ヒビ
初めて足を踏み入れる校舎の中、強ばる表情を必死で隠しながら華那子がまず向かった場所は、職員室。
「失礼します」小さな声は、誰にも気付かれることなく、職員室の入口でいつまでも突っ立っていた。
「あれ。どうしたの」華那子の存在が教師に知れたのは、ノックをしてから7分も経ってからだった。転入生?若い女の教師は華那子の目線までしゃがみ訊く。
何も答えずに頷くと、名前は?と訪ねてきた。華那子は染谷―といいそうになり、口をグッと閉じた。
「隅田 華那子です。」
隅田さんね、ちょっと待ってて。教師は華那子を入口に残し、奥へと消えていった。直ぐに戻ってきた教師はさっきとは別人のようにニコニコと笑っている
「隅田さん。はじめまして。担任の佐藤です」
初めに話しかけてくれた佐藤は、華那子の担任教師だった。ここに座って待ってて。ホームルームが始まるまでの時間を職員室で過ごした。
佐藤が足を止めた教室は、4年1組。ガラガラ―とドアの開く音が響くと、騒がしかった教室は一気に静まり、皆が前を向いて佐藤に注目した。
「今日は転入生がいますよ。隅田さん」
転入生と聞いたクラスメイトはザワザワと騒ぎ出した。佐藤に呼ばれ、華那子は俯きながら教室に入る
自己紹介してね。頷くこともなく、隅田華那子です。それだけ言った。
クラスメイトから拍手が起こった。佐藤は窓際の席を指さして言った。あそこが隅田さんの席よ。華那子はクラスメイト達の視線を受けながら、窓際の一番後ろの席へと向かった。
やっと席につき、自然とため息が漏れていた。なんだがどっと疲れた。
華那子は窓の外に目を移す。相変わらず低い空に憂鬱な気持ちを隠せなかった。すうっと深呼吸をしてみても、息苦しさをは募るばかりだった。