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世界で一番  作者: 北西みなみ
敬虔な神官
10/24

幸運な男 1

お久しゅう。先月は月の四分の三を家に帰れず過ごしてしまったみなみです。おうちー、帰らせろ―!



さて、気を取り直して第二弾。敬虔な神官ことフランツさんです。

マリーとの温度差を感じていただければ幸いです。……おかしいなぁ、マリー視点のときより、変人度が増しているような。

聞いてくださいますか? 世界で一番幸運な男の物語を。


その幸運な男の名は、フランツ・ヨアヒム・アインハルト。私のことです。


え? どれが名前だか分からない? ふふっ、貴方なんだか、私の妻みたいなことを言いますね。


そう、私が世界で一番幸運な理由。それは、愛する妻にあるのです。



私は、幼いころから神に仕えることが定められた、約束の子供でした。世界にただ一人、自国の神の声を聴くことが出来る存在。


それを悟った私は、神に相対する力を付けるべく、神殿で過ごすことになったのです。


神というのは、人にとって巨大すぎる力を持つもの。神の御前に身をさらすには、自己を強く保ち、守る力が必要でした。


私は、神の声を聴くと定められただけあり、それなりに早く、その力を身につけられたと思います。


私は神と対面を果たし、時に民の祈りを、時に神のお言葉を伝える架け橋となっておりました。


そんな、ある時。世界に魔が現れたのです。それは、気まぐれな神が、滅びの直前の国を訪れたことによる悲劇でした。


その国を守護していた神は、三代にわたる王家の血を血で洗う争いと、それに自分のお気に入りが巻き込まれたことに怒り、国を見限ってしまったのです。


国は慌て、必死に謝罪しようとしましたが、既に神は人の声の届かない場所へ。これでは、どうしようもありません。国人達は、滅びの前に、と他国への移住を申し出、次々と人が去りました。


けれど、王宮で贅沢に暮らしていた王族にとって、一転最下層に落ちる生活は認められなかったのでしょう。王族・貴族の幾人かは、逃げることなく、新たな神がお出ましになるよう、祈りを捧げました。


しかし、そこは神が見捨てた場所。神の気まぐれによる守護放棄の場合は、大抵他の神に守護が引き継がれますが、今回は違います。元いた神が、その国をいらないもの、として捨てたのです。そんな場所、他の神だって助けようとはしませんでした。


必死の祈りも空しく、全ての人間が死に絶えようとしていた時、一人の神が、偶々その国の近くを通りかかったのです。


その神は、旅が好きで、遠くから帰ってきていた途中だったため、その国の噂を知りませんでした。それ故、神なき地に人がいることが不思議で、覗いてみたのでした。


神の訪れを知った王は願いました。


「我が国は滅びる。他国に救いの手も差し伸べられることなく。この恨み、憎しみは我が身が消えようと潰えることはない。神よ、我らが怒りを受け止めたまえ。我らが無念を、苦しみを晴らすための力を我に!」


そうして最後の王は息絶えました。神は、死してなお怒りに囚われている国の亡霊たちを哀れに思い、王の最後の望みを叶えたのです。


滅びた国の怨念は形を持ち、他の国を襲う魔物となりました。魔物は人々を襲い、襲われ、命尽きた者達の無念も取り込み、どんどん強大になっていったのです。


人は、魔物を滅してほしいと、自国の神に願いました。しかし、その願いに神は応えませんでした。あの魔物は、仲間である神の作ったもの。それを私たちが壊すことはしない、と。


魔物が、自分のお気に入りである約束の神子を害そうとすれば、その魔物は滅されましたが、それ以外はただ見守るのみ。神とは、そうした存在でした。


拡大していく被害に焦った国からは、いっそ約束の神子を魔物の前に出して、滅してもらえばいいのではないか、と過激な意見も出ましたが、そんなことをさせれば、神が国を見捨てることは必至です。


我々は困り果てました。幸いにも、我が国は、まだ被害は少ない方です。しかし、少しずつ、魔の手は迫ってきているのです。私は、こうなったら、魔の目の前に自らの身を差し出しに行くしかない、と決意しました。けれど、約束の神子を失い、神が国を見限ることを恐れた国は、私を決して放そうとはしませんでした。


私は、私個人の考えによる行動なので、個人として見限られることはあっても、国が見限られることはない、と訴えましたが、聞き入れられません。約束の神子の喪失は、神の言葉を直接聞けなくなることは、それだけのリスクが伴うからです。


あまりに困る私を哀れに思ったのでしょう、我が神が仰いました。仲間の作ったものを壊す事はしないけれど、人間が人間の力でどうにかしたいというのなら、その力を貸さないこともない、と。


我々はその言葉に飛びつきました。そして質問したのです。どうすれば、魔物を倒せるのか、と。


神の答えは、今の国人に、魔物を滅することの出来る者はいない、とのこと。とある女性の腹にいる子と、とある町に住んでいる子供が結婚して子を成せば、魔に対抗する力を持つ子が生まれる可能性が高い、との話ですが、まだ生まれてすらいない子供が産む子。それではあまりに遅すぎます。


他国の約束の神子たちも、それぞれの神に、魔物を倒すために力を貸してほしいと頼みましたが、今の世界に、魔物を滅する力を持った存在はいない、ということが分かっただけでした。


どうすればいいのか悩みに悩んだ私達は、ある決定を下します。それは、古い歴史の中で行われたこともある、召喚の祈り。この世界にいないなら、他の世界から連れてくればいいのです。


ただ、遠い過去、多数の国がそれぞれ己の神に願い、神々の間で同じ人物の取り合いになった例があるので、それは避けねばなりません。協議の結果、最初に神から救いの言葉を与えてもらえた我が国が祈りをささげることとなりました。


世界中が注目する中、私を中心として、神官たちが祈りをささげました。やがて、何か巨大な力を持つ存在が物凄い勢いで接近してくる感覚と共に、私は意識を手放しました。

因みに、世界で一人しか神と話せない、といっていますが、実はそうではなく。前任者達は、後任が出来たからといって、お話できなくなるわけではありません。

いつでも神子が現れるわけではない(神子不在の方が多い)ため、複数いることは稀ですが、いないこともないです。

ただ、それを公にすると、権力やら何やら、色々面倒なので、前任者はお話できない振りをして引退します。神殿で公に話さず、自宅で茶飲み友達感覚でお話するようになったりします。

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