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世界で一番  作者: 北西みなみ
愛されし神子
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例え自分が一緒に落ちても突き飛ばす、死なば諸共、の覚悟はあったのだが、ふと、必死に私に与えられる温もりに気付いて、やる気がそがれてしまった。まぁ、川の水で冷えてて、暴れるだけの力が残ってなかったのだろう。私には、武士の魂は受け継がれていないらしい。


そんな事があった翌日、街についた私は、大量の肌触りのいい布を手渡された。これで足りますか? という、心配そうなお言葉と共に。……せんせー! 恥ずか死対策による殺人は、正当防衛に入りますか? 入りますよね!?


しかも、今まで休みなんてなかったのに、この街では二日も休むことになるし、他の二人も一切反対しないどころか理由すら聞かないし。え、何これ。皆知ってるってこと? 男三人、全員が私の状態について把握しているってことですかー!?


完全に拗ねた私は、一日中部屋に引き篭もった。そりゃもー、ご飯も部屋の前に置いてもらって、置いた人間が去ってから部屋に入れて食べ、それをまた部屋の外に出しておくという、完全駄目ニートの引き篭もりっぷり。


そうして引き篭もり、十分惰眠を貪ったことで、頭に浮かんできたのは、今まであまり考えずにすんでいた、己の現状。


私は、救世主として呼ばれたわけだけど、私にとっては誘拐された被害者だ。被害者が、犯罪者に協力する義理がないのなんて、当たり前。ましてや、私は、帰してもらえないってのに、何でこんな世界を救わなきゃならないの、と思うのはごく当然のこと。


でも、現実問題、帰れないならここで生きていくしかないわけで。帰れないことに絶望して自殺するのでもなけりゃ、ここを住みやすくするしかないわけで。世界を救うためにここに来た私は、それが出来ることになっていると言われているけれど。


そんな力、どこにあるんだ。


武器なんて使えない、たとえ使えたとしたって自分に敵意向けてくるものに対峙するなんて身が竦む。神の加護はつきまくってるらしいので、魔法は使えるらしいけど、霊感ない私は、その源の魔力を感じられない。なので、まだ魔法習うとこまでいってない状態。きっと、現地の人たちの方が、私より上手に使えると思う。


よくある、いるだけで魔を滅する聖女様の力、みたいなものもあるようには思えない。獣は普通に私にも襲い掛かってくる。結界だって張れたりなんかしないし、怪我を治すことも出来ない。手当てだって、地球では保健の授業で習った程度。しかも、消毒薬も持ってないし、AEDもない。火傷になったらひたすら冷やせ、程度しか実践できる知識はない気がする。いや、水道ないから、これも無理か。


他を頑張ろうにも、ライターもチャッカマンもないのに、火なんて熾せないし、どのタイミングで薪を足すのかも分からない。お肉やお魚だって、お店でさばき済みのを買ってる私は、兎を渡されたところで、何も出来ない。育てられたお野菜を食べてる私に、その辺の野草が食べられるかどうかなんて、判断も出来ない。旅に関する知識なんて、旅をしたことない私が披露できるものなんてない。


精々、枯れ枝を拾うくらいだけど、それだって、一人でうろつくのは危ないから、誰かと一緒。しかも、殆ど相手が持ってくれる。体力ない私が重いもの持って、へばった方が迷惑になるってことくらい分かるので、ありがたく持ってもらうけど。


せめて、私が心の清涼剤にでもなれればいいけど、そんな癒しを与えられるような可愛い性格していない。疲れれば顔に出るし、いやなことあったら口に出すし、いつでもにっこり笑ってなんていられない。挙句、神官にとんでもない八つ当たりしたし。


皆に物凄い期待をされていることは、なんだかんだで私の我が侭に付き合う三人や、行く先々での歓迎具合から分かる。けど、私のどの部分に、その期待がかかっているのか分からない。だって、私のおかげで助かったって話は何も聞かないもの。皆、私が来たからには大丈夫になるだろう、という期待だけ。


ねぇ、だけど、皆の期待は、私が持ってるものに対してなの?


この世界は、実際に話が出来るのは極少数とはいえ、神が実在する。だから、神に選ばれた私に疑問を持つ者はいないんだろう。けど、私はこの世界の人間じゃない。知らん世界の知らない神様に保証されたところで、私には特別な力が! なんて納得できるわけがない。


だって、私普通の人間だもん。クラスメイトと何が違うって聞かれたって、答えられないよ。


たとえ、何か力があったとしても、それを使えなきゃ意味がない。特殊な力を感じることすら出来ない私が、それを使えるとは思えない。


せめて、この世界を好きになれないほど、私の扱いがぞんざいならいいのに、皆、私のことを考えてくれるのが分かる。分かってしまう。神官は、色々ずれてるけど、私を神に準ずる力を持っているかのように敬うし、王子だって、言い方は捻くれてるけど、いつだって私を中心に物事を決める。無口な騎士が喋るのは、その殆どが私のための発言。そこまでされてる私が、力がないって知ったら、皆どうするんだろう?


考えれば考えるほど、暗くなる思考に、目の前の景色が歪む。駄目だ、こんな考え、建設的じゃない!


目元をごしごしこすった私は、皆が寝ているような夜にこっそり宿を抜け出した。別に、使命を放棄しようとしたわけじゃない。ただ、思いっきり大声出しても誰にも聞かれない場所まで行きたかっただけ。


きょろきょろと辺りを見回し、少し開けた場所へ。ここなら、少しくらいの騒音は、聞こえないはず。私は、思い切り息を吸って、歌いだした。


暫くノリのいい曲を歌っていたら、後ろの方からなんか、ごふっと喉に何か詰まるような音が。


慌てて振り向くと、そこには無口な騎士の姿が。


「……」

「………」


えっと、ここは私が抜け出したことを謝る場面なんだろうか。それとも、ごほごほやってたのを大丈夫か気づかう場面なんだろうか?


思わず固まっていると、ようやく息を整えた騎士が、私の目の前にやってくる。無言でこちらを見るその眼は、怒っているというより何かに揺らいでいるようだ。


「えーっと、どうしたの?」


言いつつ、心の中で自分に、裏手突っ込み。どうしたもないだろ。姿消した私を探してたに決まってるんだろうし。でも、最初に見つかったのがお小言少ない騎士でラッキーかしら、とか思っていたら、思いがけない言葉が。


「まだ、歌うか?」


見られているのを分かってて、歌えと? 私、見られてるとは思ってもなかったから、結構変な歌を歌ってたんだけど。仲良い友達とわいわいカラオケってのならともかく、聞かれたの逃げたいくらい恥ずかしいんだけど。


私は、俯いてそちらを見ずに、ぷるぷると首を振る。


「いい」


「そうか」


騎士はそれだけ言って、こちらに歩を進めた。そのまま伸びてきた手は、思わず身を竦めた私の頭を軽く撫で、そのまま止まった。


「……」


「………」


二人でちょこんと隣り合わせて座り込んだまま、何も会話がない状態が続く。やがて話し出したのは私だった。


「早く戻れって言わないの? 探してるんじゃないの、皆」


沈黙に耐えられず、自ら首を差し出す私。実は私、マゾだったのか。


「……いや。私は偶然、マリーが抜け出すのを見ただけだから、二人は気付いてないと思うぞ」


「え?」


何と、最初からいたのか。一応、見つからないように周りを見ながら歩いていたはずなのに、全然気付けなかった。


自分の察知能力の低さに打ちひしがれていると、騎士がぽんぽんっと、頭を叩く。


「大丈夫か?」


心配そうな瞳がこちらを覗き込んでいる。決して私を責めたりしていないその瞳に、私の中の意地が白旗を揚げた。


「ふっ、うっ……」


突然泣き出した私を、慌てもせずに抱き寄せた騎士は、そのままずっと、私の背中を撫でてくれた。



「……私、いる意味あるのかなぁ?」


「ある」


「何にもしてない、お荷物なのに?」


「少なくとも、フランツ様はマリーがいないと、半分も力を使えない。アロイス様も俺も、疲れもせず、怪我もせずに来れたのは、マリーが力を与えてくれたからだ」


明らかな慰め。そんな思い込みで発揮されるような力は、態々異世界から呼んでこなくたって、そこら辺の可愛い子をつけるだけでよかったと思う。それこそ、マリエちゃんとか。


「そうでなかったとしても、俺はマリーがいてくれて、助かってる」


「何で?」


「あのお二方が揃っている状態で、これだけ問題が起こらないのは珍しい」


言っている意味が分からず、思わず首を傾げる。


何でも、二人が揃うと、王子は神官を振り回し、神官はそれに抵抗するため、周りは二人の起こすトラブルに巻き込まれる羽目になるらしい。だけど、今回は私という、一番に考えなければならない存在がいるため、騒動を起こしている暇がない、ということのようだ。


私は、この旅におけるお荷物だ。だけど、私のお荷物具合が、この旅には必要だったというんだろうか。


正直、嬉しくない。私が超のつくほど問題児だから、並の問題児である二人の問題行動が抑えられるって言われてるんだよね、これ。


でも、騎士の表情が優しかったから。私がいて、本当に助かってるといってくるから。いる意味はあるのかもしれないって思えた。少なくとも、私が選ばれちゃった今、ここでいなくなったら困ったことになるってことは分かった。


なら、このままいてもいいのかな。救世主とはいえないささやか過ぎる役目だけど、それでも、私がここにいる意味はあるのかな。


そんな風に、騎士の顔を見つめると、騎士はひとつ頷いてくれた。私の考えを肯定するような行動に、ほっと肩の力が抜ける。


「なーんか、ケイリーさんって、お兄ちゃんみたい」


ごろごろと甘えてみると、やわらかい笑顔が降ってくる。


「お兄ちゃ~ん」


「何だ? 妹よ」


試しに呼ぶと、ノリのいい返答が返ってくる。二人で顔を見合わせて、どちらからともなく笑い合った。

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