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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

道化師の王冠

作者: 京 高

『魔王一万分の一――道化師と源体の話――』の過去の話になります。

作風はシリアスというよりも暗いと言った方が適切かと思われます。


残酷な表現が含まれるのでR15に指定しています。読む際にはご注意ください。

 男は幼少の時分、孤児だったところをある王様に拾われて命を救われました。

 彼はその後お城の下働きとなりましたが、病気がちで体力がなく、要領も悪かったので何をやっても上手くいきませんでした。

 さらに、王様に直接目をかけてもらって連れて来られたという経緯から周囲の反感も強く、彼の失敗を助ける者は誰一人としていませんでした。


 それでも男は毎日を懸命に生きていました。

 彼が恐れていたのは唯一つ、恩人である王様に失望されて見放されることだけでした。


「こんな自分でも助けてくれた王様の役に立ちたい」

 日々悩んでいた男にある日光明が差し込みました。

 王宮に呼ばれた旅芸人の一座を見た時、これだと感じたのです。男が目を付けたのは道化師でした。

「何も出来ないのであれば、それを売りにすれば良い」

 それから男は仕事の合間を縫って独学で勉強を重ねました。

 必死になって芸の練習にも励みました。

 やがて男の努力は王様だけでなく周囲の人間たちにも認められ、見事宮廷道化師の座に就くことが出来たのでした。


 しかし幸せな時間は長くは続きません。

 突如現れた魔王とその軍勢に男のいた国も襲われたのです。

 町や村は破壊され、兵や臣民たちも次々と殺されていきました。

 城が陥落する直前に王様は男を呼ぶと、ある願いを伝えました。


「私の首を手土産にして魔王に取り入り、彼の者を滅ぼす手掛かりを内側から探っておくれ」

 たった一人で魔王の軍に入り込む、それはとてつもなく恐ろしく難しい役目です。

 しかしそれ以上に男を戸惑わせたのは敬愛する王様を自らの手にかけるということでした。


 魔物が吐いた炎から引火したのか、はたまた悪魔に負けることを潔しとしなかった騎士が火を付けたのか、城の至る所から火の手が上がり始めました。


 男はなんとか王様の考えを改めようと説得を続けましたが、その決心は固く心変わりをさせることは出来ませんでした。

 男は道化師となってから始めて泣きました。

 穏やかな死に顔では魔王に不審がられてしまいます。

 そのため苦悶の表情を浮かべるように王様を殺し、その首を切り落としました。


 男は涙を流しながら、せめてこれ以上王様の魂が苦しむことのないように祈りました。


 炎上して倒壊を始めた城から王様の首を手にした派手な衣装の道化が出て来ると、生き残り捕えられていた者たちから王様の死を悼む悲痛な声と、道化を罵る怨嗟の声が上がりました。


 道化は王の被っていた冠を頭にのせて、その顔には終始笑みを浮かべていました。


 恨み言を言い続ける者たちには目もくれず道化は一直線に魔王の元へと向かいました。

 そして王様の首を差し出して、

「いささか品も価値もありませんが、こうして手土産を持参して参りました。

 首だけで足りなければこの王冠も差し上げます。

 どうかこの私めをあなた様に仕えさせて下さい。決して退屈はさせません」

 と、願い出ました。


 魔王は多少訝しく思いながらも差し出された王様の首を一瞬で燃やし尽くしました。

 その光景に人間たちからは嘆きの叫びが、悪魔たちからは嘲りの笑いが沸き起こりましたが、渦中にあってなお唯一人道化は平然としたまま大仰な仕草で恭しく頭を下げて見せました。

 魔王はその不遜な態度を気に入り、彼の要望を聞き入れることにしました。


 かくして道化は王の遺言通り魔王の懐へと入り込み、その弱点を探し始めることになりました。


 また、人の世ではこれ以降、冠をかぶった道化師は裏切りの象徴とされるようになったのでした。


どうして道化が魔王の下にいるのか?という疑問の答えがこれになります。


私の内から出てきた物語ではありますが、王様も道化師も、もっと『別の道』があったのではないかと考えてしまいます。

今後の作品において、私なりの『別の道』を書くことができればと思います。

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