大公閣下をぶちのめすことに決まったので、とりあえず東方へ
前回のあらすじ、
とりあえずカオルーン公爵とルーティトリルディ大公を虐めてみようかと思った。
「というわけで議会を開きたいと思います」
昼食で全員がリビングに集まったところで俺は発言する。
「何が『というわけで』なのか質問したいんだけど?」
「色々あったのですよ、お嬢様が起きる前に」
俺の突然の発言に疑問を抱いた忍にパティが軽く説明する。
「そなんだ。で?何について?」
「カオルーン公爵とルーティトリルディ大公のどちらを先に虐めるかだ」
「……どちらも虐めることは確定事項なんだ。とりあえずボクが起きる前にどんなことが有ったのか詳しく教えてほしいな」
仕方ないので、適当に要点だけを説明してやった。
「……カオルーン公爵さんはとばっちりじゃない?」
「すでに一度カモったんだ。二回も対して変わらないさ」
「いや、変わるでしょ」
文句があるようだが、ぶっちゃけ聞くつもりなどない。
こいつは古代遺跡以外で使えるとは思えないし。
「とばっちりかは置いておいて、あの股ゆるクソビッチの親であるルーティトリルディ大公で良いのではないですか?マスター」
どうやらダナーもあのペテルラルカの代名詞が股ゆるクソビッチになったようだ。
「ミシェルは?」
(異議なし)
食い気味に即答した。
「パティは……聞くまでもないな。満場一致でルーティトリルディ大公で決まりか」
「さすがに意見を述べる権利がないのはしゃくですが……どうせ拒否権はないので構いません」
良く分かっているじゃないか、保身が大事なら勝手に捨石にして構わんさ。ま、保身に走るような展開はないが。
あ、蛇足とは思うが、ミドリにもその辺の発言権はない。
まだ参考になるであろう発言するだけの思考力が備わっていないと判断したからである。
「方針が決まったのでどうやって潰すのかを考えようか」
「マスター、その前にカオルーン公爵を倒した手段を教えてもらいたいのですが?」
とのことなのでダナーに説明してやったのだが、
「ゆ、幽霊?幽霊が実在……?はっはっは、何を仰っているのですか。冗談は止めてくださいよ。ふふっ」
爆笑された。ダナーのこんな爆笑は見たことがない……。
「お前も信じていないのですか?」
「もちろんです。世界の事象は全て科学的に考証することができます。いくらなんでも幽霊なんて……」
ここでミシェルがバスケットからリンゴを手にとってダナーに投げつけた。
無論、あのダナーである。何かの動作センサーか何かがあるのか、視界外からの攻撃にもかかわらず野球のライナーを反射的に捕る内野手のように簡単にキャッチした。だが、彼女の頭はオーバーヒートしていた。
「あ、有り得ない……。
存在しない物理量が勝手に仕事した……?
なんで? なんでなんでなんで?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで…………
ぴがぁー!!!?」
何やら脳がバグったように喋ったと思ったら悲鳴を上げて倒れた。
どうやら思考回路がショートしたようである。
26世紀末の技術ですら幽霊の存在は証明できていないらしい。
「世の中と言うモノは広いですね。ダナーでも理解できないことがあるとは」
うん、俺も同じようなことを思った。
今回ばかりはポンコツと同意権。
「ダナーのことは放置するとして、パティ、ルーティトリルディ大公は東方で何をしているか分かるか?」
「ルーティトリルディ大公ですか……確か賭博をしていたと思います」
「賭博?賭けポーカーか?」
それで勝つのは難しい。負けることはないとしても相手もこっちを警戒しているだろうし。
「いえ、格闘勝負です。勝負している挌闘家のどちらが勝つかを賭けるというシンプルな内容です」
シンプルな内容だが、物騒な内容だな。
トトカルチョって言うんだっけ?
というかこの内容じゃルーティトリルディ大公を倒すのって不可能じゃないか?
普通の遊技場、カジノみたいな感じならまだしもこの手の掛け金に応じて配当率が変動するものはどうやっても胴元が儲かるようになっている。儲からなかったら大変だからな。
「ミコト、その賭けでどうやって勝つつもり?」
「一番確実なのは八百長だな。参加している挌闘家を買収してこちらが儲かるようにすれば良いのだが……」
(その程度のことは他の人も考えてそうだよね。多分、対策もされてるだろうし)
「その通り。だから勝つにはそのまま物理的に勝つ方法が望ましい。ルールが簡単だから方法も簡単になる」
「具体的にどうするの?」
「ダナーを潜入させて他の挌闘家を倒してしまえば良い。そしてダナーに大金を賭け続ければこちらが勝てる」
この作戦は問題なく潰せる。
ダナーが本気を出せば同条件の人間に負けるわけがない。
「そんな簡単にことが運べば良いけどね」
その一言で嫌な未来を不安してしまった。
▽
そんな流れで俺達6人は善は急げ汽車に乗って東方に向かった。
ダナーは無賃乗車の上に何やら妙な装置で汽車の運動エネルギー利用して発電を試みていた。
「ミコト、これって普通に犯罪だよね?」
「気にするな。たかが1人分だ」
「そうやって特別扱いしたりすると他も認めないといけなくなるってよく言うじゃん?」
「ダナーはバレてないからその辺とは違う」
「最低だね」
「何とでも言え、そのうち鉄道を運営してる奴等を買収してRPGみたいに自由に乗れるようにするって言う野望があるんだから。」
「そんな大規模でありながら小さい野望があったんだ」
忍が言葉を失っているようだが気にしない、気にしない。
俺は大公と戦いに行くのだ。
鉄道会社くらい買収できなくてどうする?
買収と言っても永久無料パスみたいなものを手に入れるつもりだから。
乗車して十数分後、ダナーが帰ってきた。
「どうした?なんで戻ってきた?」
「想像以上に効率が悪かったので」
ありゃりゃ、そりゃ仕方ないな。
戻ってくるって事は相当残念な収穫量だったのだろう。
数学的に言えば0に近似できるくらいの微量だったのかな?
「ふわぁっ……退屈……」
「ニーニ!チェスしよ♪」
退屈そうに欠伸をしているとミドリがチェスをやろうと誘ってくれる。
「あぁ、良いぞ」
退屈でスマホで音楽聴きながら電子書籍でも読もうかと思ってたし、ちょうど良い暇つぶしである。
▽
チェス開始から数分後。
「チェック(将棋で言う王手)」
圧倒的大差で俺の勝利がほぼ確定しだした。
「うぅ……」
あ、やば、ミドリが泣き出した。
「子供相手に大人気ないよね」
「いやはや、ここまで器の小さいお方とは思っておりませんでした」
バカとポンコツのBPコンビが俺にえげつない皮肉を言い出した。
こいつらは俺に恨みでもあるのだろうか?
(大丈夫、勝負の世界は常に非情。甘やかすことは愛とは限らない。だからミコト君の選択は正しいと思うよ)
ミシェルがフォローしてくれる。
その通りだと思って本気だしたのだが、マジ泣きされると心が痛い。
しかしBPの二人は使えない。
ミシェルの方はミドリには認識できない。
俺が手加減すれば良いかもだが、それでは本末転倒である。
となると、ここで役に立つのはダナーしか居ない。
俺はダナーにアイコンタクトとして目をパチパチとウインクする。
気付け!俺の真意に!
「ミドリ、キングを右斜め後ろに」
「あ、うん」
流石!これだけで全てを理解してくれるとは!
テレパシーとか使えるの?それでも良いけど。
「ルークを左に4マス移動させて」
「……うん」
ここでダナーが本気で俺を倒すのならば変に加減する必要はない。
普通に攻めれば良い。
「そこでナイトでクイーンを倒す」
「うん!」
ダナーがミドリに助言し出して数順後、完全に形勢は逆転していた。
「はい、ビショップを右斜め前に5マス移動させて詰み」
「チェックメイト!!」
ミドリが勝利を噛み締めて高らかに勝利宣言をする。
これで『子供相手に本気になって勝利する大人気ない負けず嫌い』と言う不名誉な称号の拝命はさけられた。
▽
ルーティトリルディ大公が経営している賭博場というか格闘場の最寄り駅に到着。
北方遺跡に比べると移動時間が全然かからなかった。
いつも2時間も馬で移動しているのでもう時間がかかるのなんて慣れているため、ものすごく早く感じる。
「ふぅ……さて、勢いだけでここまで来たがどうしようか?」
もちろん、寝床の話である。
「勢いだけでこんなところまで来ようと思うその勢いだけは凄いと思うよ」
忍も溜息を吐いている。
今回ばかりは認めよう。
反省している。後悔はおそらくしていない。
「問題ありません、この辺りに宿泊費が安くてサービスの良い最上のホテルを存じて居ます。ご案内いたしましょう」
「ナイス!」
おや、珍しく役に立ったな。
しかし、安心は出来ない。
なにせ駄メイドの紹介だ。残念な仕様の可能性も十分存在する。




