りんごあめ
引き続き、陽大×宮崎君で夏祭りです。
りんごあめ
「香君、食べ過ぎだと思うよ」
そんな水結の言葉などなんのその。宮崎は右手にフランクフルト、左手に焼き鳥を五本同時に持って蝕を楽しんでいた。陽大と水結、弥生はマイペースにかき氷を食べている。
「まぁ、好きにすればいいよ」
と陽大はにっこりと笑って、少しずつ苺のかき氷をすくっていく。水結はメロン、弥生は小豆練乳。
と、陽大がそっと弥生の唇の端に触れる。
「えっ?」
弥生がびくんと体を震わせた。
「練乳が付いてた」
小さく笑んで自分の口に含む。
「ちょ、ちょっと、大君っ!!」
「どうしたの?」
「え…いや、何でもないけど」
「そう?」
どことなく含みのある笑み。絶対に確信犯だ、と思う。しかも、悪びれた素振りもなく、悪気ない無垢な顔を作って見せているのだから質が悪い。これで夏目陽大が終わるわけではない、というのは経験によって弥生は悟っている。陽大がすっと、ストロースプーンを差し出した。
「はい」
「え?」
「苺のかき氷もうまいよ?」
「…………」
顔が真っ赤。もうどう言葉にして良いか分からない。口をパクパクさせるが、言葉にならない。いきなりそんな事を言うから心臓に悪い。
「食べたくない?」
さらに意地悪い笑みを浮かべて、かき氷を弄ぶ。
「なら篠倉、食べる?」
「え?」
「え!?」
最初が水結。次に弥生。二人が同時に固まる。食べて幸せを満喫していたる宮崎に至っては、このささやかな喜劇の意味合いにすら気付いていない。
「そういえば弥生、シロップみたいな甘いもの駄目だったもんね? 篠倉どう?」
「え、え、え、え」
「ちょ、ちょ、ちょ」
同じく最初が水結で、慌てふためいている後者が弥生。最早、陽大の彼女としての威厳確保にまで関わってくる。
「でもな、篠倉、小食だしね。まだ綿飴とかも食べたいよね?」
「え、あ、うん」
「うん!」
安堵の息をつく水結と深く安心の息を漏らす弥生と。
「宮崎」
「ん? なに、委員長?」
「かき氷も食べてみろよ?」
「おっ、サンキュー」
「えーーーーーーーーーーーーーー!!」
女性陣の強く激しいブーイングもむなしく、宮崎の口の中にかき氷は溶けていく。
「委員長もこれ食べないか?」
と焼き鳥を差し出す。
「有り難う、宮崎」
と食べたのは、食いかけの方のフランクフルトだった。
「なんだ、委員長、フランクが好きなの?」
「まぁ、ね」
とこれまた意味深げに、にっと水結に笑う。
「香君っ!!」
鬼気迫る表情で、水結が言う。
「へ?」
「私も食べたいっ」
「は?」
「そっちの焼き鳥っ」
「あ、え? あ、うん」
「いただきますっ!」
と食いかけの方の焼き鳥に齧り付く。
「水結のかき氷もくれよ」
「え…」
「駄目?」
香の無垢な問いに、水結は無言で頸を大きく横に振る。そっと水結は紙コップを差し出した。無邪気に、水結のストロースプーンで、香は頬張る。
「水結のも美味いなぁ」
と呑気に言う。
「なぁ委員長?」
「うん?」
「こうやってみんなで騒いでいられるから、美味しいんだよな?」
「だね」
いつの間にか弥生と手を繋ぎながら、陽大は小さく頷く。
「宮崎、僕たちは向こうで林檎飴買ってくるから」
そう言って、弥生の手を引いてとっとと歩き出す。取り残された宮崎と水結は、迷子になったような子どものような表情を見せるていた。
「今日の大君は意地悪だ」
弥生は軽く陽大の脇腹をつねった。たいして痛くもないのに、陽大は顔をしかめてみせる。
「まぁ、たまにはお祭り気分もいいんじゃない?」
「そういう問題じゃないってば!」
「じゃあ、どういう問題?」
「それは…だから…その……」
「ん?」
「あまりドキドキさせるな、って────」
と言おうとした弥生の唇に陽大は自分の唇を重ねた。
時間が止まる。
止まった。
何も考えられなくなった。
その瞬間、また時間が動き出して、陽大はすでに弥生から離れていた。心臓の鼓動が、鼓動が、鼓動が、とまらない────。
「おじさん、林檎飴、二つ」
とすでに陽大は注文している。
弥生は後ろを振り返る。
水結が勇気を出して、宮崎と手を繋いでいるところだった。
「はい」
陽大が優しく微笑みながら、林檎飴を渡す。弥生の方から陽大の手を握る。うつむきながら、林檎飴を舐める。
「大君」
「え?」
「甘いでしょ?」」
「うん」
「私のも甘いよ」
「え?」
花火が、空を染めた。真紅に。それは一瞬にして消える。
「大君はそうやって、いつも私にスイッチをいれるっ」
「うん。その前に弥生にスイッチを入れられているんだけどね」
「責任とって」
「いつでも、仰せのままに」
すっと二人はお互いの距離を一瞬近づけて、そして離れた。
そしてどっちがどっちでもなく、走り出す。お互い浴衣姿なので、全力疾走という訳にはいかないが。
「委員長、遅いぞー」
と宮崎はすっかりと食べ物を胃袋におさめて、水結と手を繋いでいる。多分、どちかと言うと、水結が勇気を振り絞ってと思われるが。
花火が空に舞う。赤青黄色、広がっては散り、散っては打ち上がり。
「うん」
陽大はにっこりと頷いた。弥生は小さく頷く。水結の顔は赤い。宮崎と手と手が繋がっている、それだけで理性を保つのに必死らしい。まぁ、それでも、と陽大は思う。この二人にしては確かに前進してるんじゃないの? と。
「委員長」
「ん?」
「さっき、弥生ちゃんに顔近づけて、何の話してたんだ?」
「…………」
「…………」
「…………」
しっかりと見ていたのか。水結の赤面はそっちをしっかりと見ていたからか。弥生は今度こそ言葉にならず顔を真っ赤にしてパニック状態になっている。まぁ、それがまた可愛いんだけど、とほくそ笑んだ。
「内緒だよ」
平然と陽大は言って微笑んだ。花火が舞い上がる。空を、そして頬を、心の中まで色に染めて。
「私も……」
水結がぼそりと呟く。
「え?」
「聞きたいです。何の話していたのか。仲間はずれはイヤです」
と水結は満面の笑みで聞き返す。
「どうする?」
とクスクス笑いながら、陽大は弥生に聞いた。
「僕は仰せのままにしただけなんだけど?」
「ず、ずるーいっっ!」
「何が?」
宮崎だけが、意味を理解していない。陽大は林檎飴を舐めながら、ただ小さな微笑を浮かべていた。
花火が上がる。それぞれの感情を染め上げて。
花火がそして消える。それぞれの感情を残して。
花火がまた打ち上がる。このまま時間を止めてしまいたいという気持ちを乗せて、強く強く、明るく輝いて。そして消えて。また輝いては消えて。時間は今、こうして確かに流れて。その時間の中で、こうやって背伸びして、それぞれの距離を縮めたくて。それだけの為に足掻いて、藻掻いて。
「宮崎」
「うん? なに委員長?」
「また来年もみんなで来たいね」
陽大の言葉にみんなが大きく頷くいて────最後の花火が、まるで天の川のように一斉に輝いて────そして消えた。
陽大と弥生の感じが書いていてニヤニヤだった事を覚えてます(変な人だって、それ)
宮崎君×水結ちゃんサイドのお話がコラボ相手のDSさんのサイトにあり。一応URLをコピペしときます。
http://extra.private.coocan.jp/high_school/high03-2.htm
こういう風に作れるDSさんがスゴイなぁ、と当時ただただ感心してました。
現在ストックのあるこの陽大高校生シリーズは次回で一旦休止です。
んでは!




