怠惰な日々のせいで忍がデブったので、忍はその贅肉と闘い始めた。その壱
前回のあらすじ、
忍、デブる。
「というわけでダイエットします!」
「あぁ、はいはい。がんばれ~」
5.68kgも太った忍がダイエット宣伝していたので俺は適当に応援した。
「ミコトもやろうよ!!」
え?なんで?
「まさかボク1人だけにダイエットさせるつもり?」
「別に俺デブってないから。ダナー、俺の体は健康か?」
「健康体だと思われます」
「んな!?なんで!?なんでさ!!」
なんでと言われても、俺はこの1年、暇なときはスポーツして暇を潰していたから。
テニス、筋トレ、水泳、ランニング、森林浴、後はサバゲー。
とはいえ、対戦相手がダナーだけだからそんなに面白くは無いんだけど。
なぜって?完全に接待ゲーになるから。
「な、なんでボクを誘ってくれなかったのさ!!」
「いや、だってお前、テニスとか嫌いだろ?つかお前が好きなスポーツって何よ?」
「アイススケート」
「スケートリンクなんて無いだろ?そういうことだ」
「……」
絶句している。ぐぅの音もでないようだ。
「忍お嬢様、安心してください。このダナーが忍お嬢様のダイエットを協力しましょう」
「ダナー、一応どういう計画なんだ?」
「大丈夫ですよ、マスター。この私ができないことを主張したことがありますか?」
「ないが……」
心配なんだよ、お前の計画はな。
なんというか……俺たちみたいな軟弱なもやしっ子を女王みたいな体力バカと同じと考えていそう。
▽
ダナーが森を開拓して造ったテニスコートにテニスウェアを着てプレーをする準備をした。
「では忍お嬢様、こちらのシールを体に貼らせていただきます」
「良いけど……それは?」
「電極シールです。このシールを貼ることで体内に電気信号を送り遠隔操作することができるのです」
ラジコンか?ラジコンを人間でやるのか?
「はぁ、なるほど、で?なんで?」
「忍様がへばらないように私が忍様を使ってマスターとテニスをするのです」
「……ボクの身体能力を超えた動きはやめてよ?」
「善処いたします。しかし、大丈夫ですよ。マスターとの練習試合でどれくらいの能力を発揮すれば良いのか理解してますから。忍お嬢様は私の動きをトレースするだけですので」
なんだろうか?変なフラグが立った気がする……。
(じゃあ試合開始)
可愛い可愛いミシェルが審判がプールや海でライフセイバーが座るようなあの高い椅子に座った。
良いね、今日も可愛いね。
特にテニスウェアが似合ってる。
テニスウェアとかって良いよね、テニスプレイアーが良いんじゃなくてテニスウェアが良いんだと思う。女子プロテニスの特集をテレビでやってた時に思ったんだけど、プロテニスプレイアーの腕とか足ってやばいわ。筋骨隆々って感じ?それに比べて健康的な女子のテニスウェアってのはなんかこう……良いと思います!胸がときめいています。
胸……そうか!胸が強調されているからか!
おっぱい!おっぱい!おっぱい!
などとミシェルの美貌に魅了されている場合ではない。
「行くぞ!」
俺が綺麗にボールを高く上げて思いっきりサーブする。その速さに忍は追いつけないようだったが、ダナーはしっかりと見切っているようでラケットでなんなく打ち返す。
その後は15分ほどラリーを続けた。もちろん、試合ならば点を取るために相手が取れないような所に撃つのだが、これはお遊び。本気になる必要は無い。けど、俺は性格悪いのでコートの端から端までを往復するようにボールを打つ。
「み、ミコト?なんかボク、たくさん走ってる気がするんだけど?」
「そりゃそうだろ。お前はダイエットしてるんだから。ダナー、忍が死なない程度に加減してやれよ?」
「了解、熱中症や酸素欠乏になるのは考えずに行動しますか?」
「考慮しろ、このバカ」
▽
(30-40、マッチポイント)
3時間もラリーしてやっとマッチポイントである。
すでに忍は肩でぜぇぜぇ言っている。俺もそろそろ疲れてきた。
忍を使っているダナーは俺に対して優しい球だったり、取り難い球とランダムに打っていて確実にポイントを取っている。
最初にダナーと試合した時などそりゃ散々な試合であった……。
それはまた後日、語るときがくれば語ろう。
俺も疲れているので忍の方に甘めのボールを打つ。
忍は疲労困憊の状態にもかかわらずそれをなんなく打ち返す。
そろそろ白め剥いて失神してもおかしくないだろう。
というわけで、俺も本気で点をとって終わらせたい。
なのだが、ダナーは全然そんな気は無いらしく、まだまだ続行させる気だった……。
そしてマッチポイントから40分後、遂にゲーム終了。
辛い……なんか腕が痙攣してる……。
忍なんか永眠するかのように倒れこんでいる。
死んでないよな?今のは比喩であって事実じゃないよな?
「大丈夫ですよ、マスター。まぁ、このまま放置していたら明日は筋肉痛で寝込むハメになるでしょうが」
「放置って、なんとかなるのか?」
「マッサージを行い血行を良くしたり、ビタミンなどの栄養素を摂取して自然治癒力を高めることで筋肉痛を回避することが出来るのです」
「へぇ~、じゃあマッサージとかできるか?」
「もちろんでございます。少々失礼します」
そう言って俺のふくらはぎを揉み出した。
おぉ~♥ めちゃくちゃ気持ち良いです♪
お高いマッサージ機よりも気持ち良い気がします。
「人体構造は熟知しているので最も疲れているであろう部位を治癒することもできます」
お前はなんでもできるんだなぁ~。
ひゃ!ちょ、ちょっと強すぎない?
「我慢してください、これを乗り切らないと後が辛いですよ?」
そ、そうかもだけど……ひゅ!?そ、そこは……あ!ひゃ、ひゃぅぅ~。
▽
「ご主人様!!お嬢様がなんかもう死んでるのですが!?」
忍の介抱を任せたパティが狼狽しだした。
「生きてるらしいから心配するな」
「は?いや!どうみても!!」
うるさいなぁ……。
ダナーとパティのどっちを信じるかと聞かれたらダナーを信じるって。
「ダナー、介抱してやれ」
「了解です。……!?」
「ん?どうかしたのか?」
「いえ、この程度は心配することではありません」
『この程度』?
その言葉に違和感を感じていたら、ダナーが忍に電気ショックを始めた。
ドクンッ!と忍の体が浮き上がる。
……は?え?マジで?
数分後。
「はぁはぁはぁ……し、死んでた……三途の川を越えてたよ……」
冗談に聞こえない。
「いや、本当だからね?橙色の世界に蒼の川があってね。今思えばあれは賽の川原と三途の川なんだよね……渡りきる前に生き返ってよかった……」
だから笑えないって……。
「ダナー?」
「不覚、猛省しております。まさかここまで人間が貧弱だとは……」
「死なない程度にって言ったよな?」
「どのような処分も受け入れます」
「……今後はこのような人類の身体能力を過剰に計算した計画だけは止めろ。良いな?」
「恩情、感謝します」
深々と頭を下げる。猛省しているというのは事実らしい。
こいつが俺に嘘を吐いたことはないけど。
「ママぁ?大丈夫?」
「心配してくれてありがとー♪」
生死の境を彷徨ったくせにミドリに頬ずりしている。
凄いなぁ……。俺なら心臓と体のことを心配するわ。
「まぁ、過度な運動は続かないから止めておこうか」
「ではどうするのですか?」
「効率よく脂肪燃焼させるためにはヨガやストレッチで基礎代謝を上げ、過不足な運動、そして暴飲暴食をしないこと。これさえ守れば痩せることは出来る。守れれば」
「しかし、その程度の甘いプランでは時間がかかるかと?」
「良いんだよ、どうせ暇だし。無駄に気張りすぎるとリバウンドって言ってダイエット前よりも太ってしまう現象に陥る」
「しかし、それは軟弱な人間が、では?この私が監督すれば脳内麻薬を分泌させて空腹感や満足感を弄ることでダイエットなど簡単ですよ?」
こいつは本当に物騒だ。なぜ古代人はこんな仕様にしたのだろうか?ひょっとしたらこいつは拷問用に造られたのかもしれない。
「ダナー、耳を貸せ」
「はい」
(これは忍のだらけきった生活を更生する良い機会だ)
(なるほど、自堕落な生活を是正することが主で、減量は副というわけですか。理解しました)
そうだ、ダイエットを協力するという名目で忍を真人間に更生する。
理由は簡単、このクズニートがのんきに暮らしてるのは俺のおかげであり、こいつが無職でグダグダしてるのは見ていて腹が立つからだ。たぶん、ニートの母親ってこんな気分なんだろうなぁ……。
▽
「というわけで1時間の水泳だ」
「そのためにわざわざ競泳水着って……」
競泳水着を着た忍がぶうたれる。
着た後に文句を言うのが忍らしい。
しかし、水着を着てると腹部の脂肪がよくわかるな。
ポコンと飛び出ている。
「何を言ってる?ビキニやセパレートみたいな水着で遊泳するつもりか?それじゃ全然カロリーが減らないぞ?」
「いや、ミコトの趣味じゃないの?競泳水着って?」
誤解を招くことを言うな!!
「オタクに人気なスク水じゃなくて競泳水着って点がミコトっぽくて流石だと思う」
まぁな、水泳部の女子ってのは体がだらしなくなくて素晴らしいモノであると思う。
腹部が綺麗なのに胸もきちんとある女性を見るとね、バレー選手とか良いと思う人も多いはず。おっぱいも大事だけど尻や腹も大事だな。スリーサイズなんだから全て重要さ。
バストが大きくても相対的にウエストまで大きくては話にならない、ただのデブじゃないか。
でもチョイデブくらいが丁度良いと言う人も多い。
チョイな、チョイ。
『最近はぽっちゃりが受けてる』と開き直ったメタボは論外だから。
デブ専にしか受けないから。
競泳水着を着てるだけのデブは困る。
水着越しに三段腹が分かるんだよな、俺はデブ専じゃない。
筋肉フェチの女性ってのはこれと同じような感覚なのだろうか?
同類ではないがその辺りは共感する。
「で?プールで何するの?」
「まぁ、プールだから泳ぐわけだ」
「メニューは?」
「お前って全部泳げたっけ?」
「いんや、クロールと平泳ぎだけ。背泳ぎとバタフライは辛い」
「じゃあ、とりあえずクロールで向こうまで泳いで、平泳ぎで帰って来い。合計100mな。100m泳いだら1分休憩してまた100m泳いでを繰り返せ」
「何分?」
「目標は30分な、無理そうだったらちゃんと止めるから」
「へいへ~い」
忍がやる気なさそうに返事をして適当に泳ぐ。
30分だから大丈夫だろう、さらに自分のペースだから死にはしないだろうし、酸素欠乏症になることもないと思う。
一応、救急救命は今では自動車教習の必修科目になっているため人工呼吸や心臓マッサージはできる。
よくあることだが、なぜマンガなどで人工呼吸は合法的に女子とキスするためのイベントみたいに扱われるのだろうか?人工呼吸は人間の命を救う大切な行為である。
人間は5分も呼吸してないと脳障害になる可能性が高いそうだ。
異性だとか同性だとか粘膜接触だとかを考えるような状況ではない。
それをまるでオクラホマミキサーとかで異性とフォークダンスするイベントのように扱われてもなぁ……。心臓マッサージの時に女性の胸を触るとかそんなことを言ってる状況か?紳士的に振舞ってるのかもしれないが、死に掛けてる人間を見殺しにしてしまうかもしれないぞ?
まぁ、訴えられそうという意見はおおむね同意だが……。
痴漢冤罪とかが蔓延している現代社会では女性に訴えられた時点で男性諸君はアウトになってしまう気がする。
等比数列的に増えていく性犯罪から女性『だけ』を守るための過剰な男性差別はどうなのだろうか?
男女差別というのは女性諸君には分からないかもだが、レディースデー云々を抜きにしても、男子トイレや男子更衣室にオバサンが入ってくることなどよくあることだ。
しかし、男が入れば不法侵入としてしょっぴかれる、どんな理由があろうと。
『男だから』という発想は今の時代は通用するだろうか?きっとしないな。
そのうち、ラヴコメ主人公みたいな女子更衣室ハプニングイベントがギャグで済まないような世界が来るかもしれないな。