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世界で一番  作者: 北西みなみ
愛されし神子
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2

訳の分からない召喚、投獄から三日後。ひっくり返っていた神官が眼を覚まし、二日かけて何とか体調を整え、さぁ神の言葉を聴きつつ、救世主にご挨拶を、と思ったらしい。そこで問題発覚。


あぁそうそう、その前に言い忘れてたけど、この世界って、神の言葉聞けるの、一人だけらしいの。正確に言うと、一人の神に一人。


一国に一人の神が守護していて、その神の言葉を聞けるのは、神の気に入った人間ただ一人。


だから、その神官以外は、神の言葉聞けないし、見えないんだって。そんな貴重な神官が、まだまだ体力戻っていないにも拘らず、必死に向かった神殿で見たものは、完全に拗ねた神様の姿。


曰く、折角人間の願いに応えて、国を救う存在を見つけてあげたってのに、人間達はそれを、まるでゴミの様に扱っている。必死に頑張ったってのに、感謝どころか私の選んだ大事な子を蔑ろにするなんて、もう知らない! と。


神官は、よもや国の最後の希望として召喚された私が牢屋で、色々な意味で死に掛かってるなんて思ってもいなかったので、何を言われているのか分からず、大パニック。


どこかへ消え去ろうとする神に必死に縋って、何とか私の現状を聞き出し、驚く暇もなく大慌てで私の待遇改善を約束。私からの許しを得ない限り、もう加護なんて一切しないとそっぽを向く神の元を離れ、くらりとする頭を抑えて、私の解放と世話を訴え出たらしい。


神様さぁ。そんな状態で拗ねる前に、あんたに誘拐された挙句、酷い目あわされた私を何とかしてよ。。。地球に返してくれるとか、おうちに帰らせてくれるとか……。せめて、牢屋から出してくれるとか。この国の人も酷いけど、神様も大概酷いと思うの、私。


とにかくそんな感じで、この国は私から許しを得ないと、神のご加護が消える大ピンチになっているらしい。それで、あの行列になったわけか、と納得した私は、しかし許す気なんて起きる訳もなく。


だってつまり、これ、私が本当に偽者だった場合、巻き込まれ被害者なのにも関わらず、死ぬまでずっと牢屋だった可能性が高いってことよね。しかも、あの環境だったら、栄養失調で死ぬか、弱った挙句の病気で死ぬか、発狂して自殺するか、いずれにしろ長くもなければ碌でもない人生を送る羽目になっていたはず。


それを、私がいなきゃ国が大変だから、なんて理由で謝られて、一体どうして許す気になれると?


まぁ、目の前で平身低頭している兄ちゃんには、同情の余地がないでもないんだけど。本人からしてみれば、頑張って召喚して、倒れている内にとんでもないことになっていた訳だからね。兄ちゃん自身は、私を敬い、不自由ないようにお世話する気満々だったみたいだし。


でも、考えてみたら、この兄ちゃんがこの国の自分勝手な祈りを神に届けなきゃ、私はこんな所連れてこられることも、人間扱いされずに惨めな思いをすることもなかった訳で。


うん、やっぱり許す必要性が感じられない。


「お話は分かりました。それで、私は、その神様とお話したいんですけど、出来ますか?」


「申し訳ございません。神との対話には、己の『個』を守る必要があり、その力がない場合、威光に押され、自我が消失いたします」


つまり、強すぎる光を浴びたら燃え尽きちゃうよってことかな?


「なら、神様に言ってください。私を家に帰して、と」


償いを、なんて言われても、本当に私に悪いと思ってもいない相手からされたところで、溜飲が下がるわけがない。それなら、さっさと帰るのが私にとって一番に決まってる。そう言った私に、兄ちゃんは更に頭を低くしながらも、きっぱりと断った。


「どうかそれだけはご容赦を。我が国は今、未曾有の危機に瀕しているのです」


それがどうした、である。この国が滅びようが何しようが、私はおうちに帰れば、人心地ついて生きられる。嫌な思いしてまで、何でこの国のことを考えなきゃらないんだ。


「その点に関しまして、王が謝罪をさせていただきたいと申しております。お越しください」


「お断りします」


即座にきっぱりお断りする。だって、冗談じゃない。


「な、何故かお伺いしてもよろしいですか?」


私はうろたえる兄ちゃんに、ふんっと息を吐き、一語一語言い聞かせるように話した。


「私は、自分の世界にいれば、王に頭など下げる必要のない地位にいます。それをこんな所に拉致して虐待した挙句、謝るのでさえ、相手に出向かせようとする傲慢な輩に、何故、私が合わせてやらねばならないのですか?」


嘘は言ってない。だって、日本は王国じゃないんだから、存在しない王に頭下げるなんてことない。天皇はいらっしゃるけど、もし会ったとしたって、別に平伏しないといけないなんてことないし。


私の言葉に、兄ちゃんは押し黙った。そのまま、微妙な沈黙が場を支配するかと思われたその時、部屋にこれまた顔面偏差値高い、ついでにずいぶんとご身分も高そうな兄ちゃんがバーンと扉を開けてご登場。


ノックなしかい、と突っ込みたい私だが、じっと我慢。さっきは怒りもあってつい、喧嘩上等な態度を取ってみたけど、基本的には、和を以って貴しとなす日本人。空気も読むし、相手の出方をきちんと見てから反論したいお年頃。


「なかなかに愉快な人物のようだな、アインハルト」


聞いてたんかい、という突っ込みも飲み込む、有能な私。


しかし、うーん。国で一番偉い神官を呼び捨てする、この兄ちゃんは、恐らく……。


「殿下! いきなり入るのはおやめください」


ビンゴかぁ。しかも、王族直系っぽい雰囲気。どうしよう、王子に神官、いずれもイケメン ――但し、「イケてる面」限定の方の、ね―― だ。これで、あと数人イケメン揃ったら、乙女ゲームでも始まるんじゃなかろうか。


今思うと、そんな馬鹿なことを考えていたのが悪かったのね。うん、皆も同じような境遇に陥ることがあったら、真面目に物事を考えたほうがいいよ。マリーとの約束だぞ☆ ……はぁ。


私にぜひとも謝罪を、と、私の疑問に答えるためにいるはずの神官と、何しに来たんだかすら分からない王子様の言い合いをぼんやりと眺めていた私。頭の中では全く関係ないことを考えていたんだけど、急に手を取られて、意識を現実へと引き戻された。


「置き去りにしてしまってすまなかった、お嬢さん。貴方の名前は?」


人に名前を聞くなら、まずは自分からじゃない? って言ったら、面倒なことになるよね、多分。うん、大人になれ、私。


理性ある大人な私は、ぱしっと手を振り払ったりすることなく、素直に答えることに……しようとしたところで、ふと嫌なことが頭に浮かぶ。真名で人を操るって、ファンタジーでよくある話よね。


「あんど……、マリー。マリー・アントワネットですよ。名前も知らないお兄さん」


直前で気付いたため、適当な偽名を思いつかなかった私が咄嗟に言ったのがこれ。


自分でもすぐに、しまった、とは思ったのよ。でも、仕方ないじゃない。ほら、あんまり馴染みない偽名って、多分呼ばれても答えられないし。


私の名前、「真理・安藤」だから、「マリー・アントワネット」なら、きっとぼぉっとしていても反応するはず。最悪、呼ばれたのが私だと分からなくても、マリー・アントワネットなんて呼ばれてる人がいたら、私だったら反応する。こっそり、どんな姿か見ようとするだろうから。


そんな風にして、地球人なら突っ込みどころ満載な名前を名乗った私。王族に対して失礼な態度だったけど、気にせずさらっと答えてくれる王子。


「あぁ、これは申し訳ない。私はアロイス・フェルディナント・ライディカー。フェルと呼んでもらえるかな? アントワネット殿」


「マリーで構いませんよ、フェルさん」


むしろマリーで。真理とマリーなら何とかなる。


ところで、咄嗟にぺろっと愛称で呼んじゃったけど、大丈夫なんだろうか? 無礼者ーとか言われないかな? そう思って神官を見てみると、何だか苦い顔。でもまぁ、私は、自重しない日本人。呼んでいいといわれたら、そう呼ぶ。だって、外国人ってどう呼ぶのが正しいのか分かんないし。キャサリンがケイトって呼ばれるのだって、分かんないくらいだもん。


と、まぁこんなわけで、私のこの世界での名前はマリー・アントワネットとなった、というわけよ。

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