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なんだかんだ言って、過保護な保護者様な王子。きっと今回も、無理なくやれる仕事を用意してくれるでしょう。雛鳥マリーは、親鳥王子が与えてくれるお仕事を食べればいいだけ。
異世界生活なんていう、ウルトラハードモードに陥った割には、その後、イージーモードに突入したなぁ。やっぱり、持つべきものは最高権力者の子供だね。
しかし王子といえば、以前、何かの流れで、お兄様、と呼んでみたことあるんだが……、あれは怖かった。
無表情、訳のわからない妙な迫力、かつ無言でずんずんと迫ってきたからね。後ずさる私を追い詰め、壁ドン状態で「何て言った?」と、普段より数段低い声で聞かれたからね。
あの据わりきった眼に、ぶつかりそうな鼻に、噛み付きそうな口。土下座せんばかりの勢いで訂正したのは記憶に新しい。いや、動く余地なかったから、気分だけ土下座だけど。
騎士は、きちんと乗ってくれたのに、変なところで頭の固い王子だよねぇ。いや、神官をパパって言った時も、ビシリときっかり五秒、固まられたので、騎士がとても柔軟な心を持っているだけなのかもしれないが。
そんな訳で、今後の生活もほぼ保証された私は、気楽な馬車旅を楽しんだ。三人のお兄ちゃんに抱っこされるのに飽きた時は、馬に乗ったりしつつ。
お城に戻って、色々御報告。とはいえ、私に危険がないように、と、三人の過保護者が、その全てに私がいなくてもいいようにしてくれたので、私がやったのって、王様にちょいと戻ったよ報告しただけだったんだけど。
普通、救世主様なんてものは、国民の前に出たりして、にっこにっこ、ひたすら天皇のように手を振らないとならないかと思ってたんだけど、いいらしい。
皆が頑張って、祝賀会だの、報告会だのやってる間、私はひとりこっそり、王子が用意してくれたお部屋でだらだら。お風呂にも入れる天国仕様。
途中、おかんと化した神官がご馳走持ってきてくれたり、生乾きの髪に慄いて頭わっしゃわっしゃ手入れされたり、お兄ちゃん騎士が退屈して歌いたいなら、と、防音部屋を貸切で使えるようにしてくれたり、どう見ても隠れられない王子が、一瞬立ち寄って、花だのお菓子だのを差し入れてくれたり。この世界にも、甘味ってあったのね。んまんま。
すっかり自堕落生活を送っていた私。
暫くして、何とか怒涛の凱旋報告が終わったらしく、私にお仕事のお誘いが来た。
一つ目、お城で働く。王子が「俺んところに来い」と言っていたことからして、王子の侍女とか使用人かしら? 掃除洗濯とか? と聞いてみたけど、そんなことはさせない、とのこと。
曰く、王子のお話相手になりつつ、この世界についてや礼儀なんかも教えてもらえるという、お姫様待遇。もう、これでいいんじゃね? とか思った私。
しかも、私がずっと引き篭もってたお部屋をそのまま使えるらしい。風呂付の部屋。大きな浴槽でゆったり入りたければ、近々拡張されるというお風呂にも入れる。
どころか、王族のみが使うお風呂に入れる、という、とんでも待遇まで飛び出てきた。ま、実際に入ったら、お仕事仲間から顰蹙じゃすまないだろうから、入るのは無理だろうけどねぇ。
もう、その場で頷きかかっていた私に提示された二つ目の案。それは、無口騎士の家で働くこと。騎士の家にも、お風呂はある、と。「王城みたいに立派ではないが、苦労させたりはしないから、良かったら来い」とのお話。
うん、確かに、王城だと緊張するよね。しかも多分、あのお部屋、使用人の住む部屋じゃないもん。大部屋とか、私には無理だけど、一人だけ立派な部屋から出勤してくるのもねぇ。何か、虐めや陰口の対象だよね、うん。
その点、騎士の家なら安心。何せ、騎士の祖父は、以前私を気に入って、孫になって、と言ってくれたおじいちゃんだった。そして、お兄ちゃんな騎士は、直系跡取りだそうで。今いる使用人さんの話を聞いても、優しい人達みたいだし、それぞれ小さくても個室らしいし。
正直、生活水準は、どちらでも構わない気がするけど、ストレスはきっと騎士の方が確実に少ない。だって、王子に不敬を働いた、とか、洒落にならないもんね。旅の時のように、気軽に話したりはできなくなる。
一般庶民の中では身分制度が形骸化している日本人としては、お偉いさん来るたびに、ぺこぺこ頭下げて、何か嫌味言われても耐え、時にはセクハラされても我慢とか、無理。
大きな浴室は勿論魅力だけど、それよりアットホームな騎士の方がいいかもしれない。やりたいことあるなら、やれるように手配するという、これまたお姫様待遇を提案されてるし。
ここは騎士のお家で決まりかと思った私だったが、真打は後からやってきた。
「私の家には、地面から湧き出るお湯があります。そのお湯を使って、いつでもお風呂に入れるようになっているのですよ。勿論、通常の水を沸かして入る風呂もありますが」
神官の、いえ、神官様のおうちには、温泉があると! しかも、人が入ると乳白色になるという神秘の湯らしい。ということは、湯の花ありの可能性大!?
うーぉー!!!
心の中で、乙女にあるまじき雄たけびをあげ、拳をぐっと握る。
神官様の使用人になれば、温泉が手に入る! 私のボルテージは一気にMAXまで上がった。
一応、お仕事内容を聞いてみたけど、神官様の送り迎えとか、お客様のお出迎えとか、時々一緒に神殿へ行って、神様に現状報告とか、そんな感じらしい。つまり、秘書か! 私、珠算段位持ちなので、暗算検算任しとけ!
しかも、やりたいことあるならやっていいよって。皆、私に甘すぎ。試しに、食の改革を、とか言ってみたけど、シェフに何でも言いつけて、好きなように試していいって。何なら、欲しい食材がどこかにないか、神様に聞いて、手に入れるようにしてくれる、とまで。
うーわぁー。何これ。何で皆、こんな甘々職場なの。大丈夫? 働こうとしたら、もれなく心配性な主人が、何もさせずにむしろ甘やかしてくる未来がちょっと見えた気がしたんだけど。
いや、そこは私が働く、という意思を持って頑張れば、給料泥棒にはならないはず! 頑張れ、私!
さて、シンキングタイム。
将来の行儀見習いまで完璧な、王子の侍女。アットホームで和気藹々な、騎士の侍女。温泉あり、神様とお話出来る神官の侍女。全て、主人が私にべた甘というオプション付。何かやりたいことあったら、やってもいいよ、という、自由時間付。
なんというか。正直、どれでもいいと思う。全く見知らぬ他人のところで働くのなら、色々気にするけど、どこで働いても、この三人がいるんだもん。
まぁ、王子は立場上、ちょっと疎遠になっちゃうかもだけど。でもまぁ、私、神の選んだ神子だから、下手に生贄とか、虐待とかしたら、神様怒って国滅亡らしいし、王子のお相手しても、誰も文句言えないもんらしい。むしろ、私の自由意志って、結構重要視されるから、私が(密かにお兄ちゃんと)慕う王子と話して、国に不満を持たないでいてくれるなら、そっちの方がいいらしい。
何か私、もう必要ないけど、取り扱い注意な核燃料的扱いになってない? という思いはちらりと浮かんだけど、知ーらない。
どうせなら、楽しんで生きていきたいもん。出来れば、家族には、元気だよーって言いたいけどね。夢枕にでも立てないか、今度神様に聞いてもらおうっと。
おっと、話がどっかいった。
ひとまず、整理してみよう。就職先は三つ。王子のとこか、騎士のとこか、神官のとこ。
どこに行っても、風呂はあり、結構自由も利く感じ。
王子のとこのメリットは、三人とも王城によく来るから、皆と一番会いやすいところ。デメリットは、身分差を一番考えなければならなくなること。
騎士のとこのメリットは、一番和気藹々と仕事できそうなところ。デメリットは、二人には殆ど会わなさそうなこと。
神官のとこのメリットは、温泉! と、神様直通便。デメリットは、敬虔な信者が多いので、崇められそうなこと。
うーん、どうしよう。でも、やっぱり王城で働くのは少し敷居が高いかな。
今は、特別待遇であんな部屋使ってていいって言うけど、多分それ、王子のごり押しでしょ。となると、今はまぁ、ぎりぎりセーフでも、王子妃出来ちゃったら微妙。私だったら、旅の仲間だった女の子を、夫が贔屓して特別待遇で働かせてるとか、胸がもやもやしそう。
王子は、自分に奥さん出来たからと言って、手のひら返して追い出したりはしないだろうけど、奥さんに敵意もたれたら、私の人生、結構暗い。うん、王子は諦めよう。どうにか説得して、お城へちょろっと入れる権利をもぎ取って、会いに来れるようにさせてもらおうっと。城に入れれば、王子は私を邪険にはしないはず、きっと。
さて、騎士と神官、どっちがいいか。気楽なのはきっと、騎士。おじいちゃんが一族で一番発言権あるらしいから、それに気に入られてる私は、多分のびのびお仕事できる。ビバ虎の威。
それに比べ、神官のところは、神の選んだ特別な神子というレッテルが貼られて見られるわけだ。でもまぁ、そのイメージを維持しようとしなければ、きっと勝手に崩れてくれるかなぁ。既にもう一人、唯一、神と話せる神子という神官もいるんだし、きっと何とかなる。
そうなるとやっぱり、温泉は捨てがたい。温泉、温泉、おんせん。
そうよ、神子は一日一回、温泉で禊をしなければってことにして、毎日温泉。この世界にコーヒーはあるので、風呂上りに冷たいコーヒー牛乳、ぐびっ!
あぁ、麗しの桃源郷は、神官のうちにある! となれば、行くしかない!!




