忍が食事制限し出したのだが、なぜか凶暴化をし出した……
前回のあらすじ、
プールで泳いでセクハラを受ける。
「お嬢様、こちらが本日の夕食のサラダにコーンスープにムニエルになります」
「何かな?これは」
パティが作った料理に忍がドブ水をテーブルに出されたような顔をした。
「夕食ですが?」
「違う、これは豚の餌だ」
お前は舐めとんのか?
コンビニで買えば700円はしそうな食事だぞ?
「お嬢様?何か問題が?」
「問題しかない、このようなモノで満足できるほどこの栗原忍は甘くないぞ?」
腕を某司令官のように組んで説教している。
何時からこいつは説教できるような立場になったのだろうか?
「威張んな、これで満足しなさい」
好き嫌いするバカ娘の母親と言うのはこういう気持ちなのだろうか?
……なんで俺が母親の気持ちなんて理解せねばならんのだ……。
「しかし、もっと牛脂や豚脂がないとだね?」
「別に食べさせても良いが、食べた場合は俺の運動メニューではなく、ダナーが組んだ運動メニューになるぞ?」
「……いただきます」
合唱しておとなしくサラダに手をつける。
最初から素直になれば良いのに。
それからヨガとストレッチで基礎代謝を高め、テニスや水泳等の運動を1日6時間ほどやらせ、食事制限を強いた。これで原理的には痩せられるはずなのである。
ダイエット開始から5日目、忍は極限状態であった。
「グルルぅぅうう!!」
これは空腹による腹の音ではない。
野生の波動に目覚めた忍が食べ物を求めて他人を威嚇しているのである。
「どぅどぅ」
「ガルルルゥゥゥ」
「ど、どぅどぅ……」
「食い物寄こせ」
「はい、寒天(カロリーほぼ0)」
「ふざけんな!!」
理不尽に怒鳴られた。
「ま、まぁそろそろ禁断症状になるな」
「ギャルルゥゥゥ!」
「マスター、一度落としますか?」
ダナーが野生の波動に目覚めた忍への物騒な対策を提案した。
「いや、大丈夫だろう……」
「ガルル!!」
「はぁ……パティ、干し肉のストックはあったか?」
「えぇ、食料庫の方に」
万が一の時のために食料庫の方に保存食を保存している。こんな事態の為ではないが。
「ハフッ!?」
忍が逃げたガゼルを追うチーターのようなマジっぷりの速さで食料庫に向かった。
マズイ!あれじゃあ保存食が全て食われるぞ!!
「ダナー!!あれを止めろ!!」
「了解、全速力で疾駆させてもらいます」
食料庫に向かった忍をダナーが叩きのめそうとしたのだが、あのダナーを忍は宙返りしながら蹴った。俺の身の回りの人間の戦闘能力がインフレしだした気がする。俺も特訓してこのインフレに乗らなければならないかもしれない。
蹴られたダナーが愛銃でゴム弾を撃ち出す。が、忍は高速で飛んでくるそれを見て避ける。
おいおい、ドッヂボールみたいに避けるなよ……。
なんでこの超性能のくせにテニスで死に掛けるのだろうか?
「マスター、気絶させてもよろしいでしょうか?」
「背に腹はかえられない、やってしまえ」
「アイマム」
ダナーが必殺(?)の掌底を腹部に決めようとしたのだが、それは残像だったようですり抜ける。
何を言っているのか分からないと思うが俺にも何が起こったのか理解できないので仕方ない。
ダナーの攻撃を避けた忍はダナーの足を持ち上げてハンマー投げのように投げ飛ばした。
人間って極限状態になると何でもできるんだなぁ……。
感心しているスキに忍が食料庫にまた激走して行った。
その後姿にダメ元でスタンガン(遠距離仕様)を撃ってみたのだが、予想通り回避した。
後ろに目でも付いてるのか?
人間の視界は180度未満だからサブカメラ?
あまり射撃には自信がない。
上手い奴なら相手が回避した所に撃ち込んでドンドン追い詰めていくのだが、俺にそんな技術は当然ない。
というか、今のこいつの跳躍力は異常である。
なんかぴょんぴょんノミのように跳びまわっている。
こいつ、本当に人間か?
「お肉ぅぅうう!!」
人の限界を空腹というだけで簡単に超越しやがった……。
いや、人間の三大欲求というのは生存本能に直結している。
つまり食欲というそれがむしろ逆にあれの戦闘能力を向上させているのかもしれない。
……こんな考察よりも目の前のハイエナをなんとかしないとハイエナ自身がリバウンドでまたデブってしまうぞ。
「マスター、どうしますか?このままでは食料庫の干し肉全てに歯型をつけられるかもです」
投げ飛ばされたダナーが俺の傍にやってきた。
「別に干し肉が大切なわけじゃないから良いんだけど……アイツに好き勝手されるのは非常に不本意だ。けど、なるべく穏便にな」
「難しい注文です。今の忍お嬢様の戦闘能力は現段階の私よりも少々高いかもしれません」
そこまでかよ……。
「まぁいい、俺がアイツを足止めするから食料庫に先回りして電磁トラップでも仕掛けてくれ」
「了解、お気をつけて」
「すぅ~はぁ~」
大きく深呼吸して大声で叫ぶ。
「忍!こっちに肉を用意したぞ!!」
キュウウ、とブレーキ音が響く。
人間のスピードであんな焼けたゴムみたいな臭いが出てそうな音がするのか?
「お肉ぅぅう~~~♪」
涎をだらだらと流して強烈な笑顔で予想通り、こっちに向かってきた。
「悪いな、今のは嘘だ」
「グギャァァー!!」
捕食する時の肉食獣というのはこういう表情なのかもしれない、と思えるような表情で近づいてのでそれをカウンターの要領でスタンガン(零距離仕様)で攻撃する。
「グュ!?」
一瞬のダメージで事態を本能的に理解したらしくバックステップで回避する。
警戒心が強い野生動物のようにこちらを伺っている。
まったく、こいつの今の能力は驚異的だな……。
「心配するな、ビーフジャーキィならある」
「!!」
「ほぅれぇ~」
忍に見えるようにビーフジャーキィ(と俺が言っているモノ)をチラつかせる。
「はふはふっ」
まるで大型犬だな。
「お手」
「アゥ!」
「おかわり」
「アン!」
「ちんちん」
「ハッハッハ」
「服従のポーズ」
「くぅ~ん」
はっはっは、こいつはバカだ!
「ほれ」
忍に投げつける。しかし、
「キャァァッチ!!……!?ぺっ!マズイ!」
当たり前である。だってただの木の枝なのだから。
しかし、口に入れるまで分からないとは余程判断能力がないらしい。
「オンバァァアア!!」
発狂している忍に俺はバチバチとスタンガン(零距離仕様)で威嚇する。
するとヤツや舌打ちをして俺から逃げた。
おそらく食料庫に向かったのだろうが、すでにダナーが電磁トラップを……。
「ふみゃー!!」
尻尾を踏まれた猫のような悲鳴を上げたバカが犠牲になったようだ。
南~無~~♪