でぃあ まい ふぁみりー!
とある町のとある住宅街。いつも騒がしいある家は、今日も相変わらず――…
♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜
耳元で鳴り響く目覚まし時計のアラーム。
「ん〜……」
布団を被ったまま目覚ましを止める。もう起きなきゃ……
「……ふぁ〜」
欠伸をしながら起き上がり洗面台へと向かう。
「………」
柚木葵、16歳。正真正銘、男。しかし、どういうわけか外見は可愛らしい女の子。
「はぁ〜……」
鏡を見て溜め息をつく。もはや日課になってしまった。
「あら!おはよう、葵ちゃん。」
鏡越しに後ろを見ると母さんが微笑んでいる。柚木春菜、42歳。元は『超』が付くカリスマモデルだったらしい。………なんでこんなにも似てしまったのだろう。銀の髪も、蒼い瞳も、そして顔も………どうやら俺の遺伝子は90%母さんに偏ってしまったようだ。
「『ちゃん』はやめてくれ……」
「いいじゃない、そんなに可愛いんだもの♪」
と、常にこんな感じだ。母さんは俺を娘の様に扱う。息子の悩みに気づいてほしいよ、まったく。
「はぁ……」
「あら、前髪がハネてるわよ。ふふ、悠くんと同じだわ……やっぱり親子ね〜。」
そう言って俺の前髪をいじりだす母さん。悠くんというのは俺の父さんの事だ。本名は柚木悠。母さんと同い年だ。こんなところ似なくてもいいのに……
「よしできた!」
「なぁ、母さん……」
「なあに?」
屈託なく笑う母さん。俺は鏡を見ながら母さんに言う。
「何で俺の頭、サイドテールになってんだよ!」
俺の髪の毛はリボンで綺麗に右側に結われていた。……あ、可愛いかも……じゃねぇ!
「可愛いからつい♪」
「あの数秒の間にどうやって!って前髪のハネ直ってねえし!」
おもむろにリボンに手をかける。今すぐほどいてやる!
「ダメ!」
「うわっ!?」
突然叫ぶ母さん。
「取ったらダメよ!」
「なんで!」
「取ったら大変な事になるわ!」
真剣な顔の母さん。大変な事?
「そのリボンを取ったら………」
「………」
思わず息を呑む……このリボンを取ったら一体どうなるんだ!?
「それを取ったら………母さん泣いちゃうからね!!!」
俺は迷わずリボンをほどいた。
「おはよう。」
キッチンでは父さんが新聞を読んでいた。
「おはよう父さん。」
「……悠くん……おはよう……」
力なく返事を返す母さん。まさか本当に泣き出すとは……なかなか泣きやまないし。確に大変だったよ。
「………どうした?」
父さんが俺に尋ねる。
「いつもの通りさ……」
「……なるほど」
これだけで父さんは理解してくれたらしい。というかいつもの事なのでわかっている。
「葵……いいじゃないか、別に女装くらい。」
「アホか!よくねーよ!」
何を言い出すんだ、この馬鹿親父は!どうやらこの家に味方はいないらしい。
「あぁ春菜……俺たちの息子はいつからこんなにひねくれてしまったんだろう……」
「そうね……昔はあんなに素直だったのに……」
うぜぇ……こんな家庭環境でグレなかった事は奇跡だよ。
「とにかく!女装なんてもう二度とごめん
「葵兄……朝からうるさい……」
言い終わる前に眠そうな声に遮られた。
「あら……雪奈ちゃん、おはよう。」
「………」
無言で椅子に座るとそのまま寝始めた。コイツは柚木雪奈。俺の一歳下の妹だ。俺と同じ銀髪を耳が隠れるくらいに切っている。だが、瞳は父さんと同じ茶色だ。朝は弱いらしく、いつも寝惚けている。
「………」
また無言で起きるとテーブルに並べられていた朝食を食べ始めた。………喋れよ。まあいいや。俺も朝飯食うか。
「あ……そういえば……」
俺の願いが通じたのか、何やら話し始めた。
「どうした?」
「冬姉……今日帰ってくるって。」
「あら、そうなの!?」
「うん、昨日メール来たから。」
「そうか、冬美が帰ってくるのか!」
何やら騒だす家族。ふーん……冬姉がねー……。
「朝一で帰るってさ。」
………冬姉が、帰ってくる!?ま、まずい!早く出かけなければ!
「葵兄……」
「なんだ。」
雪奈はスッと携帯を差し出した。
「……?」
「葵兄にメッセージだって。」
携帯の画面を覗きこむとそこには――…
『明日帰るって母さんたちに言っといて。あ、あと葵にこのメールを見せるよーに。
葵へ
逃げたら殺す♪
じゃ〜ね☆』
………まじで?これじゃあ逃げられねぇ……冬姉はやると言ったらマジでやる。今まで何度殺されかけたか………ていうかなんで俺が居なくちゃならないんだ?やべぇ……めちゃめちゃ嫌な予感がする。また俺の休日が………
朝食を食べ終えて1時間程して、
「たっだいま〜〜!」
玄関に立つその人。少し癖のある長い茶髪に蒼い瞳……俺の実の姉がそこにいた。あー……ついに魔王、もとい冬姉が帰ってきた。
「冬美ちゃんおかえり。」
「ただいま!母さん、父さん、雪奈。」
あれ、俺は?
「よしよし。ちゃんと居るな。」
冬姉は俺を見て笑みを浮かべている。……マジで恐い。
「お仕事どうだった?」
冬姉に朝食を出しながら母さんが聞く。
「うん、絶好調!この前の雑誌で評判よくてさ、今度は表紙にしてくれるって!」
「凄いじゃないか!」
「うん!ありがとう父さん。」
冬姉……柚木冬美はモデルをやっていて、今年で24になる。カリスマモデルだった母さんの娘ということで業界では結構注目されているらしい。
「その雑誌で私の特集組んでくれるらしいんだ〜!」
「へぇー凄いじゃん、冬姉!」
雪奈が相槌をうつ。
「それでねー…」
「……?」
チラッと俺と雪奈に目をやる冬姉。
「私の妹達を連れて来ますって言っちゃった☆一緒に撮ってくれるって♪」
「本当!?私も写れるの!?」
話に食い付く雪奈。………妹……達!?
「冬姉……まさか、まさかとは思うけど……妹達って、俺も……」
「もちろん入ってるわよ。」
「まあ!ついに葵ちゃんも雑誌デビューかしら!」
母さん何言ってんの!?
「なんで!?なんで俺まで!?」
「その反応が見たかったから♪」
あ、悪魔………
「さあ、母さん!」
「わかってるわ!葵ちゃんの為に買っておいた可愛い洋服達をついに着せる時が来たのね♪」
「何買ってんだーーー!!?」
「雪奈も手伝って!」
「はぁ〜い♪」
くっ!?なんて見事な連携……!
「観念しなさい!」
×3
「い、嫌だーーー!!!」
「きゃ〜可愛い〜!」
「うん、似合う似合う!」
「葵兄、綺麗〜!」
「ぐっ……」
俺の逃走劇は母さんと姉妹の見事な連携によってあっけなく幕を閉じた。あれから俺は無理矢理スタジオまで連れて来られ、着替えさせられただけじゃなく化粧までされた。なんで俺が………
「いや〜3人とも可愛いね〜。流石春菜さんの娘さん達ですね。」
「やだ、佐藤くんたら♪」
この人はカメラマンの佐藤さん。冬姉の専属カメラマンで、昔は母さんを撮っていたらしく、母さんとも親しい。
「特に葵ちゃんだっけ?若い頃の春菜さんを思い出させるよ。」
「……どうも。」
母さんそっくりねぇ……ははははは……うれしくねぇ。
「葵……わかってるよな?」
冬姉がボソボソと俺に言う。
「男だ……とか言ったら帰ってからアレだからね……♪」
「はい……」
怖えぇ!アレって何!?どの仕打ですか!?心当たりが多すぎて……
「じゃあ撮影するよ〜!」
「はぁ〜い♪」
×2
「……はい。」
その後、俺はカメラに向かって愛想笑いを振り撒いた………何でいつもこんな目に……
余談だが、一ヶ月後に発売されたこの雑誌は過去最高の売り上げを記録したらしい。………複雑だ。
後日談
「葵兄、あの雑誌めちゃくちゃ売れたらしいよ。」
「……そりゃ良かったな。」
「葵!雪奈!」
「なんだよ冬姉。」
「あの特集の写真、かなり好評だったからまた来てほしいってさ。ほら行くよ!」
「嫌だよ!」
「あんたに拒否権は無い。」
「……もう、やだ。」
END
どうも、明日はテストなぺたです。今回は葵の家庭内での出来事です。お父さん、あんまり出て来てない!まあいいや(いいのか?)。できれば評価、感想のほうをお願いします。それではまた!