば一応懇切丁寧に教えてくれる。本当に説明が好きなのだな、と思いつつ、ソニアはジェスに教わったことを頭の中で反芻していた。

 と、足が止まる。

 ジェスの足が止まったからだ。


「どうしたの?」

 尋ねながら、ジェスが睨む先を見た。

 そこには、一人の人間が立っていた。

 女性。レニー。けれど、その姿は山賊の質素な服装ではなく、豪華な服装を着ていた。それがとても自然で、とても似合っていた。

 その女性は泣いていた。顔に手を当てて、「どうしよう、どうしよう」とただ、ひたすらに泣き続けている。


「あのへっぽこ魔法師の女か」

 ジェスが小さく呟いて、眼を細める。それから振り返れば、背後から丁度、シモンが駆けてきていた。彼の体はソニアたちの体をすり抜け、一直線にレニーの肩をしっかりと掴んだ。


『レニー様!ご無事で!お怪我は?』

『シモン!シモン、シモン!』

 レニーは大泣きしながら、必死にシモンに抱き着いた。

『研究室に扉が急に現れて、そこから化け物が出てきて、みんなを、みんなを……!』

 レニーが怯えた様子で泣きじゃくる。

『どうしよう、化け物が、沢山……!』

『落ち着いて。……研究室の皆さまは……』

『……死んじゃった……。先生も私を助けようとして……』

『……』


 シモンはぐっと唇を噛んだ。それからレニーを抱き上げ立ち上がり、廊下を走り出す。廊下の奥から何匹かの合成獣が現れて、彼らを追っていく。それを目で辿っていたソニアの肩を、ジェスは叩いた。


「うまく逃げ切れたんだろう。この奥に本物の山賊どもが居るはずだ。行くぞ」

「う、うん……」

 去って行くシモンたちを目で追いながらも、後ろ髪が引かれる思いにになりながらも、ソニアは頷いて、ジェスの後についていく。

 やがて、立派な扉の前に辿り着いた。装飾は昔に生息していたといわれるドラゴンを象ったもの。全部で十匹。それぞれ違う宝石で作られた瞳が、ソニアたちの方を睨んでいた。

 扉は僅かに開いており、中が覗ける。

 死体は、やはり無かった。


 代わりに、扉があった。


「……これは……なに……?」

「……」

 ジェスの顔が僅かに濁ったのを、ソニアは気づかない。


 それよりも、目の前の珍妙な扉に視線が釘付けになってしまった。

 ほんのりと輝く扉は、壁には設置されていない。空間そのものに、扉がぽつりと浮かんでいる。裏を覗き込めば、扉の裏が見ることができる。

 そして、扉の裏のスペースに、肩を寄せ合うようにしてシモンとレニーが眠っていた。


「あ、いた」

 眠っている様子だった。額には脂汗が浮かんでおり、辛そうに表情を歪めている。それでも呼吸はしているし、生きていることにまず、ソニアは安堵した。

「よし」

 ジェスは肩を鳴らし、足を思い切り振りあげた。

「え、ちょっと!」

 ソニアが止める暇も無い。


 ジェスは、シモンを蹴りあげた。げふ、という鈍い声がしたかと思えば、周囲の景色が急激に揺らぎ始める。

「しっかりと足に地をつけていろ。ぶっ倒れるぞ」

「え、ええええ?」

 確かに、ぐらぐらと足元が消えていく感覚。それなのに、確かに立っている感覚。何もかもがごちゃ混ぜになっていく。

 分からない。分からない。

 消えていく幻術の暗闇の中、宙に浮いていた扉が微かに開き、そこから無数の魔物と合成獣が攻め入って来る光景が確かに見えた。そして、その扉の先には―――美しく咲誇る青い花々が―――。



「うきゃ!」

 落下。尻餅をついたソニアは、慌てて辺りを見渡す。

 そこは、先ほどまで居た暗闇の中だった。詰まる所、幻術の中ではなく、現実に戻って来たことを意味していた。


「“ルクス”」


 どこかから声が聞こえてきて、ほぼ同時に光が灯って辺りが照らし出された。ジェスの顔や、シモンとレニーの姿が浮かび上がり、取り敢えず一人ではないという事実にソニアはほっと安堵の息を吐いた。

「く……うう……」

 うめき声が聞こえた。見れば、レニーが体を起こしていた。

「レニーさん!大丈夫?」

 ソニアの問いかけに、レニーは頭を振りながら答えた。

「……ええ、一体何が起こったの……?」

「死者の幻術にかかっちゃったみたいだよ。あ、ああ、その……ゴメンナサイ」

「どうして急に謝るの?」

 レニーが不思議そうに首を傾げる。そうか、今しがた起こっていたことを、レニーは自分自身で目撃していないのか。そう理解して、ソニアは続ける。


「その、レニーさんの昔の記憶で作られた、幻術で見てしまって……」

「……記憶?私の昔の記憶を……?」

 異様な食いつき方だった。レニーはソニアの肩をがっしりと掴んで、眼を大きく見開いて尋ねてくる。

「ねえ、昔の私って、私たちってどんな人間だったの?何処に居て、どんな事をしていたのかしら?」

「……え、と、なに、を、言って……?」

 ソニアは目を白黒させた。レニーが言っている言葉は理解できる。けれど、これではまるで、彼女は、彼女たちは。


「……記憶がないのよ、私たち。二年前から、さっぱり」

「……」


 きゅっとジェスの眉間に皺が寄った。それを目ざとく気づいて、ソニアはジェスに詰め寄る。

「ジェス、もしかして、何か知っている?」

「……さあ」

 言いながら、ジェスはそっぽを向いた。

 怪しい。

「それよりも、あなたたち、私たちの昔を知っているんでしょう?お願い、教えて!ここに年間、私たちは記憶の手がかりを探したの。けれど全然、何も分からなくて……。過去がないって、とても不安なことね。地面がない感じ。自分が確立しない感覚があって、とても嫌なの」

 ソニアは自分に過去の記憶がなかったら。そんな事を想像して、単純に嫌だ、と感じた。昔から今まで、嫌なことは沢山あったけれど、それと同じくらい良い事もあったのだ。それらすべてが抜け落ちてしまうのは、大事な宝物を落とすのも同義だと思ったのだ。


 ソニアは答えようとして。

「無理に人から昔の記憶について、聞きださない方がいい」

 ジェスが言葉を挟んできた。


「お前たちの記憶は無くしたわけではなく、奪われているんだ。聞いたところで実感はわかず、結局元の山賊稼業に戻るだけだ。それよりも―――」

 そこまで言って懐から何かを取り出そうとしたジェスは、ふ、と動きを止めた。みるみるうちに眉間に皺が寄っていく。そうして、機嫌悪そうに、背後に向かって叫んだ。


「おい、いつまで隠れているつもりだ、爺!」

 言って、指を軽く動かせば、ソニアたちを照らしていた光の塊が、暗闇へと一直線に向かっていった。

 光の中、浮かび上がる姿があった。

 それに、思わずソニアは息を引きつらせた。

「―――これはこれは、やはりそこまで力が落ちていても、相変わらず感覚が鋭いようでして。さすがでございます」

 鹿の頭蓋を乗せた、執事服を着た骸骨。

 この表現こそふさわしい化け物が、闇の中から姿を現した。


「ば、化け物!」

 いつの間にか目覚めていた指紋が、慌てて武器を手にしようとして、「うおおお!」と、再び悲鳴を上げた。乳白色の人の形をした何かが、いつの間にかソニアたちを囲っていたからだ。

「ああ、それが死者だ」

「説明が軽い!」

 ジェスの言葉に思わずツッコミをソニアは入れる。

「随分と可愛らしいお弟子さんを連れておりますな」

「弟子じゃねえ。分かってんだろうが」

「失礼致しました」


 丁寧に骸骨執事がジェスに向かって頭を下げる。妙に恭しい。というか。

「知り合い?」

「何度かこの狭間の世界に来たことがある、と言っただろう。その都度、地上に戻っているからな。必然的に知り合いになるさ、この狭間の王の専属執事には」


「いらしていたのならば、教えてくだされば迎えに参りましたのに」

「来るな帰れ、一生俺の前に姿を現すな。お前に頼むと必ず仕事の依頼を寄越してくるだろう?」

「労働にはしっかりとした対価を要求する。それは至極当然のことですよ」

「あ、そうかよ」

 いらいらいら、とジェスが苛立っているのが分かる。

 歯にものを着せぬ物言い。骸骨執事は相当、捻くれているらしく、会話が中々進まない。


「まあ、どちらにせよ、後ろのお荷物を抱えていては、城まで辿り着くのは怪しかったのではないですか?」

「そりゃあ、一人、二人、欠ける事を前提にした強行突破だったが……気が変わった。依頼を受ける代わりに、地上まで連れていけ」

「おやまあ、相変わらず甘いお方ですね」

 くすくすと笑いながら、骸骨執事は頷いた。


「ええ、分かりました。ご案内いたしましょう、記憶を奪われた者たちも共に。我が、狭間の王の元へ」


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