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世界で一番  作者: 北西みなみ
気高き王子
18/24

不憫な男 1

明けましておめでとうございます。皆様、今年もよろしくお願いします。


……ん? もう松の内過ぎた? 鏡開きくるぞ? 聞こえません。


正月ってのはあれですね、人が少ないから、大きな案件リリースするのに最適な時期パートワンのことですね。知ってます。知ってますよ。

聞いてもらえるかい。世界で一番不運な私の物語を。


私は、この国の第三王子として生まれた。


王位継承権も第三位だったんだが、少し問題があってね。


継承権第一位である王太子が、少しばかり体が弱かったんだ。いやなに、日常生活に支障のあるほどではない。但し、体を酷使する事は危険だと言われる程度に、弱かった。そして、王というのはひたすら激務だ。果たして、王太子がその役を果たすことが出来るのか、疑問視する声が上がるのは、仕方のないことなのかもしれない。


そうなると、通常、継承権第二位である第二王子が気になるところだが、これは少し特殊でね。実は隣国の姫にほのかな想いを抱いているんだ。そして、なんとも都合のいいことに、隣国から、この国に七人いる王子の内、誰かを姫の婿としてもらえないか、と打診を受けている。


当然、第二王子は自分が行きたい、と手を挙げていて、周りも段々とその勢いに負けつつある。実際、外に出すことなど論外である王太子を除けば、年齢的には、私と第二王子が一番良い訳だしね。


というわけで、第二王子は恐らく、近々継承権を放棄して隣国へ婿入りすることになるだろう。


そうなると、私の継承権は第二位。


私自身の能力はといえば、まぁ、そこそこ。十年に一度の逸材です、等とおだてられる程度には、低くない。とはいえ、十年に一度というのは、真面目に探せば結構見つかるという程度だったりするわけで。王太子も、知力面では十年に一度の逸材らしいしな。ただ、王太子と違い、私は健康そのもの。


そして、更に困ったことに、母の身分は私の方が上、ときた。


この国では、下町の女の子供であろうが、他国の王族の子供であろうが、基本的には生まれの順で継承順位が決まる。まぁ、実際に下町の女性が王の子を授かることなどあり得ないが、万一あった場合、この城できちんと産まれれば、継承権はつく。


それが法ではあるのだが、人の情としては、やはり生母の身分というのは気にされるものでね。通常、王は無用な争いを避けるため、正妃との間に王子を成してから、側室との間に、というのが慣例なのだが、困ったことに、正妃は二人続けて王女を産んだ。


時々、何人産んでも、同じ性別の子になるという人間はいるわけで。ひょっとすると正妃もそうかもしれない、ということになり、側室にも手をつけられるようになったのだが、王と正妃は仲が良く、その後も変わらず愛を受け続け、四人目にして待望の男が産まれた。


それが、私というわけだ。


正妃は、元々の血筋の良さに加え、自らの役割もきちんと果たしていて評判も良く、何より王から一番愛されているため、そんな母の子である私を、病弱な王太子の代わりに王位に、と望む者もいる。


私自身は、正直どちらでもいい。王になるにせよ、ならないにせよ、王族として生まれたからには、国のために生きて、国のために死ぬ覚悟でいるわけだしな。兄も同じような考えだ。


王太子が、王の激務に耐えうるならば、補佐を。耐えられぬようなら、自ら王として国を支えていくのに、何の躊躇もない。そして、父である王の意向は明確だ。第一王子が立太子されているということは、第一王子は政務に耐えうる、と判断されたということだ。


私は、何の不満もなく父王の判断に従うが、先程も言ったとおり、疑問の声は上がっている。そしてそれは最近、王といえども、無視できない程度の大きさになりつつある。


私が阿呆であれば、ここまで大事にならなかったかもしれない。王太子の母上の地位は、正妃に次ぐものだし、王太子自身も、体力が問題にならなければ、資質は十分なのだから。


反対に、私が百年、千年に一度の逸材であれば、反対に争うことなく、私が王太子だっただろう。こんなことになっているのは、私が中途半端なことが原因なのだ。


いっそ、私は王には不適格だ、といわれる行動を取ろうとしたこともある。しかし、もし実際に、王太子が政務に耐え得ないとなった場合、私が不適格だと思われているのは好ましくない状態のため、そこまで突き抜けて愚かな行動を取ることはできなかった。


その結果、私の国を憂えての行動は、幼い時期のちょっとした反抗ですまされ、私の中の黒歴史となっているが、まぁいい。


とにかくそんなわけで、私は、いなくなるのも困るが、いたらいたで不和の種となるという、なんとも悩ましいポジションにいることとなったのだ。


不幸中の幸いは、兄上とすれ違いによる憎しみ合いが起こりようがないことかな。母と、王太子の生母様は、いつかこのような争いが起こることを見越していたのだろう。兄上に、幼い私の世話をさせるようにした。おかげで兄上は、ちょっとした兄馬鹿となり、私の陰口を吹き込もうものなら、兄が敵になるという状態になっている。


私も、決して本人の前では口に出してはいえないが、うざったいくらいの愛を注いでくれる兄上が大好きなので、兄の敵は私の敵だと思っている。



そんな複雑な空気の中、私は救世主と出会った。


きっかけは、そう。何かと馬の合う幼馴染が、五日前に倒れて以降初めて城にやってきた、と聞いたことだった。


幼馴染のアインハルトは、救世主を召喚した際、力を使い果たして倒れたまま、ずっと寝込んでいたはずだった。回復したという話も聞いていないのに、本人が来た上、自分で使うことを嫌がっている「約束の神子権限」を振りかざして、王に謁見を申し出たという。


一体どの様な難題が、と思って聞いてみると、なるほど、国の存亡に関わる一大事だった。国を救うために呼んだ存在が、今や国を滅亡に追い込みかねない、何重の意味で我が国の命運を握る存在になっているのだ。


アインハルトは、身命を賭して謝る覚悟だったようだが、私としては、少し納得がいかない。彼はただ単に呼んだだけであり、その後の拙い対応は全て、私達に責任がある。責められるべきは、寝込んでいたアインハルトではなく、対応を間違えた私達だろう、と、救世主のもとへ向かっていった。


「私は、自分の世界にいれば、王に頭など下げる必要のない地位にいます。それをこんな所に拉致して虐待した挙句、謝るのでさえ、相手に出向かせようとする傲慢な輩に、何故、私が合わせてやらねばならないのですか?」


救世主のいるという部屋に着いたときに聞こえた、耳に心地よいソプラノの声。


それは、ずっと聴いていたいと思わせるような天上の声だった。――そこから紡がれた言葉の内容を除くならば、だが。

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