表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霧の向こうの即位式!  作者: 麗華
4/23

3

 木々の緑が濃く色づいてきた頃、シュウが珍しく美羽を連れて出かけた。背中には、大きな荷物。


「いい加減、アンタのもの買わないと。いつまでもそんな服着てられないだろう?」


 美羽が身につけているのは、小さくなったシュウの服。作務衣のような黒や灰色の内衣に、立襟で左に打ち合わせのある裾の長い上衣。上衣の色は目の覚めるような鮮やかな色ばかり。今着ているものも、夏の空のような地色に、裾には金色の糸で花の刺繍が施されている見事なものだ。シュウには小さくなったといっても美羽の身体には合わず、内衣の袖裾は常にめくっており、上衣も裾を引きずる為裾をあげて縫いとめている状態だ。 


 これでは、この見事な服は泣いているだろう。


「買う……」


 当然、美羽にはこの世界のお金なんてない。それはシュウだって知っているのだから、支払いをしてくれるということだろう。でも、そこまで世話になっていいのだろうか。不安そうに、自分の、着ている服を引っ張る美羽にシュウが笑った。


「アンタにも仕事してもらって、その金で買う」


「仕事?」


「そう、売り子。これから時々やってもらうから、しっかり覚えてくれ」


 売り子。背中の荷物を売るのだろが、別の世界からきている自分がそんな事をして大丈夫なんだろうか。不安は山のようだったが、世話になっているのに嫌だとはいえない。美羽は黙ってシュウの後をついていった。



 太陽が真上に来くるころには周りの景色はすっかり変わっていた。

 道は獣道ではなく車が通れるほどの幅にかわり、道の両側には家が立ち並ぶ。すれ違う者達は同じような立襟で打ち合わせのある服を着ており、姿は美羽の知っているそれと変わらない。この人達は全員、獣の姿に変わるのだろうか。


「おい、少し急ぐぞ。帰りに良く見ていけ」


 明らかに遅くなった美羽に、シュウが呆れる。




「シュウ!なんだ、久しぶりに来たかと思えば女連れか?なんだ、その子は?」


「元締め、お久しぶりです。コイツは、まぁ、拾ったんです。今度から仕事手伝わせようと思って」


「拾った?」


「ええ、拾ったんです」


 ニッコリと笑い、拾った、と繰り返すシュウ。

 確かにそうなのだが、と複雑な想いは飲み込んだ。シュウの背中に隠れるようしながら頭を下げた美羽を、ジロジロと眺める元締め。


「元締め、そんなジロジロと……」


 シュウが困った顔で抗議してくれたが、居心地の悪い視線はなかなか外してもらえなかった。


「元締め、場所変えてほしいってヤツが来てますけど、どうします?」


 ドアの向こうから聞こえる声に、今行く、と返事を返した。


「日が沈むまでなら、いつもの場所使え。あと、妹って事にしておけよ」


 ぼそり、と呟いてドアの向こうに戻って行った。


「妹、だってさ」


「お兄ちゃん、って呼んだらいいですかね?」


「シュウでいい。でも、妹なんだから敬語はいらねぇ」


 


「さて、この辺りだな」


 市場の入り口付近。人の出入りも多いこの場所をもらえたのは、シュウが何年も前から市場で商売をしているからだ。テキパキと敷物を広げて、一つ一つアクセサリーを並べていく。周りには、食べ物や食器、服に雑貨など様々な店が並んでいる。


「お祭りみたい」


 どんなものが売っているのか、若い女性が並んでいるのは何の店なのか、気になって仕方がない。この世界にきて、初めての感覚だ。


「これが売れたら、後で見にいくから。おとなしく働け」


 呆れたようにシュウが呟く。慌てた美羽は、アクセサリーを一つ一つ並べていった。悪いとは思いながら、シュウが並べている物も、人目を引きやすいように並べなおす。


「うまいもんだなぁ」


「フリーマーケットで、鍛えたんです」


 美羽の母もアクセサリーを作るのが好きで、よく二人で作ってはフリーマーケットに出店した。仕事と家事で忙しかった母。一緒にアクセサリーを作る時間、フリーマーケットで一緒に働く時間は、美羽にとって本当に楽しい時間だった。それが、まさかこんな世界で役に立つなんて。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ