2.朝靄の出会い
楽に小説移せる方法ってないのかな…
ランキングタグの付け方分からない(笑)
何かが近くにいる気がして、シイカは夢から覚めた。多分でかい何かがいる。すんすんと鼻を鳴らすような音が聞こえる。
重いまぶたをゆっくり持ち上げたシイカのすぐ目の前に……
……大きな顔があった。「うわわわわわわっ!!!」 シイカはびっくりし過ぎて、思わず大声を上げた。向こうもそれに驚いて、後ろに飛び退く。今日は晴れていたので、朝日が謎の人物を照らす。
その人物の姿を見て、シイカは自分の目を疑った。
「えっ……嘘……」思わず声が掠れる。
地面に四つん這いになってこちらを見る人物は……村の話に伝わる怪物そのままだった。
人間の軽く5倍くらいはあろうかという身体の大きさ。全身が純白の長い毛で覆われ、さらに同じような感じでふさふさの物凄く大きな尻尾が生えている。真っ白な体毛と同じく、白く腰あたりまで伸びた髪。その髪に見え隠れする顔は少年のもので、結構な美形。シイカをじっと見つめる目はアメジストの色。その瞳の中心で、黒い瞳孔が縦に細く裂けていた。
「ひっ……」
怪物はゆっくりとシイカに近づいてきた。シイカは身を固くする。足ががくがくと震えた。恐くてどうしようもなかった。怪物が唸り声を上げると、びくっと体をすくませた。シイカはじりじり後退りするが、後ろの岩にぶち当たった。
シイカに逃げ道はなかった。
美形の怪物は鼻を近づけて、シイカの傷の匂いを嗅いだ。巨大な顔がすぐ近くに迫る。シイカは小さく悲鳴を上げて縮み上がった。
怪物は傷を先の尖った舌でぺろっと舐め、怯えるシイカをじー―っと見つめてきた。シイカはつかの間怖いのも忘れて、相手の目を見つめ返す。鮮やかなアメジストの瞳が静かに向けられていた。
やがて、化け物はシイカから目を離した。人間を丸飲みに出来そうな口をくわっと開く。ズラリと並んだ鋭い牙が見えた。
__これで私は終わるのかな。
シイカはそう思った。ぎゅっと目を閉じて、その瞬間を待つ。
でも、その時はいつまで待ってもやって来なかった。
「……あれ……?」
ジャキンという音が聞こえて、シイカは目を開けた。
怪物が咬み切ったのは、シイカの頭ではなく、彼女の手を縛る鎖だった。
「え……」
化け物はかがみこむと、今度は足に付けられた鎖をくわえる。鎖が切れる音がして、両足が自由になった。
彼(?)は呆然とするシイカに寄って来ると、低く小さな唸り声を上げて、そっと、そっと頭で触れた。初めは何が起こったのか分からず放心していたシイカは、彼がもう1度唸って頭をこすり付けたので我に返った。
シイカは自分に触れている物凄く大きな頭に触れてみたくなった。思い切って、おずおずと触れてみる。一瞬彼の全身がぴくっと動くが、さっきよりもっとすりよってきた。
不思議な気分だったが、もう恐くはなかった。シイカは甘えるようにすりよる彼を、ずっとずっと優しく撫でていた。
朝靄のなかでの、奇妙な出会いだった。
プチッと果物をもぎ、怪物はそれを丸飲みした。シイカもカリカリと果物をかじる。
次々に果物を食べる彼を眺める。日差しを浴びて、彼の雪のように真っ白い毛が輝く。長く美しい毛並みは、光によって虹のように色を変える。まるでオパールみたいだ。
シイカの口が、不意にこんな言葉を紡いでいた。
「ユキノフ」
ん?といった感じで怪物が振り返った。アメジストの目が問いかけている風に見えた。
「ユキノフ」と、シイカは繰り返した。
「それが、今日から君の名前ね。決定。オッケー?」
何言ってるんだろう、と思った。こんなのが人の言葉を理解するわけないのに「オッケー?」なんて。そもそもどっからこんな名前を思い付いたんだろう。う〜ん……。
真っ白な獣は暫く考え込むように唸っていた。そして、満足気な表情になった。その顔は、どこか嬉しそうにも見えた。もしかすると、シイカの言っていることがわかっているのかも知れない。
「君……人の言葉分かるの?」
言葉?とでも言いたげにユキノフは首を傾げた。言葉って、何?そんな様子だ。
でもそれはシイカの気のせいかも知れないので、シイカは適当に笑って手をひらひら振った。
「何でもないよ。動物が人の言葉なんて分かるはずないもんね」まぁ、君が動物と呼べるかどうかは別として。
「ユキノフ」
名前を呼んだら、また、何?という感じで振り向く。それが可愛く見えて、シイカは笑った。ユキノフ、ユキノフと口の中で何度も繰り返す。
いい名前だな、と思った。