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チョコレートにこめた奇跡

前回に引き続き、陽大×宮崎君。季節外れというか在庫一掃セールにも近い感じで、バレンタインモノです(笑) 今回からは1話完結。

 図書館を待合室がわりにされるのも悪くはないな、と陽大は思う。ヴァレンタインデーだ、なおさら。そういう生徒は結構多い。今も【医学】の分類の本棚の陰で、女の子が男の子にチョコを渡しているのが見えた。男の子はにっこりと頷いている。そちらはハッピーエンドかな? よかったよかった。


 心地よい沈黙、カウンターの向こう側の特等席で、篠倉が少し落ち着きのない顔で、北欧神話完訳版を読んでいる。しかし、それがちゃんと頭に入ってきているのかは怪しいところだ。多分、頭の中には待ち人である宮崎の溌剌とした笑顔だけがあるに違いない。時折、膝の上に乗せたチョコレートを確かめながら。


 学内の暴走機関車、と勝手に陽大が名付けた宮崎香。天真爛漫で、自然体で誰に対しても公平に手を差し伸べるお人好し。別名、便利屋。その便利屋の片棒を陽大は担がされているわけだが。


 新聞部の一記者である篠倉水結と図書委員長である陽大は、宮崎繋がり以外でもパイプがある。新聞部は、部室とは別に図書室の書庫を根城にしているからだ。何より、この高校に関する資料のすべてが図書館には揃う。大抵の情報は、陽大の手にかかれば、あっさりと探し当てられるのだから、新聞部としても陽大麾下の図書委員会との連携は必至なのだ。


 まぁ篠倉であれば、頼まれなくても手は貸すけどね。


 にっこりと笑む。


 と言うよりだ。手を貸さざる得ない。篠倉が困れば、宮崎が出てくる。宮崎が困れば、篠倉が出てくる。二人が困ると、陽大と弥生の元に訪れる。


 しかし、と思う。お互い、とんでも無い相手を好きになったじゃないか。


 宮崎は宮崎で、前述した通りの暴走機関車。一方の篠倉は人を憎むことが無いんじゃないかと言うくらい、みんなに優しく、困った人がいたらそれが自分に損であっても労を惜しまない。そんな二人だから、厄介事は常に舞い込んでくる。


(やれやれ)


 陽大は笑む。そんな距離の近い二人が、まるで自分達の気持ちに気付いていないのだ。いや、篠倉は気付いているな。ようやく、気付いたんだろう。


「篠倉」


「は、はい?」


 びくんととして顔を上げる。体がこちこちだよ。それじゃ、チョコは上手く渡せないぞ?


「今年は宮崎、チョコあまり貰えてないみたいだね」


「そうなんですか?」


 何故か、ほっと安心したような表情。素直になったもんだよ、と思う。次にすぐ表情が曇るのだから。


「でも、いくらかは貰っていたんですよね?」


「まぁも本命か義理かは分からないけどね」


 クスクス笑んで言う。弥生がいたら、きっとイジメすぎと言うに違いない。篠倉の表情がさらに曇る。本命か義理か。しかし、これ以上の本命はいらない、そう顔に書いてある。はっきりと、強く強く。そこからさらに言葉となって出てこないところが、篠倉の弱い所ではあるのかもしれない。


 まぁ自分の気持ちに素直に向き合うという事は何より難しい。それが出来たら、誰だって恋に悩んだりはしない。しかし────宮崎と篠倉の場合は論外だ。誰が見てもお似合いなのに、本人達が自分たちの気持ちに気付いていない。恋だの好きだの、それ以前の問題である。それでいて、誰より相手の事を必要としているのだからこっちがもどかしい。


「あの委員長さん?」


「なに?」


「もし委員長さん、弥生ちゃんに他の男の人が好きだ、って言ってきたらどうします?」


「徹底的に排除」


 さらっと言ってのける。弥生ならきっと実力行使と言うに違い無い。


「私は、そんな事は言えないなぁ」


「どうして?」


「だってその人だって、とことん考えて気持ちを伝える訳だもん」


 それが篠倉の悪い癖なんだよ、と陽大は心の中で呟いた。そして、ふと思いつく。少し、意地悪な質問をしてみよう。


「なら聞くけど、相手が真剣で宮崎と一緒にいられなきゃ死ぬって程思い詰めていたら、篠倉は諦められるんだね?」


「…………」


「次の日から宮崎の隣に他の女の子が居ても、篠倉は平気なんだね?」


「そんなのイヤですっ!」


 はっきりとした声、はっきりとした意志で、篠倉は立ち上がって言う。すでに涙目になっている。罪悪感より微笑ましさの方が強い。随分素直だな、と微苦笑する。あと一歩、その一歩が足りない。一年前の篠倉なら赤面して、分からないです、と俯くのがせいぜいだったろう。篠倉が素直になるのと反比例して宮崎のチョコの数が減っていった、という統計を出した図書委員の一人のレポートを思い出す。


 篠倉マジック────。


 篠倉の一挙一動は、実は本人が思う以上に影響力が強い。鈍感な二人を応援しようというムーブメントになっているのはさて置くとしても、篠倉の優しさは人を動かす力がある。宮崎の影のようであるが、そうじゃない。篠倉が居るから宮崎は動く。宮崎は篠倉のために動く。そこにお節介は無い。純粋に篠倉を想って動くからこそ、暴走機関車を止める事は誰にも出来ない。


 と図書室に毎度のように雪崩れ込んでくる男が一人、噂をすればなんとやらだ。その後ろに弥生がゆっくりとした足取りで続く。今までの表情が嘘のように、篠倉は宮崎の元へ駆け寄った。


「やれやれ、青春だね」


「おじさんくさいぞ、大君」


 弥生は苦笑しつつ、誰にも見られないように、紙包みを手渡す。


「ん?」


「大君の方が料理上手なのは知ってるけど、今日は素直に受け取って」


「そんな事ないよ」


 と陽大は囁き返した。


「ありがとう、嬉しいよ」


「ん、うん…」


 いざそう言われると、赤面してしまう。


 一方の篠倉は意を決して自分のチョコを宮崎に渡そうとして────宮崎が持っていた小さな箱に目をつけて動作が止まった。


「あ」


 陽大と弥生はそれを見て同時に声を上げる。弥生があげた義理チョコであるが、タイミング的には最悪である。


 (何で持ってるー!)


 (隠しなさいよっ!)


 二人の同時の叫び。しかし、すでに遅い。ひょい、と篠倉はチョコの包みを取り上げる。


「あ、氷結ミユウ?」


 篠倉はにっこりと宮崎に笑いかけて、包装をほどいて小さな手作りチョコをとっとと自分の口の中に放り込んでしまう。


 陽大も弥生も目を点にさせた。


「あー、水結、辻さんから折角もらったのに、ひどいっ!」


「はい」


 ポンと篠倉手製のチョコレートを渡す。にっこりと、これでもかと言うくらい満面の笑顔を浮かべて。


「私のを食べて?」


 にっこりと、でも少し頬を紅潮させながら。宮崎も少し、視線を逸らしつつでも篠倉の事をしっかりと見ながら。


 女の子はいつまでも子どもじゃないか。陽大はクスクス笑った。


「思い出すね」


「何が?」


「弥生が、去年、僕のもらったチョコを全部食い尽くした事」


「……大君、それ恥ずかしい。忘れてよ……」


「100個以上のチョコを一気に食べて、腹痛になってね」


「だからぁ!」


 弥生は真っ赤になってそっぽを向いた。陽大はカラカラ笑う。


「そんなにチョコもらう大君が悪いっ!」


「好意は好意として受け取ったまでさ」


「それで他の子が本気になったらどーするのよ」


「ならないよ」


「分かんないじゃない、ヴァレンタインは女の子が奇跡をチョコレートにこめるんだから」


「OLの七割は不要に思ってるらしいけど?」


「身も蓋もないよ」


 と弥生は大きくため息をつく。


「だって」


 陽大はまたクスクス笑う。


「チョコもらっても、弥生と二人で食べるね、って言ってるから」


「はぁ?」


 弥生は大きく項垂れた。陽大の人気は高いだけに、その彼女というだけで波風が立つのに。

 少しは私の立場も考えろ、と怒鳴ってやりたいが、陽大には何を言っても何処吹く風だ。


「宮崎ー」


「な、なんだよ、委員長?」


 頬が朱色に染まっている。宮崎自身も、お互いの気持ちに気付き始めているという事なのかもしれない。 


「別にどうだこうだと言うつもりはないけど、いちゃつくなら奥の方で見えないようにしろよ」


 ニヤニヤ笑って言う。宮崎と篠倉は真っ赤になって俯いて、反論すらできない。


「大君、からかいすぎ」


「はいはい」


 さも楽しそうに唇の端に笑みをたたえる。


 と遊んでる場合でも無いのだが。新刊図書の整理は全然進んでないし、データベースの補完もしないといけない。だが、まぁ今日ぐらいはいいじゃないか、と思う。


 ヴァレンタインは女の子がチョコレートに奇跡を込める。


 それならば、もう少しだけ奇跡があってもいいんじゃないか?


 篠倉がもっともっと宮崎に距離を近づけようとしていて、でも気恥ずかしさに負けそうになっている姿を見ながら、陽大はやっぱりこみ上げてくる笑みが止まらなかった。


季節外れですいません。でも来年の2月まで待つのも姑息だなぁ、とw

【private bomba】DSさんとの共著短編です。実は僕が書いたパートは後編にあたりまして、DSさんパートは、前編・中編があったりします。さらに書くと僕のが先で、DSさんが前編・中編として肉付けしてくれた、と。あの人恐るべしですよ。

まぁ、そういう感じでのコラボは後一作品、僕が好き勝手に書いた作品が1作品で平常運行に戻ろうかと思います。それでは!

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