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世界で一番  作者: 北西みなみ
愛されし神子
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3

え? 話が長い? ごめんなさいね、上手く纏められなくて。これからは巻きでいくわ。出来る限り。


えっと、とりあえず最悪な世界とのご対面を果たした私は、結局王様のところに出向いたり、そこで気のいいおじいちゃんと仲良くなって、孫にならないかとスカウトされたり、面倒なごたごたが終わったら孫になるのも考えるってお返事したりしながら、なんやかんやで結局、世界を救う旅に出たの。ま、元から本当に断れるとは思ってなかったからね。


で、旅のお供は、さっき登場した二人に、これまた美形で無口な騎士、そして心の清涼剤である侍女のマリエちゃんの四名。


あぁ、せめて一人でも女の子がいると違うわー、と思ったのもつかの間、次の街でお別れしやんの。


「私は、救世主様が旅に慣れるまでの付き添いでしたから」


いやいや何言ってんの? 慣れてないよ、全く慣れてないよ、私!


「一時とはいえ、本来ならば皆様に同行など、とても恐れ多い真似をさせていただき、真に光栄にございました」


いやいや、身分なんてない私がいるんだ、中流貴族の貴方はいる権利、ばっちりだよ!


「私は、遠くから皆様のご多幸をお祈り申し上げております」


いやぁー! やめて、いかないでぇー!!!


私の訴え空しく、離れていく癒し。マリエとマリー、名前が似てるね、と言ったら、嬉しそうに微笑んでくれた私の天使。


天使は去った。涙目の私を、見た目詐欺な男達の中に残して。


そして、本格的な旅が始まった。馬で。


今までは、馬車だったんだよ。多分、貴族な婦女子に乗馬なんてさせられないって話だったんじゃないかって思ってる。


だけど、それじゃ埒が明かないから、馬に切り替えたんだ、きっと。貴族な女子にはさせられなくても、身分なしの私だったら遠慮要らないもんね!


だけど、だけどね。


私、馬車の時点でもう、いっぱいいっぱいだったの。日本の馬車に乗った経験はないけど、数少ない馬車はきっと、こんなに揺れない。まず、道路が死ぬほどでこぼこじゃないし、ダンパーで振動も抑えてるし。あと、こっちの馬車は、そもそも車輪が正円じゃないんじゃなかろうかって気もする。軸、曲がってない?


馬車が、電車の揺れを少し強くしたようなものかな、とか考えてる貴方、それは大きな間違い。


振動で、体が飛ぶ。曲がり角で壁に激突する。座っているだけなのに、筋肉痛になり、怪我もする。途中からマリエちゃんにしがみついていた私は、その時点で旅とは身体を酷使するものだと実感していたの。だけど、上には上があった。こんな疲労、馬に比べりゃましだったのね。


馬は、地球では、乗馬クラブで少しだけ乗ったことがある程度で、走るなんて殆どしなかった。あれは、引退したおとなしいサラブレッド達が、全く技術のない人間相手にサービスしてくれるお遊びだ。


早駆けなんて出来ない私は、適当に毎回誰かに相乗りさせてもらってたわけだけど、うん。お尻、痛い。二人乗りだと、鞍を付けないから、馬の振動が直でくるからね。それに足も痛い。ついでに頭も肩も全部痛い。


馬をね、走らせているとね、ぶつかるのよ。敵から身を守るためにかったーく作られた防具と。しかも、私があまりにひ弱だったせいで、落ちないように皆様、がっしりと己の胸板に押さえ込んでくれているせいで、体勢は無理があるし、掴まれている部分は痣になるんじゃないかってくらい痛いし。


たかだか馬に乗るだけで、この有様な私に、同行者達は呆れを隠さず。乗せてもらったお礼を言っても、顔を背けて不自然に無視されたり、私が乗れなきゃ進まないから仕方がないと溜息をつかれたり、せめて自分できちんと掴まれよと、体勢にけちをつけられたりする有様。


特に王子。俺様何様王子様の態度で、えらそうに馬鹿にしてきて、むかつくったらありゃしない。


しかも、文句が王子に同乗させてもらってる時だけじゃないってのがまた。乗せてくれてる本人が「それでいい」って言ってるのに、やれ「力入れすぎで行動が阻害される」だ、やれ「そんな体勢で長時間など正気の沙汰ではない」だの。あんたん時も同じことしてますが、何か?


ぎゅっとしがみつかないと落ちるから、力の限り掴まれって言ったの、誰よ。反対に私が潰れそうなほど自分に押し付けてくるのは、誰よ。


大体、馬の乗り方がなってないなんて、仕方がないよね。だって私、文化系だもん。保体の成績は、保健の筆記と、真面目に頑張る態度で勝負の人間だもの。乗馬クラブなんて、何故か学校で行くのが大流行して、行かなきゃ人生損してる、的なムードが漂ってたから流されただけだもん。


それだって、まだ遮二無二運動、という感じはしなかったからやっただけで、流行ったのがテニスとか、クロケットみたいに、いかにも身体使いますって系統だったら、断固不参加を貫くくらいには運動嫌いな人間ですよ。


おっと、また話がどこかへそれた。ともかく、そんな状態の私は、馬で移動するだけで疲労困憊。なのに、その日の分の移動がすんだら、そこから修行タイム。


いや、意味は分かるよ。お気楽極楽平和ボケの日本人たる私が、このまま進むのはまずいって。私だって、死ぬのは嫌だし、そのための努力は惜しむつもりはない。ないんだけど。


何で旅と並行なの? 普通、付け焼刃でもいいから、最低限出来るまでは、お城かどこかで、移動せずに修行だけを専念できるようにするもんじゃないの? 身につく前に死ぬよ、私?


既にぼろぼろな身体を更に酷使し、剣とか教わる。だけど、知ってる? 真剣って重い。


そりゃそうよね。生きて動いているものを殺すためのものだもの。剣の重さによる勢いで叩き切らないといけないんだから、そりゃあ羽のように軽い剣なんて、役に立つはずがない。


だがしかし、もう一度言いたい。いや、何度でも言いたい。私は平和な国で育った日本人。しかも、文化系。完全インドア派の文化系。


箸より重いもの持ったことありませんの、と言うつもりはないが、剣みたいな重いもん、振り回すどころか、持ち上げるだけでもう限界。プルプルと震える私が出来る攻撃は、恐らく自分に向かって落とす、自爆攻撃だけだ。


その惨劇は、私より、常に剣と共に生きている皆様の方が容易に想像できたらしく。何か、武器の試行錯誤が始まった。普通、旅に出る前に……という、極々真っ当な意見は飲み込んだ。大人になったな、私。


まず、爪とかそういった、相手の懐にまで近づく必要のあるものは無理。そんなことしてたら、攻撃とか防御とかする前にお陀仏間違いなしだ、と満場一致の意見の統一をみた。


じゃあ、いっそ遠距離にすればいいじゃない、と、弓とかどうだろうという案も出た。勿論、私の非力さを考慮し、自力でキリキリ引くようなのではなく、矢をセットして、バシュってやるやつ。ボウガン?


だけど、考えてもみてほしい。ここはゲームじゃない。周りの敵をマップ上に見ることも出来なければ、照準を十字であわせることも出来ず、照準を合わせて撃てば、その後勝手に矢が敵を追いかけるようなことはない。一回撃つとアイテム欄の矢の本数が一本減って、連続で撃ち続けられるということもない。矢を物凄い速さで飛ばすんだから、当然反動だって体に掛かる。非力な私じゃ肩抜けるかもしれない。


これを使おうとしても、もったもったと矢をセットして、構えようとしている間に、敵にたどり着かれる。敵が来る前からセットしておけば、一発は素早く撃てるかもしれないけど、何か怖い。馬の振動で誤発射しそう。矢鴨ならぬ矢マリー。笑えない。


そもそも、そんな重い荷物、ずっと腕につけてられないし。荷物なくても筋肉痛なんだから。


そして、これが一番の問題。当たり前なんだけど、フレンドリーファイアがない。せわしなく動き回る敵と味方が入り乱れる中、どう敵に当てろと? そもそも私、動いていない的にすら当てられるか怪しいんだけど、それを申告すると、神官の眉間の皺が、名刺はさめるレベルになりそうなので、お口にチャック。


この問題があるせいで、石投げとか、吹き矢とか、そういった遠距離攻撃系が全滅した。


では、ある程度リーチの長く、比較的軽いもの。鞭なんてどうか、という案が出て、これは実際に試してみた。え? どうだったって? そのにやにや顔が想像している通りですよ。えぇ、無理。


だって、下手に動かしたら自分に当たる。ついでに、全力で振り回すのは無理。鞭全体がどこかに飛んでいくから。手からスポーンと抜け出してね。


それでも精一杯頑張って、前の方向に一回、ピシリとやれた時には、私の体力が尽きていた。そのあまりの酷さには、いつも饒舌な俺様王子がひくりと顔を引きつらせて押し黙ったほど。


数々の武器を挙げては却下を繰り返し、最終的には、私の立ち位置は、状況次第で盾の後ろでぶるぶる震えるか、馬の上で落ちないようにしがみ付く、というものになった。馬は元々、戦いになると簡単な結界で守っているため、結界を増やさなくていいからね。


うん、とても懸命な判断。三人の邪魔にならないようにしつつ、万一結界を突破されても馬の自衛行動に助けられ、いざという時は一人逃げられる。と言っても、三人がやられて暴れる馬が全力疾走すりゃ、私はあっさり落馬して、助からないだろうけどね。


三人に私の運命を託す、と言ったら、皆に物凄く嫌な顔された。殆ど喋らない無口騎士にさえ珍しく「託される気などない」と自発的な発言をいただいた。嬉しくない。


皆にお前の命など助けてやらんと宣言されちゃった私は、とにかく馬術を訓練することに。


同行のお馬さんは、日々の移動で疲れているから、街なんかに泊まる時は、別の子を借りる。勿論、お馬さんと仲良くなるために、ブラッシングとか飼い葉とか、そういったことは積極的にやって、甘噛みしてもらえるくらいには仲良くなってるけどね。日々の信頼関係構築は重要ですから。あぁ、好意を返してくれる相手って素晴らしい! 君だけが頼りだよ、相棒。


とか、馬鹿なことやってたら、馬で遊ぶなと、べりっと引き剥がされた。ぐぇっ。中身出る、中身! 私の扱い、馬以下か。救世主違うんかい、おい。

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