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勢いだけで東方に来たわけだが、東方のホテルというか宿屋は想像以上のものだった。その壱

 前回のあらすじ、

 ノリと勢いだけで東方にやって来た。

 ノリと勢いだけのこの駄作に相応しい内容とも言えるだろう。

「皆様、こちらです」

 歩くこと小1時間ほどで目的地に到着。

 こんなにかかるなら駅で馬車くらい調達しておくべきだったと軽く後悔。

 そして目的地のホテルは1年前の北方の最高級ホテルと比べると質素であった。

 シロアリが食べている最中のような貫禄がそこにはあった。


 ここに……泊まるの?

「パティ、ここがお前が言ってたホテルなのか?」

「えぇ、そうですが何か問題が?」

「ここはどう見ても庶民風なんだけど?」

「……何か問題が?」

 疑問文に疑問文が返ってくる。

 会話のキャッチボールが出来ていないようである。


「質問を変えよう。なんでこのホテルにしたんだ?」

「安くて良いホテルだからです。ご主人様も日頃から『コストパフォーマンスが良いモノは総合的に良いモノなのだ』と言っているではありませんか?」

「1人当たりの宿泊費は?」

「2万ダラーです」

 微妙に高いだろ!快適じゃなかったら殺すぞ!


「ご安心ください、少なくともご主人様が不便を感じるようなモノではありません」

「随分な自信だな、そう思う根拠は?」

「私の実家ですから」

 公私混同もいい加減にしろよ!!

 ただの実家贔屓じゃねぇか!!


「実家なの?」

 これは忍。

「はい、少なくともあの屋敷で暮らしていた時以上は快適な生活を保障します」

「お風呂は?」

 これも忍。

「天然の露天風呂です」

「ヒャッホー!!」

 くどいようだが、これも忍である。

 しかし天然の露天風呂ね。

 その点は評価しよう。


「食事は?」

 こ(略。

「私の料理がかすむくらいのモノです。お2人に分かるように言えば出会った時の王城の食堂の時のモノと同じくらいのモノと期待していただいても構いません」

 余程美味いようだ。ここまで言って2万ダラーなら十分だ。

 忍は既に涎をダラダラと垂らしている。

 またデブるフラグが立ったな。


「……待て、2万って合計いくらになるんだ?」

 まさか5人で10万ダラーと言うオチはないよな?

「ご安心ください、その辺りは上手く交渉して参りましょう。2部屋3人分のサービスで合計7万ダラーほどでどうですか?ダナーと私の分がそれぞれ5000ずつという計算です。ご主人様達にはダナーが居りますのでその分サービスを減らすことに成功してみせましょう」

 つまり、俺と忍とミドリがそれぞれ2万ずつでダナーとパティが5000ずつか。

 3万ダラーの値切りってか?

 駄メイドにしてはよくやった方である。

 成功したらの話だがな。



「おぉ、パティ。久しぶり」

「久しぶり~」

 なにやら従業員っぽい男性がパティに話しかけ、それにパティも答える。

「元気してた?」

「してた、してた」

 なんだ?この甘い雰囲気は?

 恋人か?まさか恋人なのか?

 こんなポンコツ駄メイドにも恋人できるのか?

 ざけんな!俺より幸せな人間はみんな死んじゃえばいいんだー!


 というわけで、雰囲気クラッシュ!

「パティ、『雑談するな』とは言わないが先に俺たちを部屋に案内してからにしてくれないか?」

「おっと、失礼しました。手続き等はこちらでやっておくので。……セス、こっちの人たちを例の部屋まで。貴族様なので最上のもてなしを」

「あいよ」

 とのことらしく、セスとか言う男の従業員が俺たちを案内する。

 まったく、こういうのは男性じゃなくて女性の方が良いのではないだろうか?

 男なんて裏方だけをやってれば良いのに。

 チェンジ!チェンジ!

 チェンジを要求する!

 美人な仲居さんとか居ませんか!


「では貴族様、こちらのお部屋になります。それではごゆっくりと」

 宿屋の見た目とは裏腹にこの部屋の内装は豪華であった。

 外側のボロさと反比例しているようである。

 良い田舎の知る人ぞ知る名所と言った感じであろう。

 こりゃ日本なら相当高いぞ?

 つっても1人2万って結構な額なのだがな。


 パティが過剰とも思えるほどの自信はこういうことであったのか。

 しかし。

「ちょい待て、この部屋で間違いないのか?」

「はい、何か問題でも?」

 問題しかない、なぜなら1部屋だけなのである。

 あの駄メイドめ!何が2部屋だ!

 次に会ったら文句言ってやる。


「この部屋と同じくらいの良い部屋の空きはないか?」

「『この部屋と同じくらいです』か。3万ダラーをお支払い頂ければ」

「3万?高い、2万にしろ」

「この部屋は通常3万ダラーで提供しているので、その値下げには応じられません」

「2部屋なんだぞ?少しくらい負けるのが筋じゃないか?」

「できません」

 頑固な奴だな、だが相手は『貴族のくせにケチな女だ』と思っているかもしれない。

 ここはパティに任せよう。

 パティが何も出来なかったらその分アイツの給料から少し減らせば良い。


「ちっ、分かった。追加で3万払うから手続きを頼む」

「了解しました」

 丁寧に会釈して従業員は帰って行った。

「ミコト、なんでわざわざ3万も払って別の部屋を頼んだの?」

 忍が不思議そうに訊いてくるから即答してやる。

「お前と同じ部屋で寝たくないからだ。それ以外の理由は特にない」

「中々に酷い理由だね……」

 何を今更。

 正直な話、お前と同じ屋敷で住むのすら嫌なくらいだ。


「ニーニ?ぼくたちとは一緒に寝たくないの?」

「そうなるな」

 また涙目になった。

 しかし、ここで落ちるミコトさんではないのである。

「ミドリ、男には逃げねばならぬ時もあるのである」

「ニーニ、女じゃん?」

「俺は男だ!」

 ビクッと怯えるミドリ。

 ちょっとやり過ぎたかな?


「ミドリ、ミコト様にはミコト様の都合があるのです。聞き分けしましょう。別にミコト様は寝る時以外の時間を共にしたくないと言ったわけではないですから」

「え!?本当?」

 ダナーの言葉を聞いて目をキラキラさせながらミドリが俺に質問してきた。

 やばいな……スマホでエロ動画をひっそりと見るつもりだったから1人部屋を希望したとは死んでも言えないな。

 エロ動画は深夜の楽しみにとっておこう。


「ま、まぁな。お前が寝るまでは同じ部屋で遊ぶさ」

「ニーニ、大好き♪」

 足にしがみ付いてきた。

 全く、可愛らしい。

 ロリコンには目覚めないだろうかと怖い。


 気付いたら忍がこちらをジト目で睨んでいた。

「忍?どうした?」

「いや、別に。嫉妬しているだけだよ」

 『別に』じゃなくね?

「ただ一言だけ言わせて貰うよ。襲うんじゃねぇぞ?性的な意味で」

 誰が襲うか!!!!

 俺は幼児に手を出す性犯罪者じゃねぇぞ!!!!

「ははは、心配なんてしてないさ」

 目が語ってんぞ!

 絶対に俺がそういうことをやると思ってんだろ!!

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