第9話 その常識をぶち壊す
あれから協議した結果、俺はソフィアとのペアを組むことにした。
ペアを組むことによる俺のメリットは、パートナーがAランクだということだ。
ソフィアを押し退けてまで俺を勧誘する奴はそう多くないだろう、なので俺に対する勧誘が無くなることと同義になる。
デメリットとして挙げられるのは、俺が来訪者であることや能力の一部を教えなければならないことだ。
これについては対応というか、彼女にも得のある提案をするつもりなので何とかなるだろう。
今俺たちが居るのは、ソフィアが泊まっている宿だ。
「払っていたお金がもったいない!」という彼女の意向により、数日の間は俺もこの宿を利用することになる。
当然だが部屋は別ですよ? ・・・チクショウ。
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朝、俺たちは食堂でこの宿最後の食事をしている。
「家賃無料の一軒家ねぇ・・・そんな物件がホントにあるのかしら?」
俺はここ数日の間に、ソフィアに拠点の事を伝えていた。
無論、教えたのはその存在だけであり、たどり着くには空間魔法が必要な事はまだ伝えてない。
「信じられないだろうけどね。そこに着いたらソフィアには伝えなくちゃならない事もある」
「・・・わかったわ、準備が出来次第ここを出ましょう」
女将さんに挨拶をし、宿を出る。
ソフィアに魔法を使うことを話し、了承を得たので例の【完全隠蔽】を発動する。
何か言いたそうな彼女を無視して手を引き、例の空き地まで行く。
サーチを行い、周囲に人が居ないことも確認済みだ。
そのままゲートを作成し、さっさと入ってしまう。
「到着しました」
ソフィアは何が起きたか解らないようで、ポカーンとしている。
気持ちは分からなくも無いがなー・・・あ、意識がハッキリしてきたっぽい。
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私の容姿の造形は、ハーフエルフなことを考慮しても美人に分類されるらしい。
これについては両親に感謝するが、街を歩いていると不要なほど注目を浴びてしまう。
そんな私が男性に手を引かれ、人が行き交う通りを歩いているのに視線の一つも感じない。
シンが「ちょっと魔法を使うから、喋らないでね」というので黙っているが、こんな魔法は聞いたこともない。
今私の手を引いている彼は、一体何者なのだろうか。
最初のきっかけは、先日の決闘で彼が見せたあの身体強化。
それを扱えるということは、緻密な魔力操作に長けているということだ。
だが彼は、試合では最後の手刀でしか攻撃をしていなかった。
つまり武器と魔法を解禁すれば、さらに高い戦闘力を発揮することに直結する。
話をしてみたところ、人柄も悪くないことが分かった。
試しにペアを組むことを提案してみたら、意外なことに了承してくれた。
私としても、人格も問題ない実力者とペアを組めることに不満はないので良しとしている。
ランクの差はあるが彼の実力なら、そう遠くない内に私と同格まで上がってくるだろう。
考えを巡らせていると、到着したのは空き地だ。
一瞬の間の後、私の目の前には見たこともない建築物が存在している。
「到着しました」
私の中の常識は彼によって蹂躙された。
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「あれは何?」
「俺の家」
「ここは何処?」
「俺が作った空間」
「・・・アナタは何者?」
「来訪者。とりあえず中に入ろうよ」
「・・・そうね」
ソフィアを連れて家に入り、そのまま家の各所を案内する。
それに合わせて俺の能力の一部についても説明した。
「創造魔法ってスゴいのね・・・こんな家まで建てれるなんて」
「余計なトラブルは勘弁なんでな。誰かに教えるなんて事は止してくれよ」
「そこは分かってるわ。それにしてもお風呂やトイレもあるし、キッチンも広い。暗くなっても快適に過ごせる。こんな家を知ったら宿屋には戻れないわね」
「じゃあ?」
「ええ、私もここに住ませてもらうわ。よろしくね!」
美人との同居キター!
「ならこれを渡しとくよ」
「腕輪?」
「こんな事もあろうかと準備してたアイテムだ」
そして説明を加える。
・現実空間とこの場所とを繋ぐゲートを利用可能
・個人用アイテムボックス機能
・念話機能
・その他諸々
・各種機能の利用は最初の登録者に限る
こんなもんだ。
「あ、有り難いけど、こんな高価なもの貰っても良いの?」
「まあ、創造の産物なんで」
「来訪者って誰も彼もアナタのようにデタラメな存在なのかしら?」
「そんなことは無いと思うけどな。俺って自分で言うのもアレだけど、イレギュラーな存在だし」
「自覚はあったのね」
「まあな。それより、ソフィアは私室にどの部屋を使う?」
「ちょっと見せて。2階の空いてる部屋よね?」
「奥の鍵が掛かってるのが俺の部屋だから。空けれる部屋ならどれでもいいぞ。決めたら部屋の中からドアノブに腕輪を接触させれば、鍵を掛けれるようになるから」
「わかった!」
ソフィアが数有る部屋の中から選んだのは、俺の隣の部屋だった。
実は他の部屋よりちょっとだけ広いのだが、そこに気付いたのか?
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戻ってきたソフィアといろいろ話をしていると、内容が武器についてになった。
「シンの武器は今装備してるので全部なの?」
「ボックスの中にまだあるよ。見る?」
「連携の問題もあるし、使ってる所も見たいかな」
「なら家の裏に行くか」
そうして俺たちがやってきたのは家の裏。
ただしここは・・・
「どうして此処ら一帯だけ荒れ地になってるのか聞いても良いかしら?」
家の周囲には森が生い茂り、緑が広がっているのだがここだけは例外となっている。
「見れば分かるよ」
俺はソフィアの前で各種武器を一通り扱って見せた。
結果、荒れ地は見事な焦土に進化しました。
「アレでもフルパワーじゃないから」
誤解されてもいけないので、キチンと伝えておく。
「・・・パワーは押さえれるのよね?」
「当然」
「分かってると思うけど、あんなのを見せられたら良からぬ事を企てる人も出てくるわ。使うとしても加減が必要よ」
「了解」
「それらの武器も創造の産物でいいのかしら?」
「ああ、そうだ。ソフィアにも何か作る?」
「頼んでもいいかな」
「任せとけ!」
家に戻りソフィアの話を聞くと、彼女はエルフの血が流れていることもあり弓の扱いに長けているようだ。
だが、弓を扱う上で避けて通れない矢の調達の問題があり、それをどうにかできないかという事だ。
なので俺の各種武器をベースに、魔力を矢にして放つことが可能な弓を作成した。
魔力に属性を込める事で、属性付与もできる。
弓本体の強度も高いので、不意に接近されても鈍器として扱える。
また、接近戦用の剣と多目的ナイフも作成した。
剣の方は彼女の意向により、軽さ重視で片手でも扱えるように調整。
多目的ナイフは文字通りだが俺も使うことも考え複製しておき、互いのボックスに複数常備可能にしておく。
ナイフ以外には所有者登録をしておいた。
これで武器が他人に悪用されることも無いだろう。
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完成した武器を渡したところ、彼女の想像以上の出来だったらしく、家の裏には新しい荒れ地が増えてしまった。
まあ、俺が生み出した焦土と比較すれば可愛い物だ。
整備すればいいから問題ないしね。
夕食を食べながら俺達は今後の方針について話をしている。
「私としては、シンには早くランクアップして欲しい。だから難易度の高い依頼を受けようよ」
ソフィアの言う難易度の高い依頼というのは、Bランクの依頼だ。
本来なら自分のランク以上の依頼を受ける事は出来ない。
ペアやチームを組むことでメンバーの平均ランクの依頼を受けることが可能になる、とのことだ。
彼女の案を受けても良いのだが、俺にもある考えがある。
「ソフィア、ダンジョンに行かないか?」
主人公のチート能力は作成したアイテムにより、他人でも一部使用可能になります。
まあ、使用のための魔力は自前なので人によっては日に数回しか使用できない場合もありますが。
追記:
武器について指摘を頂き修正を行いました。
それに伴って、辻褄が合わなくなった箇所を変更しました。