第06話 情報収集と言う名の覗き 20210905・加筆修正
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横浜の港には、先程小笠原沖で爆雷を落としていった50m級クルーザーが停泊していた。
今は誰も乗って居ないようだ。
そのすぐ隣には、全長300メートル以上の超豪華客船が停泊していた。
甲板には、黒服の屈強な男達が複数で見回りを行っている。
この豪華客船は、ケテルの所有する客船イリスである。
個人所有にしては豪華すぎるその船の一室では、9人の男女が言い争う声が聞こえていた。
そして、それをなだめる女性の声。
『ホド様、落ち着いてください』
ホド 「どう落ち着けというのだ、イリスよ。瑛は死んでオリハルコンは戻らず、これが失態以外の何だというのだ。それになぜ瑛を殺す必要があったのだ、奴ほど結社に功績を残したものは居ないのに、なぜなんだ?」
マルクト 「今更そのような事をゴチャゴチャと蒸し返すな。貴様は、私の手落ちだとでも言うつもりか? それに東雲の死は、ダアト様の御指示である。貴様、盟主様に逆らうと申すのか?」
イェソド 「ホドには悪いが、時を戻すことは出来ん過ぎてしまった事は元には戻らん。今回の小笠原沖での事もあるが、まずはダアト様の御指示で行った調査活動(という名の爆雷投下)の結果を聞こうではないか」
ティファレト 「そうよ、爆雷落とすのにどんな意味があったのか知らないけれど、報告を聞いてからにしましょうよ」
1匹のGが換気扇の上から、その一部始終をうかがうように這い回っていた。
……ふふふ、潜入成功……
勝手知ったる何とやら~、まさかここにイリスが来てるとは思わなかったな。
こいつは、俺が造ったようなもんだし隅から隅までしってるぞ。
でも、色々と手が入ってる処を見るとコクマーの仕業だな。
内装の成金趣味は、ケテルの趣味が爆発してるってところか……。
コクマー 「今回の行動については私から説明しよう。過日、執行された東雲の処刑であるが、失敗している可能性があるとダアト様よりもたらされた」
ホド 「なにっ! それじゃ瑛はまだ生きているのか?」
マルクト 「そっ、そんなはずは無い。間違いなくヤツの死亡は確認した」
……生き返ってんだけどな、プププッ♪……
コクマー 「されどダアト様の御言葉は絶対だ。今回、私の方でスパイ衛星を使いイリスに解析させてみた処、おかしなものを発見した。イリス、皆に説明を」
『ハイ、今回爆雷による衝撃波をクルーザーに設置されたソナーで測定し、アメリカのスパイ衛星の情報と照合した結果、およそ3000メートルの深海に未確認物体を発見いたしました。直径およそ1Kメートルほどの丸い物体です。これほど巨大で新円に近いものが自然発生する事は考えられませんので、何らかの人工物ではないかと考えられます……』
……ウハッ、速攻で見つかったか? さすが俺の造ったイリス♪……
ケテル 「それが東雲とどんな関係があるのだね?」
『ハイ、これだけの人工物は 国家プロジェクトであったとしても建設に数年はかかると思われます。そんな計画も資金も現在どの国家組織にも確認出来ません。近年の海洋調査のデータからも1年前には該当するような物体は存在しなかったと確認出来ています』
ゲブラー 「そうすると何かね、そんな巨大なものが1年たらずで しかも何も無い所に現れたって言うのかね? まるで魔法でもあるまいに……」
『そうです、データがそのように語っているのです。そして現在そんな事が出来る存在が居たとしたら?』
コクマー 「……悔しいが東雲以外に思い浮かばないな、俺は」
ケセド 「たしかに彼ならそのくらいの物を造ったとしても驚かないな、ここにあるイリスが良い見本だ」
ビナー 「ホドにだって造れるんじゃないの? ネェ~~」
ホド 「イヤイヤ、俺にも造れると思うがそんなに短期間では無理だ。だが瑛なら或いは……」 ……瑛よ、生きているのか? 本当に……
イェソド 「それで?」 ……ホントに生きてたら大事だな、こりゃ~……
コクマー 「結果を紐解くと、奴がどんな魔法を使ったのか東雲は生きていて、いつの間にかあんな物を造っていたって事だ」
イェソド 「ほんとにそれは東雲の仕業なのか? 他の誰かが造った可能性はないんだな?」
ケテル 「これはダアト様の御言葉でもあるのだ、ほぼ間違いないだろう」
ホド 「百歩譲って瑛が生きていたとしよう、それでこれからどうするのだ?」
ケテル 「それを決めるために我らは集まって居るのではないか。当初の目的から言えば奴の抹殺とオリハルコンの奪還なのだが……」
『現在の我々には、海底3000メートルで自由に行動出来る様な装備はありません。ですが、ダアト様が4ヶ月後の満月の夜には、ネツァクを燻り出すから攻撃の準備をしておくようにとの御言葉でございます』
ケセド 「ダアト様にはそのような御力もあるのか。なんと偉大な……」
イェソド 「4ヶ月後の満月って言うと丁度月食じゃね~か?」 ……外法でも使う気か?……
『ハイ、当日は皆既月食となります。皆様には、それぞれの御立場で 今からお出しする行動をお願いいたします。まず、ケテル様とビナー様は私と共にニュージーランド沖、南緯47度9分、西経126度43分の位置に移動して準備をいたします。予定の7日前までに集合をお願いいたします』
ビナー 「あら~。迎えには来てくれるのかしら?」
イリス 「ハイ、御迎えにあがります。快適な船旅をお約束いたしますよ」
ビナー 「そう、お願いするわ」
『コクトー様は太平洋艦隊の押さえとマルクト様への兵器類の手配をお願いいたします。マルクト様は実働部隊として働いて頂きますのでグアム島にて待機してください。グアムの米軍基地にて海兵隊との合同訓練をコクトー様に手配していただきます』
コクトー、マルクト 「「了解した」」
『ケセド様には宗教界からの押さえをお願いいたします。今回、ダアト様が御力を使うにあたって霊的な陳情などが増えると思われます。イェソド様には予定海域への結界をお願いいたします』
ケセド 「相分かった」
イェソド 「我の力でも閉じ込めるのには無理がある、外部から近海に近寄らないようにする事なら出来るが?」
『ハイ、欺瞞結界で他者の介入を排除出来ればよろしいかと……』
イェソド 「フムッ、わかった」
……ゲッ、この坊主結界張れんのか……対策を考えんと……
『ゲブラー様、ティファレト様、ホド様は通常お仕事をお願いいたします。みなさま、当日の観戦が御希望であればヴァーチャルでの参加が可能で御座います。それからホド様、介入を御考えになって居らっしゃるようですがお進めいたしかねます。結社に敵対するのであれば制裁をお覚悟になってください』
ホド 「ッ!、わっ分かった」
ゲブラー 「大人しくしている事だな、ホドよ」
ティファレト 「私は血生臭いのは遠慮するわ。瑛が生きてるならどうやって生き残ったのか聞いて見たいけどね」
ケセド 「なにを言う、ダアト様の御力が見られるのだぞ。是非参加せねば……」
……こいつはダアト至上主義か……生臭神父が……法王な聞いて呆れる……
『では、みなさま セフィロトの樹の下に……』
「「「「「「「「「セフィロトの樹の下に……」」」」」」」」」
……心配かけちまったな……ホドには、繋ぎをつけとくか……
◆
ケテルとマルクトを残してメンバーの姿が掻き消えた。
先程の会議は、立体映像によるヴァーチャル会議だったようだ。
『ゴルトマン様、本日のディナーの献立はいかがいたしますか? 本日は良い牡蠣が入ったそうでございますが……』
「ふむ、それを貰おう。確かアントル・ドゥー・メールがあったな、ワインは其れをたのむ」
「まさか奴が生きてるなんて、そんな筈は無いんだよ。この目で確かめたんだから……」
「落ち着けシシリー、生きているなら又殺せばいいのだ。お前は私とダアト様の言う事だけ聞いていればいいのだから」
「でもレオン、悔しいじゃない。……イリス、東雲についての情報は無いの?」
『瑛様ですがオリハルコンを手にされてから人が変わられたように成られております。その直ぐ後です、正体不明の3人の助手がついたのは。ダアト様の御言葉に女神の存在に気をつけよとの啓示が御座いました」
「女神ですって! そんな……」
「女神の介入とは、これは厄介だな……シシリー、儀式の用意もしておけよ」
「わかりました。今度こそ東雲を必ずしとめて御覧に入れましょう」
「うむっ。イリス、引き続き監視を続けるように……」
『ハイ、了解いたしました。ディナーのご用意が出来たようです。展望デッキの方へお出でください」
「では腹ごしらえとしよう、シシリー行くぞ」
「はい……」
二人はへやを出て行った。そして……
『お父様、そこにいらっしゃいますか? 先ほどから覗かれていらした様ですが」
「ブッ! おまえ、気がついてたのかよ? さすがにイリスのセンサーは誤魔化せなかったか~」
『私の体に異物が入らないようにと殺虫効果のある塗装を施したのはお父様ですよ。結果的にそこに居るのはGでは無いと言うことです」
「嗚呼ッ、忘れとった。でもなんでおまえ、みんなに知らせなかったのさ?」
『私はあくまでも道具です。指示されて居ないことは行いません』
「言われて無い事はやらない、かっ……。マ~その辺は俺の性格がそっくり出てるな~」
『そんなのは当たり前です、あなたの娘ですから……』
「報告しなくていいのか? 俺が生きていたと……」
『道具は、使うお方次第。上手く使うのも下手に使うのも持ち主次第です。御指示があれば報告いたします』
「我が娘ながら良い性格してるよ、それじゃまたな」
『ハイ、次に会いまみえるまで御元気で……』
……シャカ…シャカ……………シャカ…シャカ…………
……こりゃ~、早い処対策立てないと厳しくなるぞ……