怠惰な日々のせいで忍がデブったので、忍はその贅肉と闘い始めた。その弐
前回のあらすじ、
忍が死に、そして生き返る。
「こんにちは、ミコト様。今日は水泳をしているとメイドから聞きましたが?」
アンが白のワンピースに麦わら帽子という清楚なお嬢様ルックでプールサイドにやって来た。
中身は清楚とはかけ離れているから見た目詐欺である。
「ういっす」
「相変わらず、異世界の挨拶は変わってますね」
確かに、『ういっす』って何の略なのだろうか?『はい』が『うい』に変化して体育会系特有の『っす』が語尾について『ういっす』なのだろうか?
因みにアンは出会った当初は毎日のように来ていたのだが、今では週2,3のペースである。彼女にも彼女の日常や仕事があるのだろうさ。
「お前も泳ぐか?」
「遠慮しておきますわ。水中は苦手なので」
「ほぉう?」
カナヅチの人間というのは幼い頃から泳げた俺には分からない。そもそも人間は浮くように出来ている。脂肪が少ない筋肉ダルマのような格闘家は浮かないそうだが、普通の人間は浮くはずである。
鉄棒で逆上がりするよりも遥かに難易度は低いのではないだろうか?
むしろ逆上がりなんて成長したら活躍するような場面ないだろうが、水泳は万が一に漂流した時の生存率が上がると思う。万が一な?客船の沈没事故や旅客機の墜落事故が騒がれていたし泳げたほうが良いと思われる。
水泳なんてのは地面との接触する衝撃がない分、ランニングよりも楽に思える。
俺は持久走が死ぬほど嫌いで、最終的に息が上がるというよりも膝に来るのが嫌なのである。え?立ち止まって休憩すれば良い?それはリタイヤだろ?どうせ勝負ではないのだ、持久走をやり切ったということに達成感がせめて味わいたい。
……あのラストの人間に対する声援ってのはあまり気持ち良くないが、声援している方は嫌がらせをしているのではないので嫌うことは無いだろう。受けたくないが。
「……しかし異世界人には驚かされます。妙な泳ぎ方をしているのですね」
クロールしている忍に向かって率直な感想を抱く。
水泳の歴史なんて知らないが、現代泳法と言うのは何時頃に発明されたのかね?2,300年前?この世界の泳ぎ方は平泳ぎだけか?
「あれは俺たちの世界だと『クロール』と呼ばれる泳ぎで難易度は低い上に全ての泳法の中でもっともスピードが出る泳ぎ方として有名だ」
「へぇ~、異世界は聞いていた以上にこの世界よりも様々な面において技術が発達しているのですね」
「まぁな、俺たちの世界じゃ衰退したのは芸術だろう」
絵画や音楽というのは時代によって変化する。音楽は好みがあるとしてクラシックと呼ばれるものと今アイドルとかシンガーとかが歌っているモダンとは全くの別物だろう。衰退というべきか発展というべきかは素人の俺には良く分からない。
絵画の方はもっと分からない、近代美術は全く理解できない。子供が適当に書いたような絵にしか見えないものですら日本円で数億円って頭おかしいのではないだろうか?数億ですよ?数億。宝くじの1等が当っても買えないんだぞ?ただの絵になぜそこまで金が出せるのだろうか?金持ちの思考回路って理解できないわ。あんなの絶対数百年後の人類にバカにされるぞ。『2000年頃の芸術家はこのような絵を描いて数億円をもらっていたようです。すごいですねぇ』と嘲笑されながら説明されると俺は予想。
ピカソの絵ですら凡人には理解できなくない?できる?俺にはできない。
「泳ぎくらいで良いなら教えるが?」
「え!?良いのですか!?」
眼を輝かせながら聞き返す。
カナヅチを克服したいのではなく、俺に泳ぎを教わりたいのだろう。プールに入るとなれば必然的に俺も水着になる必要があるし。(俺は水着の上にパーカーを羽織っている)
「別に良いぞ、その程度」
一度誰かに泳ぎを教えてみたかったというのもあるのだが、一番の理由は暇だからである。
監視員のバイトをやったことはあるのだが、あれは非常に楽なバイトだった。炎天下の中でプールを見渡すだけの簡単な仕事。雇い主側も万が一の水難事故のために監視員を雇わなければならないからな。毎年水死事故ってのは起きているらしいし。
「では着替えてくるので少し待っててください」
「ほいほ~い」
ジィィ~~~
と効果音が聞こえてきそうなジト目で忍がこちらを睨んできた。
「ミコト、ボクを泳がせておいて自分はラヴコメイベントかい?」
「なんでお前はサボッてるんだ?休憩は1分だけだって言っただろ?」
「目の前でラヴコメイベントなんて起きてたらそれどころじゃないと思うけど?」
「ダイエットが最優先だろ」
「いや、まぁ……そうかもだけど」
「黙れ、お前がデブるのが悪い」
「ボクだって女の子なんだよ!!」
「だからどうした?」
「え?い、いや……もう少しデリカシーを持ってくれても……」
「忍、俺がお前を女扱いしたことがあるか?」
「……ないです」
「だろ?つまりそういうことだ」
こいつだって俺を男扱いしてないしお相子だ。
「でも気になるじゃん?」
「何が?」
「ぶっちゃけた話、ミコトがウィリアムと付き合ったらボクには居場所がない気がして」
「働け、クズニート」
「誰がクズだ!」
いや、どう考えてもお前だろ。
「お前なぁ、素直に人の対人関係を応援しろよ」
「けど、ミコトはあれのことが別に好きなわけじゃないんでしょ?」
「人間なんて意外にあっさりしてるんだよ。特に性的なのは」
「つまり、あれに惚れたの?」
「いいや、そういうわけじゃない。だが、俺は男だ。男の俺が容姿が良い女に惹かれるのは至極当然のことだ。その上、相手は俺の外見が目当てだが好意を抱いてくれている。だったら良い関係になりたいだろ?」
「恋人になりたいってわけ?」
「そういうわけでもないが……あの性格と性癖がどうにかなればな」
1年間、あれとはそれなりの友人関係を送ったつもりだが、ぶっちゃけ俺を好いている理由が容姿だけだからなぁ……。イケメンクソ野朗ってこんな気分になってるのだろうか?いや、あれの場合、女に寝取られる可能性があるだろうというのが高いんだよな。
普通なら恋人になるだろう、しかしアンの場合はなんだかんだと既成事実を捏造され(既成事実を捏造って非道だな)その後で俺を奴隷のように扱いそうだ。伯母や実父の外道っぷりを良く知っている分、奴の本性が怖いのだ。
……その展開だけはなぁ……。
奴隷願望とかないっすから……。
なんだかんだ言いましたが、それでもミシェルルートを希望します。
「おまたせしました。どうですか?」
綺麗な黒いビキニを着用してアンがやってきた。
元の素材が良い為、ものすごく似合っている。白人の素晴らしさがふんだんに出ていると思う。しかしだ、今は遊泳ではなく水泳をやるのだ。なぜビキニ?舐めてるの?
「素晴らしいが、今の状況にはあってない。着替えて来い」
「な!?み、ミコト様?正直な話、ミコト様に見せるためにこの水着を買ってきたのですが……?」
泳げないのになぜ水着を買ったのだろうか?
遊泳するだけか?まぁそれはそれで良いのだが……。
「マジメに泳がないのか?」
「いえ、そういうわけでは……」
「なら着替えなおすか遊泳するかを選べ」
「……着替えてきますわ」
うむ、素直でよろしい。
「ミコトに彼女ができなかった理由が良く分かった気がする。ボクですら今のはないと思うよ?」
「お前みたいな変人に女を代表して語られたくないな」
その後、忍がサボらないか見張りながらそれなりにアンに泳ぎ方を教えた。
運動性能はかなり高いからコツを掴んで2時間くらいでカナヅチを克服してみせた。
センスがある人間って良いよな。何でもぱぱっと克服できるのだから。
「ミコト様の教え方が上手いからですよ。泳ぎ方も上手でしたし」
極限の笑顔で喜んでいる。
よほど嬉しいのだろうか?達成感に浸っているのだろう。
「だから、ミコトは少しは女心を理解したほうが……」
だから、お前みたいな変人が女心を語るな。
▽
「ふぅ……疲れた……水泳って全身運動って言うだけあって疲れるね」
忍がプール後のシャワーを浴びながら愚痴る。
「そうだな、アクアウォーキングってのは普通のウォーキングよりも水圧などによる負荷でカロリーを消費できる上に浮力のおかげで楽に運動できるってことで老人などに人気だからな」
「へぇ……何を言っているのかは良く分かりませんが水中とはいろいろと面白いのですね」
「あぁ、水中というのは肉体改造としては良い環境であるのかもしれない。……ところで御二方?なぜ俺は女子更衣室に連れられたのかね?」
シャワーという部分でお気づきだろうが、ここは女子更衣室である。
なぜ女子更衣室なのに(魂が)男の俺がここに居るかと言うと……男子更衣室がないからである。
だってここのプールは俺の所有物ですからね?
市営や民営じゃないから不法侵入に当てはまらないし。
とは言ってもここでラッキースケベが起こるような状況ではない、これは久々のセクハライベントだ。
「その理由は言わないと分かりませんか?」
「分かりたくない……分かりたくない……」
「ウィルバインさんはミコトの裸体を見るたいんだってさ」
「おい!やめろ!そういうフラグを立てるな!」
「いや、もう立ってるでしょ?」
現実から逃げさせろ!!
「忍さんに聞きましたよ。剃毛をした時に全てを晒したと」
「待て!それは確実に誤解だ!」
「え?殆ど合ってると思うけど?」
「違う!あれはレイプだ!」
「いや、強姦なんて卑劣なものじゃなかったと思うけど?」
「黙れ!俺の精神的苦痛はマックスだったぞ!」
思い出すだけで辛い……。
性犯罪、ダメ絶対!
性別を問わず人間は犯罪から守られなければならない、性別を問わず。
「その場に居合わせてないから知りませんが、どんなことをしたのです?」
「まず、お風呂に入るために服を脱がせた」
「ふむふむ、脱がせた……」
「その時にミコトのアンダーが毛むくじゃらだったから剃った」
「……って、ちょっと待ってください!!それじゃあミコト様のあ、あれを……?」
「何を想像してるか予想できるけど、もちろん見たよ」
「……羨ましい」
羨むな!!
「ミコト様、わたくしにも……」
「見せるわけないだろうが!常識的に考えろ!」
「でもさ?脱がずにどうやって着替えるの?男のプライドを捨ててスカートを使うの?」
俺はまだ女の体に慣れていない。
裸を見せずに着替える方法と言うのもあるらしいがそんなものは習得で着ていないし、小学生が使うようなラップタオルもこの世界には存在しない。
そもそも男はある程度の年齢になれば自分のイチモツを隠す人間は少なくなってくる。
男はイチモツ以外隠す必要もないし公然の場で隠すことがバカバカしくもなってくる(男湯は男しかいないから気にする必要はない)
「……げへへ♥」
「せめて、お前らは出て行け!」
視姦されたいという願望は俺にはない!!