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茄子の花  作者: 隅田 ササ
小学校
1/7

異変




食卓の異様な雰囲気を初めて感じたのは、華那子が小学校三年生の時だった。


テレビも付けずに、誰も口を開かずに黙々と食事を続ける。それが今まで当たり前な事では無かった。


華那子はいつも、母、芳美の自慢の手料理を食べながら学校での出来事を笑顔で話していた。それを嬉しそうに聞いてくれる芳美と、父の孝夫がいたから。


隣では三つ年上の兄、秋良(あきら)も負けじと、学校での出来事を両親に話す。それが御決まりの笑い声が絶えない食卓だった筈なのに。華那子は進まない箸を静かにテーブルに置いた。



「もうおしまい?最後まで食べなさい。」



芳美は無表情でそういった。華那子は、食べたくないと一方的に椅子から立ち上がるとそれ以上、芳美もしつこく催促するのを躊躇った。



「最近元気がないじゃないか。どうしたんだ華那子」



孝夫が茶碗を持ちながら訊いた。華那子がそんなことない、といおうとした時、芳美は無表情な顔を嫌悪感いっぱいにして孝夫にいい放った。



「あなたのせいじゃないんですか」



針のようなその言葉に、孝夫は静かに茶碗を置くと申し訳なさそうに視線を下に落とした。「ご馳走様」小さな声で呟いた孝夫は自分の分の食器を流しへと運ぶ。


そんな両親の様子を見て秋良は静かにため息を漏らした




華那子はそんな家族を何故か冷静に見ていた。子供だったから。何故、急に両親の仲が悪くなったのか。何故、食卓が暗いものへと変わったのか。それを深く考えようとする思考がまだなかった。


何かつまらない理由で、芳美と孝夫は喧嘩をしているだけだ。芳美の機嫌が余程直らないんだろう。そう考えていたから、冷静に見れたのかもしれない



華那子は自分の分の食器を流しへと運ぶ事なく、2階の自分の部屋へとかけあがった


風呂も入らずに布団に潜り込むと廊下を歩く秋良の足音が聞こえた。ガチャリと隣の部屋のドアが開閉した音を聞き瞼を閉じた。




目が覚めたのは、夜中だった。

1階から聞こえてきたのは悲鳴にも似たような怒鳴り声だ。暗闇の中聞こえてきたその声は芳美のものだと直ぐにわかった。


芳美と孝夫が喧嘩しているのだ。

その怒鳴り声の一つ一つまでは聞こえず、やはり何が原因か把握できないまま、両親の悲痛な声だけをただ聞く毎日だった。



華那子は頭まで布団をすっぽりと被った。耳を塞いだ。とにかく、怖かったのだ


優しかったは母は、人が違うように変わってしまった。優しい眼差し、暖かい手。一人で寝るのが怖い夜には華那子がいわずとも部屋にやってきて添い寝をしてくれた。その全てが今の芳美にはない。




布団の中で震えていると、部屋が急に明るくなった。恐る恐る布団から顔を出すと入口には秋良の姿があった



「やっぱり。起きちゃったのか」



秋良は華那子の布団に入り込むと、お腹を優しくポンポンと叩き始めた。兄が来てくれた安心感に、華那子は直ぐに再び眠りについた。



事件が起きたのはその次の日だった。華那子が帰宅すると芳美は忙しそうに出掛ける準備をしていたのだ。



「何処かに出掛けるの?」



華那子に話しかけられ、ようやく華那子が帰ってきた事に気付いた芳美は鏡で服を整えながら早口でいった。



「お母さん、今から学校に行かなきゃいけなくなったから。お留守番、出来るわよね」



何をしに学校に?そう訊きたかったが、芳美は華那子になど構っている時間はないとでもいうような顔をしていた。「おやつある?」そう訊くことが精一杯だった。



「いつもの戸棚にある筈よ。それじゃ、お母さん行ってくるからね。もしかしたら遅くなるかもしれないから。」



芳美は慌ただしく時計を腕に巻き付けながら、相変わらず早口でいう。華那子は頷きながら戸棚を開けた。おかしは一つも入っていなかった。



「誰かが来てもドアを開けちゃ駄目。インターホンも出てはいけない、電話もよ。いいわね。」




芳美は、華那子の「わかった」の返事を確認すると、いってきますと家を出ていった。


急に静かになった家。何処かに遊びに出掛けようかとも思ったが鍵を持っていないから家から出ることは出来ない。


友達に電話をして家に遊びに来てもらう手も考えたが、インターホンも出てはいけない。ドアを開けちゃ駄目と言われていたのを思い出して諦めた





ソファーに座りテレビを付ける。いつかやっていたドラマが再放送されていた。華那子は仕方なく結末の知っているそのドラマを見ることにした




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